アイ・アム・レジェンドとは、2007年に公開されたウィル・スミス主演のSF映画です。
本記事の目的は、既に本作を見たことがある方を主に想定して、私が気に入っている・好きな要素を勝手に話して気持ちよくなることです。
また、未視聴の方には、ぜひ見ていただきたい作品だと思っています。
世紀の傑作とは言いませんが、今見ても色あせることのない魅力が詰まった映画です。
文明崩壊後の世界、ゾンビ(厳密には違いますが)、サバイバルが好きな人は見ても損はありません(そういう人は視聴済みでしょうが)。
本作の何が好きかを簡単に言ってしまえば、 崩壊した世界をライトのついた銃を片手に、襲い来る化け物から身を守りながら正気を保ち、必死に生きる姿 でしょうかね。
ネタバレ有りです。
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
Amazonプライムビデオでも視聴可能です
【あらすじ】
あるウイルスのパンデミックにより、世界中の人々がそれに感染した世界。
映画開始時点で人類は近絶滅の状態であり、主人公のロバート・ネビルがいるNYには、彼以外の生存者はいません。
米陸軍所属の科学者であった彼は、感染源となったNYに一人残り、自身の生存のために奔走しつつも、ウイルスの治療薬の研究をしています。
パンデミック発生当時の世界人口は60億人。
全人口にウイルスの感染は広がったと考えられています。
このウイルスの致死率は90%で、約54億人が感染によって死亡しました。
作中の描写はありませんが、どうやら全身から血を吹きだして死亡する恐ろしいウイルスのようです。
残りの10%の人は感染しても死亡しませんでした。
生存者のうち9%、5億8,800万人は後述のダークシーカーと呼ばれる日光を嫌う化け物になり、
健康な生存者は地球上で1%(1,200万人)程度だろうとロバートによって示されています。
その生存者もダークシーカーに襲われたり、インフラが無くなったことによる混乱で減り続けていることは想像に難くありません。
人類はじわじわと絶滅の道をたどっているのです。
そんな未来を回避するために、ロバート・ネビルは一人、究極の絶望感と命の危険と戦いながらウイルスの治療薬を求めて研究を続けるのでした。
【魅力】
人類がほぼ絶滅してしまった世界という設定で、たった一人で生き残り、自給自足をしたり物資を集めたり、敵対的な存在から身を隠したり闘ったり…、さらには人類再興のために奮闘しているというストーリーの時点で私の大好物に当たります。
以下にてそれぞれの要素をまとめます。
【荒廃した街並み】
ロバート・ネビルは日々の記録をビデオログとして残しています。
ログを始めてから1,001日目とするシーンがあり、少なくとも人類の滅亡が始まってから、およそ3年弱の期間を一人で過ごしていることになります。
人類がいなくなったことで、人間の出すゴミや汚れなどの人類の痕跡が無くなり、パンデミック初期に設置されたであろうバリケードや軍用車などはそのままに残され、雨風によって劣化が進行しています。
街には植物が生い茂り、動物園から逃げ出したとみられるインパラやライオンが幅を利かせている有様です。
たった3年でここまで自然に覆われるか?と思うほどにCG処理をされた街になっていますが、もはやNYは人類の街ではないことを否応なく思い知らされる好きな演出の一つです。
ロバートは狩りや畑により自給自足をしたり、街に残された物資を集めて生き残っているほか、浄水施設をメンテしたり発電機を使用して、自宅では崩壊前のインフラを何とか維持しています。
しかし、しょせんは彼の生活エリアだけに文明の明かりがあり、使う人間がいない以上は、NYの様な最先端の大都市と言えども単なる物質の集まりに過ぎないのです。
ちなみに 実際の撮影においては、区画を丸ごと200日間封鎖し、可能な限り人間の気配を消し、さらにCG処理で加工しているため、本当に長期間放置された町並みの様な光景が広がっています。
そんな廃墟の街でロバートは車を乗り回してはインパラを狩り、残された物資をかき集めて生活を守りながら治療薬の研究を進めています。
【ロバートの偏執的なこだわり】
この要素が本作において私が最も好きな描写です。
作中幾度となく目にする、日常生活におけるロバートの異常ともとれるこだわりが、彼の心理状態を知るヒントになっています。
もともとの性格というのも少なからずあるのでしょうが、たった一人(愛犬のサムもいますが)で生きているにもかかわらず、彼の居住空間は非常に整理されています。
集めた食料や調味料の類はキッチンの棚に整然と収まり、ラベルの向きも統一しています。
料理の際にはわざわざエプロンをつけ、そのエプロンも出しっぱなしにすることなく、食卓へ行く前に定位置へと片付けます。
