日本に住んでいる限りは滅多に目にする機会もない【銃】という工業製品。
非常に危険な攻撃力を持っており、銃の登場から人間の争い方が変わったほどの武器です。
しかし、工業製品である以上は、人間が自分の意志で使用しない限り単なる金属や木、樹脂の塊に過ぎません。
銃に関しては非常にシンプルな製品であり、使用方法、もっと言えば「してはいけないこと」さえ理解していれば銃を使うことは誰にでも可能です。
昨今のウクライナとロシアの争いにて、何故ウクライナ政府が国民に銃を配り民兵に出来るのか。
世界中の紛争地帯で何故少年兵が戦力としてカウントされているのか。
一つの要因は銃を使う(発砲する)のが非常に簡単だからです。
銃を使えることと戦えることはイコールではありませんが。
この記事は、私の知人が小説を書いている中で、銃の描写にリアリティを出したいと相談を受けたことを発端として執筆しました。
もともとミリタリー好きであり、さらに自衛隊にて小銃(ライフル)の取り扱い訓練を受けた経験を持つ私が、銃についての知識が全くない方向けに非常に簡単に解説します。
この記事は以下の方に役立つと思います。
- 銃の知識は無いが興味のある方。
- 小説や漫画等を製作するうえで銃の描写に説得力を持たせたい方。
(逆に言えば、現職やマニアの方からしたらショボイ内容になっていると思います)
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
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大前提として
誰もが知っているように、銃とは火薬の力を応用して弾頭を発射する工業製品です。
クレー射撃などの競技はもちろん、銃が発達した大きな理由である武器としての殺傷力も当然持ち合わせています。
つまり、とても危険な物です。
万が一、生活している中で銃を見つけたときは決して触らず近寄らず、警察に通報してください。
おもちゃだと思っても、本物である可能性に注意してください。このような事件も起きています。
さらに万が一銃を突きつけられて脅された場合は、決して無駄な抵抗をしないようにしてください。金が目的なら渡してしまいましょう。
人間の身体では銃撃に耐えることは出来ません。
防弾ベストや盾を日常的に身に着けている人はほとんどいないでしょうから。
銃の使い方
最初に述べたように、銃を使う上で最も重要なのは禁忌を冒さないことです。
よって、本記事では「してはいけないこと」 → 「使い方」の順番で解説します。
銃を取り扱う際の前提
銃には常に弾が入っており、発射可能な状態であると想定すること。
人には勘違いという厄介な特性があります。
「弾を抜いたつもり」「装填されていないと思った」という思い違いで、今まで数多の悲しい事故が発生してきました。
自分が持っているもの(銃)は、容易に人を傷つけることが出来る物であると常に認識してください。
うかつに銃を使うことで、人を傷つけて痛みを与えたり死に至らしめるだけでなく、その周りの人にも消えない苦痛を与えることがあると心に刻みつけてください。
してはいけないこと
してはいけないこと①:傷つけたくない方向に銃口を向けない。
弾の種類に寄りますが、銃口から数十メートルから数百メートルの範囲は十分な殺傷力を持って弾頭が飛翔する距離になります。
つまり、射線上に傷つけたくないモノがある場合は、その危険にさらされている状態になります。
銃を手に取るときも、机に置くときも、不用意に銃口を向けないように徹底してください。
弾倉(マガジン)を抜いていても扱いは同じです。
発砲する瞬間までは、以下の手順を徹底してください。
- 銃口を人や物から外す:空や地面(自分や隣の人の足に注意)、射撃場なら的のある方向。
- 弾倉を抜く:大半の銃は本体(薬室)に1発装填されるため、弾倉を抜いても発射は可能。
- ホールドオープンにする:槓桿(ボルト)やスライドを引き切り固定、薬室を露出させて抜弾されていることを周囲から見えるようにする。リボルバーであればスイングアウトする。
銃口さえ常に安全な場所に向けていれば、意図せぬ発砲(暴発)があっても何かを傷つける可能性を低くすることができます。
してはいけないこと②:撃つ瞬間まで引き金に指を掛けない。
銃の操作手順で、発砲のキーになるのは「引き金を引く」という動作です。
正常な銃は、弾丸が装填(薬室に弾が入る)され、引き金を引けば発砲されます。
つまり、引き金を引くまでは、発砲されることは無いはずなのです。
しかし、銃が悪さをしなくても、人間には間違いというものが付き物です。
たとえば引き金に指を掛けた状態で転んでしまったら、その拍子に引き金を引いてしまい意図せぬ発砲が起こります。
ワールド・ウォーZという映画では、その事故が非常に分かりやすく描写されています。
