ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり
日本に開いた異世界へのゲート(門)を通り、自衛隊が活躍するファンタジー小説です。
2クールのアニメ化もされ、自衛隊が全面協力して作られた本作は傑作の一つと言えるでしょう。
ちなみにマンガ化もされており、こちらはミリタリー描写がえげつない程細かい「笠尾悟」氏が担当されていることで、凄まじい情報量を誇ります。
Kindleでも読めるのでオススメです。
作者の「柳内たくみ」氏は元自衛官という経歴を持ち、自身の経験も取り入れた自衛隊描写が特徴です。
異世界ものといえば、「なろう系」などで異世界転生ものが流行りましたが、本作(以下、GATE)はそれらとは趣を異にします。
この記事では、GATEという作品が持つ魅力について解説します。
アニメで細かな描写をされる自衛隊というのは珍しいかもしれません。
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ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
いわゆる「異世界もの」とは根本的に異なる。
まず初めに、ゲート作中においては、異世界の存在を日本政府をはじめとした世界各国が認識しています。
異世界に通じる門が東京に開き、異世界の軍勢が侵略してくることから物語は始まります。
前触れのない攻撃で、街にいた住民に多くの死者行方不明者を出しますが、警察及び自衛隊により侵略軍を撃退しました。
門を確保した日本政府は、異世界を「今まで未発見だった日本内の国土」であると解釈し、特別地域(特地)と定めます。
さらに、今回の襲撃は犯罪行為であり、首謀者の逮捕及び補償の要求をするために自衛隊を派遣することになりました。
警察では対処できないため、「治安出動」が適用されたのでしょう。
あくまで国内の問題、犯罪に対応するためという名目を持ち、諸外国からの干渉を防ぐ目論見もありました。
ファンタジー要素が万能ではない。
ファンタジー作品として魔法や亜人、ドラゴンやエルフなどの幻想的な要素が出てきます。
これらの神秘的な存在は物語の重要な要素です。
しかしGATEにおいては、これらは万能なものではありません。
魔法
いわゆる異世界ものでは、魔法はかなり便利な代物として日常生活から戦闘に至るまで重宝される要素です。
しかし、GATEにおいてはそうではありません。
特地にも魔法使いは存在します。
特地における魔法の理屈としては、
「世界の理に外側から干渉することで現実を捻じ曲げ発動するもの」
としています。
ゲームでいうところのチートや裏技といったところでしょうか。
さらに、魔法の使用は才能に依存することが示されています。
つまり、魔力がない者には使えず、仮に魔法の才能があっても適切な教育訓練を受けなければ力を最大限発揮することはできません。
また、特地には魔法の専門的な教育機関もあるものの才能を認められた人材しか受講できないため、魔法使いの数自体も全体の人口比で見れば極めて少ないのです。
最大の特徴として、魔法使いおよび魔法がそれほど強力ではないということが挙げられます。
様々なファンタジー作品では得体の知れない光線や波動を発したり、爆発や様々な体に悪そうな効果を持った攻撃魔法があります。
特地においてもそれらに似た魔法はあるものの、その効果は極めて限定的です。
基本的に有視界においてしか照準できないにも関わらず魔法の発動には詠唱が必要なため即時攻撃には向きません。
さらに射程も短く命中精度も悪いため、特地における一般的な飛び道具である弓矢や投石器などで十分に渡り合えます。
極め付けに魔法使いの数そのものが少ないため、兵士として運用される者は滅多にいません。
アルヌスの丘(特地側での門の出現場所)での自衛隊との戦闘においても、魔法使いの存在は確認されていますが、射程と攻撃力においては脅威にはなりませんでした。