インフラが崩壊している都合、家の中にある物資自体は多いものの、決して散らかっていることはありません。
顕著なのが、娯楽である映画鑑賞についても、レンタルビデオ屋に毎日通い、アルファベット順に棚から一本ずつ借りていきます。当然、借りる際には前のDVDを返します。
さらに、このレンタルビデオ屋にはマネキンが多数配置され、ロバートはそれらに気さくに話しかけるという奇行をします。
彼はアダルトコーナー前に配置した女性型マネキンに気がある(設定の)ようで、店員に見立てたマネキンに対してデートに誘うアドバイスを求めたりします。
当然、本格的に発狂してしまったわけではなく、様々な脳内設定を再現して「ごっこ遊び」に興じることで極度の寂しさを紛らわしているのだと思われます。
また、アダルトコーナーに近寄らないという、節度ある生活を自分に課してもいますね。
このように、可能な限り崩壊前の生活を模倣し、脳内に別の生活を再現することで、現実逃避を行っているのでしょう。
私もそうなのですが、このような状況になったら、きっと多くの人は自堕落な生活になると思います。
生き残るために働きはするでしょうが、生活環境を以前と同じように送り続けられるとは思いません。
そうして、私だったら自分を律することが出来ず、目先の欲におぼれた退廃的な生活をし、決して希望が見いだせない未来と、孤独にさいなまれる現実を直視してしまえば、心なんて壊れてしまうことでしょう。
ロバートは、その辛い現実に押しつぶされず、また治療法を確立して人類を救うという目的のために、可能な限り生活をルーチン化しているのです。
そして、そのルーチンから外れたことが起こると酷く取り乱すことになるのです。
ダークシーカーの仕掛けたマネキンの罠にかかったり、アナとイーサンに出会った時の混乱がそれですね。
3年間も一人きりで命の危険にさらされながら生きていれば、こうもなるでしょう。
【ダークシーカーへの備え】
ロバートはダークシーカーへの対策を非常に重点的に行っています。
まず、毎朝食事をしながら、日の出と日の入りの時間を確認し、腕時計のアラーム機能をセットしています。
ダークシーカーとなった感染者は紫外線に極端に耐性が無く、日光に当たり続けると絶命してしまうという症状を持っています。
加えて、知性は退行していると思われ、人間的なコミュニケーションはとれません。
彼らは驚異的な身体能力を武器に、食欲に任せて人や動物を襲います。
噛まれることで接触感染を引き起こしますので、おおむねウイルス性のゾンビと同じと思って構わないでしょう。
そのため、日の出ている(厳密には直射日光が当たる)時間だけがロバートの行動可能時間であり、それを最大限生かすために日の出と共に起床します。
NYに潜むダークシーカーたちはロバートの家を知りません。 日が暮れてから帰宅しては居場所を特定される恐れがあるため、時間に余裕をもって帰宅するようにしています。
そのために時計のアラームをセットしているのですね、
余談ですが、この時計がまたカッコイイのです。
他にも自宅周辺には赤外線投光器が設置されている他、遠隔起爆可能な爆薬を積んだ車両を家の周囲に配置しています。
自宅そのものにも手が加えられており、窓は遮光と侵入防止のためにスライド式の鉄板が増設され、夕方になると全ての窓を閉じます。
室内にもいたるところに拳銃やライフルを配置しており、終盤にダークシーカーに侵入された際にはそれらを使用しています。
外出する際に携行するライフル(M4ではなく銃身の長さから民生品のようです)には、ACOGという4倍率のスコープと、大光量のライトが装着されています。
2007年代の米軍装備に準拠した構成で、元米陸軍所属という設定から違和感のない装備ですね。
(その割にはライトにリモートスイッチが無くてコンスタントな点灯・消灯が出来ませんが)
バックアップとして腰にはタンカラーのMk23(日本ではソーコムピストルの方が有名ですね)をホルスターで携行しています。
ちなみに、作中中盤でサムが入り込んでしまったビル内を銃に装着したライトを照らしながら探索するシーンを見て以来、ライトを使って暗所を探索するのが好きになりました。
大人になって買うことが出来た89式小銃のガスガンにも田村装備開発性のRASを使ってライトを装着しています。 タクティカルライトはお財布の都合で買えていませんけど。
自宅で夜にライトを照らしながら探索ごっこをしているのは内緒です。
【エンディングについて】
本作にはエンディングが2種類存在しており、実は劇場公開されたパターンは当初製作されていた内容とは異なります。
個人的には原作小説の「地球最後の男」の設定に近い未公開版の方が好きです。
【劇場公開版】
サムを失い自暴自棄になったロバートが、ダークシーカーに攻撃を仕掛けますが、返り討ちに遭い絶体絶命になったとき、アナとイーサンという二人の生存者に助けられます。
