17人も敵がいるのよ。あなた1人でどうするの?
皆殺しにします。
物騒極まりないこのセリフが頼もしく思える映画はそれほどないでしょう。
この記事では、1998年公開のSFアクション映画
ソルジャー
について解説紹介します。
ストーリー
近未来の某国では、
人間は生まれた瞬間にどのような人生を歩むのかが決められていました。
新生児が並ぶ病院に軍服姿の一団が現れ、
赤ちゃんを選んで連れて行きます。
選ばれた彼らは軍の戦闘員たる
「ソルジャー」
になるべく軍により育てられていきます。
ソルジャーになるための教育は非人道的なもので、
兵士としての戦力になることのみに特化した生活になります。
訓練についていけない者は容赦なく殺処分され、
それを潜り抜けたものが「ソルジャー」となるのです。
中でも主人公のトッドは優秀な戦績を残し、
40歳になる頃には多くの戦争に参加、
数百人に及ぶ敵兵を殺害していました。
彼らは命令に忠実な最強の兵士でしたが、
人間である以上は老いて衰えます。
そんなタイミングで、いかにもイケすかない佇まいのミーカム大佐が登場します。
彼はトッドらを指揮するチャーチ大尉の元に
ニュー・ソルジャー
を見せびらかしにやってきたのでした。
ちなみにミーカム大佐は神経質そうなインテリ指揮官風ですが、
彼を演じたジェイソン・アイザックス氏は本作の3年後に
「ブラックホークダウン」でスティール大尉を演じます。
俳優さんってすごいですね。
閑話休題
トッドらは生まれた直後からソルジャーになるべく育てられました。
しかし、ニュー・ソルジャーは胎芽の段階で遺伝子操作を施されており、
強靭な肉体とより命令に従順な存在として作られていました。
新旧の性能差を競わせる過程での模擬格闘戦で
旧ソルジャーの隊長であるトッドは
ニュー・ソルジャー隊長のケインにより殺害されてしまいます。
その後、ソルジャー部隊はケインらに置き換えられ、
旧ソルジャーたちは予備兵力として事実上の退役となりました。
トッドの死体は、他の廃棄物といっしょにされ、
廃棄物処理惑星に投棄されることになりました。
しかし、トッドは意識を失っていましたが、死亡してはいませんでした。
投下の直前に目を覚ましたトッドは、
大量の廃棄物と共にゴミ捨て場として使われている荒れ果てた惑星に捨てられたのでした。
しかし。その惑星には12年前に墜落事故を起こし
不時着していた難民がコミュニティを築いていました。
彼らに救助されたトッドは一時はコミュニティに受け入れられます。
とある一家と同居する形で生活をしますが、
ソルジャーとして必要なこと以外を全く知らないトッドは、
彼らとの生活になかなか馴染めません。
一家の小さな子供(ネイサン)が毒蛇と遭遇したのを見つけたトッドは、
ブーツで叩き殺せとジェスチャーで教えます。
しかしネイサンは恐怖で動くことができません。
そして蛇がネイサンに飛びかかりますが、
トッドが直前で阻止し、蛇を放り投げてもう一度叩き殺すよう促します。
しかし、それを見た両親は
「ネイサンを殺す気か」
と憤り、コミュニティの議会で彼の追放を進言しました。
パット見た目では子供を危険にさらしているようにも見えます。
この星の過酷な環境で生きられるよう最低限の装備と、
飲食物は定期的に提供すると言われた後に居住地の扉は閉ざされました。
砂嵐を避けられるゴミ山の中で落ち着いたところ、
彼の目からは涙が流れますが、彼はそれにひどく驚きます。
コミュニティでの生活で、
40年にわたる人生で一度も感じたことのない人の温かみを知り
人間性を取り戻しつつあったのです。
翌朝、一家の寝室に忍び込んだ毒蛇をネイサンが殺したのを見て、
両親はトッドに対する誤解に気づきました。
父親が彼の元に赴き非礼を詫びた時、頭上に巨大な宇宙船が飛来しました。
着陸するのを察した父親は大声で自分の存在をアピールしますが、トッドはそれを止めます。
トッドには分かっていました。
あの宇宙船は自分たちが使っていた軍艦であり、中にはソルジャーが乗っていることを。
この軍艦には
ミーカム大佐率いるニューソルジャーと、
雑用係に成り下がった旧ソルジャーたち
が乗っていました。
彼らは定期パトロールの対象として偶々この惑星を選んでいたのです。
軍の認識ではあくまで無人の廃棄物投棄用の惑星であり、
実戦経験のないニューソルジャーの実地訓練にうってつけだと判断されたのです。
トッドの指揮官であり経験豊富なチャーチ大尉は、
万が一難民などの人々がいた場合どうするのかと尋ねます。
それに対してミーカム大佐は、保護も報告も面倒だとして、
もし人を見かければ全て敵だと判断すると言い切っていました。