ただし、魔法の持つ能力そのものは非常に強力で、敵を瞬間的に眠らせたり不意打ちをする分には十分な脅威となりますし、第三者が特定の動作をした際に発動する「呪い」も存在します。
主要キャラクターの「レレイ」は日本からもたらされた技術を独自に取り入れた魔法(HEAT弾と同等の理屈)を編み出し、魔法戦闘における新たな技術を確立しました。
まとめると
- 魔法は強力な効果を持つ。
- ただし万能ではなく限定的な運用となる。
- 地球側の科学技術の方が総合的に強力である。
神(亜神)
特地には地球には存在しない様々な力を持った生物が生息しています。
その中でも特地における絶対的な存在として、「神」が挙げられます。
この神は概念的なものではなく、実体として複数が存在します。
生物が太刀打ちできない超常的な力を持ち、自身が受け持つ様々な要素を司ります。
地球の概念である神とは違い、基本的に人間に対して施しをすることはなく、自身の司る物事に関する事象以外は無関心であることが大多数のようです。
神は世界そのものを構成する一部であり、人格は持っているものの人間をはじめとした種族とは異なる思考回路を持ちます。
当然、手違いで人を殺して賠償することもなければ、神にメリットがないのに特定の人物に対してチート能力を授けることも通常はしません。
特地における神の出自は、通常の生物が何かしらのきっかけで変異する形をとります。
主要キャラクターの一人である「ロウリィ」は、もともと人間の少女でした。
死と断罪を司る「エムロイ」という神を信奉する神殿の神官見習いでしたが、何かしらの理由で神になる存在として選ばれました。
ロウリィ曰く、寝ている際に「お前に決めた」とだけ脳内に御信託があった程度で、たいした意味はないのだろうと推測しています。
生き物が神になる段階の一つとして、亜神と呼ばれる状態に移行します。
亜神は年を取ることがなくなり、どんな傷を受けても再生治癒し死ぬことはありません。
この状態で1000年ほど立つと、肉体を捨てて神に昇華するとされます。
人智を超えた時間を神に支えて生きるため、昇華前の亜神の思考回路は常人とはかけ離れていきます。
亜神の時点で特地では最上級の脅威であり、神と同等の存在として畏怖の念を抱かれています。
特にロウリィはエムロイに仕える亜神と紹介しましたが、死と断罪を司るエムロイ教団の神官はハルバート(でっかい斧の様な武器)を使う武闘派として知られます。
亜神となったロウリィもハルバートを得物としますが、神官時代の修行の成果に加えて、強力な治癒力も合わさって作中トップクラスの実力を持ちます。
つまり、圧倒的な再生力を武器に、敵の攻撃を気にする必要がない上に、重たいハルバートを自身の身体が壊れる前提で振るうため人間離れした動きが可能になるのです。
日本を訪れた際に米中露の工作員の襲撃を受けた際は、致命傷(死にはしませんが一時的に身体の機能が落ちる)は避けつつも、複数の銃弾を身体に受けていました。
その状態で巨大なハルバートで切った貼ったの大立ち回りを演じます。
少数の銃だけでは亜神を止めることが出来ないのが分かる描写でした。
とはいえ、亜神も絶対無敵というわけではなく、無力化する方法はあります。
その方法は至ってシンプルで、動けなくしてしまえばOK。
SCP財団に登場する世界オカルト連合が考案した不死者への対処方法と同じですね。
亜神といえども、強力なのはその不死性のみで、肉体の耐久力自体は元と変わりません。
切断も可能ですし酒に酔うこともあります。毒にも回復するまでは通常と同じ反応を示します。
ロウリィも亜神となった頃に、腐敗していた教団上層部の人間に手足を切り落とされて幽閉された経験があります。
他にも、
地中に埋められた状態で身動きできずに1000年を過ごして禍神になってしまった者、
異常者に拘束され獣にハラワタを食われては再生し続けるというオモチャになってしまった者
もいます。
亜神である以上、どんな扱いを受けても、どんな苦痛を受けても死ぬことはありません。