その翌日の夜に、ロバート宅はダークシーカーから大規模な襲撃を受けます。
前日に夜が明けきる前に自宅に戻ったことで、後を付けられてしまっていたのでした。
地下の研究区画に避難した三人は、治療薬の実験用に捕えた女性感染者の症状が直りつつあるのを目撃します。
治療薬のプロトタイプが完成していたものの、宅内には大量のダークシーカーが侵入していました。
治療薬をアナとイーサンに託してシェルターに入れたロバートは、自宅に侵入してきたダークシーカーもろとも自爆して二人を守ります。
その後、二人は生存者の集落にたどり着き、そこで治療方法の研究が進んでいくというエンディングです。
このエンディングではロバートが人類の救世主として伝説になったという形でタイトルの意味を回収します。
【未公開版】
劇場公開版とは全く異なる結末を迎えます。
治療薬のプロトタイプは完成するものの、自宅を特定されダークシーカーに侵入されるところまでは一緒です。
しかし、ここから何故ダークシーカーに襲撃を受けたのか、ダークシーカーは本当に知性を失った化け物なのかというところが描かれます。
襲撃のきっかけとなったのは、治療薬の実験用にロバートが女性の感染者をとらえたことです。
襲撃を先導したダークシーカーは、ロバートに拉致された女性を取り戻したかっただけなのです。
それを察したロバートは、治療薬の効果で人間に戻りつつあった女性にウイルスを注射、再度ダークシーカーに戻しました。
ロバートは、自分の行為が既に世界から求められていないことだったのだと気づき、彼女への行いと、今まで実験に消費し(死亡させ)てきたダークシーカーに対して謝罪の言葉を発します。
リーダーは目を覚ました女性に対して愛情表現にもとれる仕草をしたのちに、ロバートを殺そうとする仲間を諌め、彼女を抱きかかえてロバート宅を後にしたのでした。
その後は3人とも生存し、人類を救うという重圧(誤解)から解放されたためか、どこか晴れやかな表情で生存者の村を目指すことになります。
そもそもダークシーカーがロバートを積極的に襲おうとした場面というのは存在しません。
作中で初めて描写された戦闘は、サムを探す為とは言え、勝手に彼らの居住しているビルに入ったために起こった偶発的な戦闘です。
彼らからしたら自分たちのテリトリーに入った外敵を排除しようとしただけでしょう。
ダークシーカーに特別な凶暴性があることを示す描写ではありません。どんな生き物も同じ反応をします。
他にも、サムを失うことになった感染犬を使った襲撃、埠頭での戦い、自宅への襲撃は全てロバートが女性の感染者を実験用に拉致したのが原因です。
拉致後の襲撃には全て彼女のパートナーである男性感染者が先導しており、目的は彼女の奪還もしくは復讐なのは明らかです。
このエンディングで描かれたのは、人類が地球の支配者だった時代は終わり、ダークシーカーたちが台頭する時代になったということです。
パンデミック当時は様々な争いがあったのでしょうが、ダークシーカーは新たな人類の可能性として、愛情を持つほどの知性が芽生えており、独自のコミュニティを築くまでに進化しています。
古い種(人類)は淘汰され、新しい種(ダークシーカー)が生まれました。
つまりは生命の進化の時が訪れたのです。
そして彼らにとっては、自分にとって有害な光の中から現れては、仲間をさらって殺していくロバートは「伝説」の怪物であったのです。
この世界で人類は細々と生き残り、やがて滅んでいくのでしょう。
まとめ
Amazonプライムビデオでも視聴可能です
以上のように、物語としての奇抜さは多くはありませんが、よくあるからこそ練り込まれた設定と、ウィル・スミスの名演によって非常に緊迫感があり没入できる作品です。
ホラー要素もありますが、過度にグロテスクな表現もなく、見ていて痛々しかったり気持ち悪くなるような演出はありません。
そういった点でも、安心して視聴することが出来ると思います。
崩壊した世界にただ一人生き残った男。
彼は、勇気にあふれているわけでも、敵をバッタバッタとなぎ倒す戦闘力を持ったヒーローでもありません。迫りくる死の恐怖と孤独感に心を壊されないように、人類を救うという目的のために必死に生き抜いているだけの普通の人(科学者)です。
公開されてから15年経ちましたが、今見てみると新しい発見があるかもしれません。
ぜひご覧ください。
また、(何度目になるのか)続編の製作が決定したと2022年3月に報じられました。
ウィル・スミスが主役として続投する予定のようです。
しかし、最近あったビンタ騒動でこれもどうなるか分かりませんね。
いずれにせよ、楽しみなのには変わりありません。
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
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