着陸した軍艦から出てきたニューソルジャーに2人は攻撃されますが
なんとか身を隠します。
しかし、父親は片足が千切れてしまう重傷を負ってしまいました。
なぜ攻撃されたのか。敵と誤認したのかと父親は問います。
それに対して無言で首を振るトッド。
ソルジャーが命令にないことを独断ですることはないと身をもって理解しているのです。
息子を守ってくれと伝えて父親は生き絶えてしまいました。
トッドは急いで居留地に向かいますが、
車両に乗っていたソルジャーたちはひと足先に到着していました。
コミュニティの議長が代表して出迎えますが、
それに対してソルジャーたちは無言で攻撃を開始します。
居留地内の制圧のために3名のソルジャーが武装した上で突入し、住民を皆殺しにしていきます。
居留地側も数少ない旧式の銃で反撃しますが、
最新の防護装備を持ったソルジャーたちは銃弾を弾き返します。
あっという間に血の海と化す居留地で、ネイサンと母親たちも追い詰められます。
そこになんとかトッドが間に合いました。
トッドは天窓を突き破って1人のソルジャーの背後に降り立つと、
頭を上に向かせて首を露出させ、防弾装備に覆われていない首をナイフで掻き切って殺害します。
まともな反撃を想定していなかったソルジャーを次々に無力化していきました。
最終的に攻撃部隊の3人はトッドに一矢報いることすらできず全滅。
その結果、トッドは3人分の最新装備を鹵獲しました。
予想外の反撃に狼狽えるミーカム大佐ですが、
これまた経験豊富なチャーチ大尉からアドバイスを受けます。
一旦部隊を引き上げさせてから、より重装備をさせて再出撃。
安全な距離から砲撃やミサイルで徹底的に攻撃する作戦を立てます。
襲撃の第一波を乗り切った居留地では、遺体を回収したり瓦礫を片付けたりします。
そんな中、殺害したニューソルジャーから鹵獲した装備を準備しているトッドの姿がありました。
ネイサンの母親が夫の死を知り悲しみながらも、
コミュニティを守るためにトッドにみんなを指揮してくれと頼みます。
それに対してトッドは無感情に
「だめです」
と言い放ちます。
「ソルジャーにはソルジャーが」
そこで本記事冒頭のセリフに繋がります。
「17人も敵がいるのよ。あなた1人でどうするの?」
「皆殺しにします」
ここからトッドの怒涛の反撃が始まります。
ソルジャーの戦い方、ひいては元上官のチャーチ大尉の作戦を知り尽くしたトッドは先手を打ちます。
本格的な攻撃を受ければ居留地はひとたまりもありません。
なので、逆にこちらから攻めることにしたのです。
ソルジャーの進行ルートを読み、
先制攻撃を仕掛け、
罠で翻弄し、
地の利を生かして砂嵐で歩兵を皆殺しにしました。
2両いた戦闘車両も1両を鹵獲し、もう1両にぶつけて横転させるという力技で無力化します。
これで全てのソルジャーを倒したかに見えましたが、宿敵と言えるケインのみ生き残っていました。
ケインは横転された車両の運転手をしていたのです。
負傷していたケインは近くで死んでいた味方歩兵のポーチを剥ぎ取ると、
強壮剤を投与し復活を遂げます。
そして、生存者を率いて移動しようとしていたトッドの前に立ちはだかります。
トッドは生存者を逃し、ケインと対峙します。
お互いに銃火器を使い果たしていました。
ケインはナイフを、トッドはそこら辺の廃材を武器に戦います。
格闘戦においては年齢も若く身体能力も優れるケインが終始圧倒します。
しかし、最後の最後に経験の差が露呈し、トッドは現場の状況をうまく活用してケインを撃破します。
全ての隊員を倒されたミーカム大佐は、惑星破壊用の核爆弾を設置してトンズラすることにします。
その爆弾設置の任務を与えられたのは旧ソルジャーたちでした。
出発に際して武器の装備を進言する旧ソルジャー部隊のリーダー(ライリー)に対して指揮官はこう告げます。
「銃を持つのはソルジャーだけ」
「お前たちはもうソルジャーではないから敬礼も必要ない」
そう言われたライリーは今まで生きてきた全てを否定されたかのような戸惑いを見せつつも、
爆弾の設置のために機外へ赴きます。
そこに現れたのは、コミュニティの生存者たち、そしてトッドの姿でした。
トッドは軍のやり口を理解しており、
敵を倒すだけでは惑星ごと破壊される可能性を危惧していたのでしょう。
トッドの姿を認めたライリーたちは敬礼をし、トッドもそれに返礼します。
その頃機内では、ライリーらの帰還を待たずに発信しようとするミーカム大佐に対して
チャーチ大尉が反抗していました。
結果、命令違反と侮辱的な言葉の制裁としてミーカム大佐はチャーチ大尉を射殺します。
その直後、旧ソルジャーが雪崩れ込み、ミーカム大佐と他2名の士官を取り押さえます。