1000年経ち、神になるまで肉体から伝わる快感や苦痛はなくなることはないのです。
まとめると
- 神やそれに準じる亜神は絶大な力を持つ。
- ただし特地に生きる生物に特別な施しをすることはなく自身の役割に専念している。
- 亜神は肉体を持つため世界に直接干渉することができるが、無力化する方法がある。
炎龍
神や亜人に匹敵する脅威で、自然災害として半ば諦められているほどの存在が炎龍(火を吐くドラゴン)です。
100年単位での休眠を行うため日が一は限定的ですが、活動期には敵なしの強さを誇り、特地の技術では太刀打ちができません。
生き物に対して憎悪を抱いているとかそういうことはなく、あくまで捕食対象として人間やエルフを含めた生物全般を襲います。
特地には炎龍の他にも翼竜などの小型の龍が存在し、一部は人間に使役されて乗り物として運用されています。
特地最大の国である帝国軍では、龍騎兵と呼ばれる航空戦力として配備されています。
しかし炎龍はそのいずれよりも巨大かつ強力であり、生態系の頂点に君臨します。
一般的に生息している小型の龍は銃弾で殺傷することが可能ですが、炎龍は50口径のM2重機関銃ですら弾き返すほどの表皮硬度を持ちます。
そんな炎龍も主人公の「伊丹」に目をつけられたのが運の尽きでした。
作中序盤で成り行きから、やむを得ず特地の民間人の避難支援をしていた伊丹ら第三偵察隊が炎龍に遭遇しています。
小銃や重機関銃による射撃を寄せ付けませんでしたが、110mm個人携帯対戦車弾(パンツァーファウスト3)の直撃により片腕を失うという因縁があります。
このことから戦車並みの防御力を誇る、つまり対戦車火器があれば殺傷できるということが分かります。
この事件ののち、特地の避難民に死者が出たことに対して、作中の国会答弁に伊丹らが召喚された際には炎龍を「空飛ぶ戦車」として形容されています。
その後紆余曲折あり、主要キャラクターのエルフである「テュカ」、とあるダークエルフの一族と共に炎龍討伐に向かいます。
結果、レレイの攻撃魔法とパンツァーファウストによる攻撃、C4爆薬による爆破により炎龍を撃破します。
作中では自衛官は伊丹だけ、他は素人の集まりかつ装備が有視界での近接戦用のみという特殊な状況だったために苦戦しましたが、
自衛隊が組織的に駆除に乗り出せばほぼ脅威になることはないでしょう。
その後はとある理由により、自衛隊が帝国の議事堂を爆破し、その跡地に炎龍の首を放置しました。
日本が強大な力を持っていることを帝国のトップを含む特地の人々にアピールする素材となったのです。
基本的に炎龍に狙われれば命はないとされ、特地最大の軍事力を持つ帝国でさえ太刀打ちできない自然災害として認識されています。
それを打ち倒す自衛隊の強さを分かりやすく示す材料になったのでした。
まとめると
- 特地の技術では太刀打ちできない存在。
- 亜神の力を持ってしても撃破できない。
- 地球(自衛隊)の攻撃力なら駆除できる。
特地の避難民に自立を促す。
いわゆる「なろう系」でネタにされる「椅子とテーブルを知らない」「肉を両面焼かない」など、
こちらでは当然の知識を異世界の人は知らないという描写があります。
このネタは極端なものとしても、文化レベルの異なる異世界に対して、我々の知識を授けて進歩させるというのは良くあるシーンでしょう。
GATEにおいても、文化レベル技術レベルの違いは存在します。
しかし、あくまで自衛隊は一時的な滞在であるとのスタンスを崩さないため、現地の文化に必要以上に干渉しません。
日本や日本人に被害が及ばない限りは、たとえ非人道的な行いがあっても特地では普通のことならば積極的に妨害することはありません。
(逆に日本人が拉致され奴隷となっていることを知った際は、帝国の王子が相手であってもボコボコに制裁を加えて救助しています)
アルヌスにおいては序盤に保護した避難民に対して、いつまでも支援できる訳ではないとの考えから自立を促します。
