銃を取り扱う際の4つのルール
言うまでもなく、銃火器は人間の身体を簡単に破壊し命を奪うことのできる恐ろしい武器です。
とはいえ、いかに強力な破壊力を持っていても、所詮は工業製品の一つであるということを忘れてはいけません。
つまり、人間が使わない限り、勝手に動き回って人や物を傷つける類の脅威ではないということです。
戦争での使用、治安維持での使用、狩りでの使用、スポーツでの使用。
様々な用途で銃は使われていますが、正しく使っている限りは想定した通りの働きをしてくれます。
しかし、リスク管理がしっかりしていない操作をすることで、意図せぬ被害が生まれることがあります。
いわゆる「暴発」(意図せぬ発砲)による被害というのは、人間側のミスでありヒューマンエラーを排除することで、それを防ぐことができるはずです。
この記事では、銃火器を使用する際に厳守すべき4つのルールを解説します。
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暴発とは
フィクションの世界では、銃に使われている機構のいずれかが故障等の機械的なトラブルに見舞われて、射手が想定していない発砲をすることとして表現されることがあります。
しかし、暴発を厳密に定義するならば、「射手の意図しない発砲全て」となります。
つまり、以下のような状況による発砲はすべて暴発になります。
- 銃の機械的な構造に破損が生じて勝手に撃発してしまう。
- 銃を運ぶ際に転倒や力みなどから、引き金に指が掛かってしまい発砲してしまう。
- 早撃ち競技で銃口を標的に向ける前に引き金を引いてしまい自身の脚などを撃ってしまう。
- 遅発(発砲までタイムラグが発生する弾薬の不具合)を、不発と勘違いし想定外のタイミングで発砲してしまう。
- 全自動小銃などを連射しすぎて銃身が熱を帯び、薬室内の実包が自然発火し発砲してしまう。
- ふざけて人に銃を向けて引き金を引いた際に、実は装填されており発砲してしまう。
- オーブンに仕舞っていた銃の存在を忘れて調理を開始し加熱されたことで発砲してしまう。
いくつか冗談のような現象も含まれていますが、すべて実際に起こった暴発事故です。
機械的な「安全装置」は暴発を防ぐ手段の一つではありますが、人間の操作ミス(装填されていないと勘違い、引き金を誤って引いてしまう等)は安全装置では防ぎきることが難しいのが実情です。
ちなみに暴発の危険な要素は発射される弾丸だけではありません。
発射ガスが顔や目にかかって火傷したり傷ついたり、反動による転倒もあります。
銃を安全に取り扱うためのルール
まず初めに、ここでいう「安全」とは、「使用者の想定通りの動作をさせること」を言い、殺傷力・破壊力に関する安全性ではないことをご理解ください。
どのような目的に使用するにも、銃火器の持つ破壊力というのは極めて危険であり、銃という製品は根本的に危険性の非常に高いものであるという認識を持つ必要があります。
上述のような暴発事故を防ぐ最大の要素は、人間側の操作ミスを排除することです。
しかし、人間とはミスをするものです。
どれだけ気を付けていても、急いでいたり緊張していたり興奮していたり(逆に慣れから油断していたり)、銃を使う場面では大なり小なり普段と異なる環境であることが殆どです。
これは戦場でも犯罪現場でも狩場でもスポーツ試合でも射撃場でも変わりません。
ではどうするかと言えば、万が一ミスを犯した際に被害を最小限にすることを基本的な動作として身体に叩き込むしかありません。
ミスが防げないのであれば、万が一ミスをしても大問題にならないようにするのです。
それが、ジェフ・クーパー退役海兵隊大佐の提唱した以下の「4つのルール」です。
- 全ての銃は、常に弾薬が装填されている。 (All guns are always loaded.)