そこにトッドが現れ、無言で顎をしゃくりソルジャーたちに指示を出します。
大佐以下2名の士官たちは船から放り出され、そのまま船は飛び立ってしまいました。
この不毛の惑星に残されたのは大佐たちと起爆間近の惑星破壊爆弾だけです。
なんとか起爆を止めようとしますが、
解除コードを間違えたために彼らは星と共に破壊されてしまいました。
軍艦はソルジャーたちによって運行され、コミュニティの生存者たちは手当を受けていました。
目的地を難民たちが目指していた惑星にするよう指示を出していたトッドの元に、ネイサンが現れます。
そして、無言で両手をあげて「抱っこして」と訴えかけてきます。
それに戸惑いつつも、トッドはネイサンを不器用ながら抱き上げてあげます。
その光景を見て唖然として作業の手が止まるライリーたちですが、さすがはソルジャー。
すぐに自分に与えられた仕事に戻りました。
そして、窓から目的の惑星を指差したトッドとネイサンのカットで物語は幕をおろすのです。
解説
世界観
ソルジャーや軍士官以外の登場人物はほとんど登場しないため、
どのような世界なのかについては推測の域を出ません。
ただ、トッドらが生まれたて国は完全なるディストピアとして描かれています。
軍事政権と思われ、冒頭の病院で赤ん坊の選別をしている際には
看護師たちは辛そうにしつつも受け入れていました。
倫理観も我々の常識とは乖離しており、
軍はソルジャーを人間扱いすることはないようです。
旧ソルジャーの訓練も非人道的ですし、
ニューソルジャーに至っては人間の遺伝子操作を行なっています。
軍とは関わりの薄い難民たちも、蔑ろにすることは無いものの
ソルジャーであるトッドに対して警戒心を解くことが出来ませんでした。
我々の世界の軍人や兵士とは根本的に扱いが異なります。
また、世界情勢の描写は少ないですが、基本的にはかなり物騒な世界のようです。
トッドが訓練を終えた16歳から廃棄される40歳までの間に数十の戦争に投入されています。
また、技術の進歩を目覚ましく、月で戦争をしたり、惑星の植民地化も進めています。
ソルジャーとは
文字通り軍の兵士ではありますが、我々の世界の兵士とは扱いが異なります。
言うなれば、完全な人型の兵器ですね。
ソルジャーは生まれた直後から兵士になるための訓練のみを施されます。
優しさは弱さを招き、弱さは死を招くと徹底して教え込まれます。
人間的な扱いを受けることなく、常に監視されており、
訓練成績が基準に満たない者は殺処分を受けます。
命令に服従することが喜びであり、戦争だけが彼らの友達なのです。
廃棄された後のトッド
難民のコミュニティで生活する中で、
トッドは従来の生活にはなかった「自分の考え」を持つに至りました。
今までの人生で掛けられたことのない思いやりを受け、
彼の中で育まれていなかった人間性が急速に芽生えていきます。
特に、軍艦が襲来してからの彼は、
誰の命令もなく自分で状況を判断し、良心に基づいて行動しているように思えます。
明らかに自分を救い受け入れてくれた集団に対する返報の意識がありました。
ソルジャーとしての感覚で考えれば、
コミュニティが攻撃されたとしても命令にされない以上は駆けつけて戦うことはしません。
居住地やネイサンを救ってという父親のお願いも聞き入れる理由はありません。
それでもトッドはコミュニティのために戦うことに決めたのは、彼の中に人間性が生まれていたという証だと思います。
なぜ旧ソルジャーは上官ではなくトッドに従ったのか
トッドが廃棄されたのちに隊長になったのはライリーという黒人のソルジャーでした。
彼らは上官に従うことだけを考えて生きてきました。
軍艦の中で「もうソルジャーではない」と言われた彼らは、生きる目的を失ってしまいました。
そんな状況で現れたのが、かつての部隊のリーダーだったトッドです。
彼らは服従する相手を見つけることができ、すでに指揮系統から外れたミーカム大佐らを無視したのです。
まあ、考察の域を出ないのですが。
まとめ
人間性を否定されて作り上げられた殺人マシーンが、
人々との生活を経て人間性を取り戻していくという王道とも言える展開です。
劇中で主人公がほとんど喋らないという演出も、
世界観を表す良いスパイスになっていると思います。
人間性を取り戻しつつも、元々ソルジャーとして育てられたトッドは、
敵であるニュー・ソルジャーに対して一切の容赦もなく殺害していきます。
彼の凶暴性は否定できないものですが、それがなければコミュニティは生き残れませんでした。
話し合いの土台を築くことすらできない暴力には、
同じ暴力でしか抗えないという悲しい世界の仕組みも垣間見えます。
コメント