負傷者や老人子供が大半であったために車両や隊員による支援はしますが、現地の慣習に則った商売体系を確立させるまでにとどめています。
その結果、アルヌスに滞在した避難民は商業的に成功し、大規模な街を作るに至りました。
その時点で自衛隊からの積極的な支援はされず、現地通貨を用いて町のサービスを利用することもあります。
まとめると
- 地球側の技術や文明を押し付けることはしない。
- 特地の文化を尊重しつつ必要な分の支援をするに留める。
- 終戦と講和、日本人の保護のため以外には内政に干渉しない。
特地に持ち込む武器装備
ミリタリー色の強い異世界ものは、何かしらの理由により銃火器などの個人装備は最新鋭のものを持っています。
しかし、GATEにおいてはあえて旧式の装備を持ち込んでいます。
その理由としては、不測の事態により急遽日本に撤退することになった際に破棄しても問題ないことと、
得地側の宇宙に人工衛星がないことによりハイテク装備が使用できないことが挙げられています。
現代の武器システムは衛星を介したデータリンクがされていますが、それらが活かせない以上は無駄なコストになります。
他にも、自衛官が携行している小銃も当時の主力小銃の89式ではなく、一つ前の世代の64式小銃となっています。
この理由も上述の通り破棄を前提としたものなのですが、加えて64式は89式に比べてストッピングパワーの高い7.62mm弾を使用しており、オークなどの大型の原生生物に有効と判断されています。
他にも89式の銃剣にはセレーションがあり、特地の兵士が着用している鎖帷子のような防護服に引っかかってしまうという問題もありました。
その点、64式の銃剣はストレートな刃であるため抜き差しがスムーズであるとされています。
これらの説得力のある理由付けがされているのも本作の特徴と言えるでしょう。
ちなみに、自衛隊は武器の管理に世界一厳しい軍事組織とされており、それは特地においても変わりありません。
貸与されている火器の持ち出しや使用に柔軟性がないのです。
しかし、作中で発生した米中露の工作員の襲撃を退けた際に、彼らの持つ武器を鹵獲しています。
それらは書類上は存在しない銃火器として特地に持ち込まれ、非正規作戦に携わる特殊作戦群などの隊員に使い勝手のいい武器として重宝されることになります。
まとめると
- 特地に持ち込む武器装備は破棄を前提にしている。
- 旧式の武器が特地で有効な理由付けをしている。
- 自衛隊という組織が持つ即効性のなさをカバーするための武器を登場させている。
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まとめ
GATEにおいては、自衛隊および地球の科学技術を用いれば特地の国や生物など相手にならないほどの差があります。
ただ、いわゆる「俺tueee!」系ではなく、事態の解決は武力ではなく政治的なアプローチを優先します。
自衛隊による陣地構築の後には、外務省から外交官が派遣され、特地の国々と舌戦を繰り広げます。
主人公の伊丹も、実は優秀?な自衛官ではありますが、絶対的な強さを誇るほどではありません。
あくまで「優秀な」で収まる範囲です。
強さだけでいえば、作中に登場する特殊作戦群(伊丹の古巣)の隊員の方がはるかに上です。
さらに、ストーリーは特地と日本だけの問題にとどまらず、米中露をはじめとした世界各国の思惑によるえげつない妨害工作、
複数の「神」が実在してしまったことによる地球側での宗教的な問題(唯一神を信仰している国など)も取り入れられています。
戦うだけ、知恵を授けて賞賛されるだけのストーリーでは決してなく、どちらかといえばそれらの要素はサブです。
終盤は地球側の政治的な思惑や、特地との外交関係、門が存在することによる世界全体の綻びなど、骨太な要素が根幹となります。
読み応えたっぷりかつ、自衛隊やファンタジー要素が好きな方はぜひご一読いただきたい作品です。
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