- 銃口は、撃とうとするもの以外に向けてはならない。 (Never let the muzzle cover anything you are not willing to destroy. )
- 標的を狙う瞬間まで、指はトリガーから離しておくこと。 (Keep your finger off the trigger until your sights are on the target. )
- 標的と、その向こうに何があるかとを、常に把握しておくこと。 (Be sure of your target and what is beyond it. )
1.全ての銃は、常に弾薬が装填されている。
このルールはテクニックではなく心がけの要素が大きいため、この考えを常に持てるかどうかが問題となります。
そのため、銃器の使用に関する訓練をうける際には厳しく指導されます。
仮に、自身の持つ銃に弾が全く入っていないと確信をもって判断できる状況下でも、この考えは維持すべきとされるほど重要な事柄です。
銃は一度発砲してしまえば、弾頭は何か(人や物)にぶつかるまで、あるいは運動エネルギーを失うまで何者の制御を受けることもなく飛び続けます。
薬室や弾倉に弾薬が入っていると思っていなかった。
このような勘違いや言い訳は、銃や弾薬には関係ありません。
射手にどのような思惑があろうと(なかろうと)、撃発された以上は破壊力をもって飛び出すのです。
それを止めることも無かったことにすることもできません。
つまり、射手が第一に守るべきなのは、すべての銃は発射可能なものとして取り扱うという基本的な原則です。
自分が手にしている銃がいつでも撃てると考えれば、銃口を覗いたり、傷つけたくない人にふざけて銃口を向けることもないでしょう。
この考えが抜けていると、以降のルールすべてに意味を成さなくなります。
2.銃口は、撃とうとするもの以外に向けてはならない。
銃の有効射程(殺傷力を維持しつつ狙い通りに飛翔する距離)は使用弾薬にもよりますが、拳銃で数十メートル、小銃で数百メートルに及びます。
最大射程(物理的に弾頭が到達する距離)だと、小銃弾で2Kmに及ぶものもあります。
つまり、銃口から前方数十~数百メートル以上のエリアは破壊可能領域となるわけです。
しかし、その銃弾が飛ぶ領域に傷つけたくないものがなければ、発砲しても誰も(何も)傷つけることはないのです。
具体的に言えば、
射撃場であれば、銃を持つときも台において手放すときも標的の方向から銃口を逸らさない。
戦場等であれば自身や友軍の脚を撃ちぬかない地面、あるいは上空に銃口を向けるなどがあります。
ちなみに、上記画像のように銃口を上に向ける状態(ハイレディ)は、地面に向けるより安全性に劣ります。
上空に撃ちだされた弾頭は、当然最大飛翔距離以降は重力に従って落下してきます。
戦場ではそれほど気にすることはないのかもしれませんし、ハイレディを使用する兵士は銃器のプロなので暴発の危険は極めて低いといえます。
しかし、アメリカではパーティーなどで空に向けて銃を撃ち、落ちてきた弾丸で無関係の人が死傷する事故が珍しくありません。
3.標的を狙う瞬間まで、指はトリガーから離しておくこと。
暴発で最も多いのが、意図せず引き金を引いてしまい発砲してしまうケースです。
銃器考証に厚くないフィクション作品では、銃を撃つ場面でないのに引き金に指をかけている描写があります。
フィクションでなくとも、適切な訓練を受けていない射手(民兵や少年兵、マフィアなど)はトリガーガード(用心金)の中に指を入れていることがあります。
銃を発砲する最後かつ最大の動作は、引き金を引くことです。
現代の銃は製品としての安全性は高く、薬室に装填して安全装置を解除していたとしても、何もしなければ発砲されることはほぼありません。
発砲のトリガーになるのは、文字通り引き金(トリガー)なのです。
つまり、引き金を引きさえしなければ銃はただの金属と樹脂と火薬の複合物です。
そんなこと言ったって気を付けれていればいいんだろう、と思う人もいるかもしれません。
しかし、実際には様々な要因で意図せず引き金を引いて暴発する事故が発生します。
例えば転んでしまってうっかり発砲。
例えば誰かとぶつかってうっかり発砲
例えば敵に撃たれて力んでしまいうっかり発砲。
これらのうっかりで人が死ぬのです。
それを防ぐための行為が引き金から指を離すという、最後の安全装置です。
上記画像がわかりやすいかと思います。
トリガーガードから指を出すだけでもいいのですが、もっと言えばその人差し指を上方に挙げて銃のフレームに沿わせたほうがより安全です。
引き金と指の距離が離れるというメリットのほかにも、他者から見てどの方向からでも引き金そのものが見えるので安心感を与えることができます。
4.標的と、その向こうに何があるかを、常に把握しておくこと。
最後のルールは「2.銃口は、撃とうとするもの以外に向けてはならない。」と類似した要素です。
銃弾は大抵の場合完全に狙い通りに飛翔しません。
距離が離れればそれはより顕著です。
つまり、的を外して遥か彼方に飛んで行ってしまう可能性があります。
その先に人や物があれば、弾頭はそれらを破壊します。
では距離が近ければ的を外さないからのかというとそうでもありません。
狙い通り的に命中したとしても、弾薬の種類にもよりますが大概のものを貫通する威力を銃弾は持っています。
そして貫通した銃弾が十分な破壊力を持っていた場合は、その先でぶつかったものを傷つけるのです。
的を貫通した先に傷つけたくないものがないかにも注意が必要です。
まとめ
この記事では銃を取り扱うにあたっての基本的な4つの安全ルールを紹介しました。
日本では民間人の銃所持が厳しく規制されていますので、大半の人にとって実銃を取り扱うことはないと思います。
しかし、銃猟やクレー射撃をする人、警官や自衛官などの公安職の人にとっては身近なものであると思います。
私も自衛隊で初めて小銃を貸与されて以降、銃を使う訓練の際には厳しく指導された経験があります。
当時は初めて手にしたのが64式小銃でしたので、たかだか4Kg程度の鉄と木の塊が人の命を奪い、お前の命を守るのだと、それは大変厳しく言い聞かせられました。
銃を取り扱うに当たっては、訓練を重ねてプロとしての心構えと技術を持つべきだと個人的には考えています。
この記事が具体的に役に立つ方はいないと思います。
銃を日常的に扱う人にとっては当たり前のことであり、今更私がどうこう言うことでもありません。
しかし、銃とは疎遠な暮らしをしている方の知的好奇心を少しでも満たせればうれしいです。
あと、万が一道端で銃を拾った際も、それがオモチャだとタカを括らず、安全に配慮して警察に通報してくださいね。
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