また、プロフェッショナル感を醸し出す演出として、ブラックホークダウンに登場するフート軍曹
は、「基地では安全装置を掛けろ」という指示に対して
「これが安全装置だ」
と人差し指を見せるシーンがあります。
事実、フート軍曹はデルタフォース所属の非常に優秀な隊員であり、彼だからこそ許される(許されませんが)ことなのでしょうね。
暴発という言葉をご存知の方も多いと思います。
一般的にイメージされているような銃の誤作動や故障による発砲だけでなく、引き金を指や木の枝で引いてしまって起こる発砲も暴発に含まれます。
暴発=意図せぬ発砲全般、になります。
そして、銃口管理が正しく行われていないと、自分や他の人、壊したくないモノへ着弾してしまうのです。
さらに、引き金に指がかかっていると、「あいつは撃つ気なのか」「暴発させないだろうか」といった不安を周囲の人に与えてしまいます。
つまり、引き金に掛けないように指を伸ばすだけでは不十分です。
物のはずみで引き金に指がかからないよう、指を引き金より上へあげてフレームに沿わせるようにします。
そうすることで、引き金に指が触れるのを防ぎながら、周囲のどの方向から見ても指が掛かっていないのが見えるようになります。
してはいけないことのまとめ
これだけを徹底して意識していればいいだけです。
- 銃には常に弾が装填されていると考えて扱う。
- 傷つけたくない方向に銃口を決して向けない。
- 撃つ瞬間まで引き金に指を掛けない。
これだけを徹底していれば、事故のほとんどを防げます。
しかし、銃を取り扱うにあたって、
これらの禁忌を冒さないように体に染み込ませるには相応の訓練と時間が必要です。
特に戦闘状況などの高ストレス下でも徹底させるには相当深くまで身体に覚えこませる必要があります。
自衛隊では、これらが自然に出来るようになるまで実弾を用いた銃の運用は避けられ、名物「口鉄砲」が多用されるのです。
「バンバン」と口で叫びながら、大の大人が銃を持って訓練しているのは一見すると滑稽ですが、起こりうるリスクを考えるととても理にかなった訓練だと言えるでしょうね。
使い方
それでは、メインの使い方について解説します。
とはいえ、メインと言いつつも、「銃を撃つ」だけなら難しいことは何一つありません。
銃を把持出来るなら小学生でも発砲させられます。
先ほどの「してはいけないこと」は、言うなれば自動車教習所で最初にブレーキを実践するのと同じです。
ブレーキをマスターしたところで車は運転できませんが、ブレーキが確実にできるようにならないと運転などさせることは出来ないのです。
「してはいけないこと」が確実にできるようになってから実包を用いた訓練に入ります。
とはいえ、実際に銃を扱いながらでないと身に着けるのは難しいと思いますので、確実な不発状態が担保されている状態、それこそ自衛隊の訓練やエアソフトガンなどを用いて身体に染み込ませていきましょう。
ところで、陸上自衛隊も訓練にエアソフトガンを導入していることはご存知でしょうか。
メーカーと協力して、重量やサイズ、重心等をきわめて精工に作り、民間向けにも販売されています。
自衛隊仕様との違いは、発射されるBB弾の威力を規制内に納めていることと、カラーリングのみです。
カラーリングも、自衛隊仕様が実銃とは異なるだけで、民間仕様は実銃と同じ色合いです。
私も持っていますが、とてもよくできたエアガンです。
使い方①:弾倉に弾を込める。
現代火器のほぼすべてには、弾を詰めておく弾倉(マガジン)が存在しています。
それは拳銃であっても小銃であっても変わりません。
たとえば拳銃であれば、グリップの中に弾倉が挿入され、そこから弾を薬室に供給して発射します。
リボルバー(回転式拳銃)あれば、中央のレンコン状の部品が弾倉です。
弾倉に入っている弾の分だけ、連続した発射が可能です。
規定の弾数を弾倉に入れていきます。
使い方②:薬室に装填する。
弾倉を銃本体に挿入します。
この時点では引き金を引いても発射できません。
弾は弾倉内に留まっているので、ボルトやスライドを往復させて、薬室(弾薬を撃発するための空間)に初弾を装填する必要があります。
これは手動で行う必要があるため、スライドをしっかりとつかんで後端まで引き、手を放すことでバネの勢いで前進します。
正常に装填されると撃鉄が起き上がり、引き金を引くだけで発砲が可能です。
自動式の銃の場合は、ホールドオープンの状態で薬室に弾を直接入れることで弾倉が無くても発射可能ですが、使う機会はそうそうないテクニックでしょう。
ちなみにリボルバーではこの動作は必要なく、そのまま「引き金を引く」ことで発射が可能な状態です。
使い方③:銃口を目標に向けて引き金を引く。
銃口管理および、引き金に指を掛けないよう注意しながら、目標に向けて銃を構えます。
銃の上部には照星(フロントサイト)と照門(リアサイト)と呼ばれる照準器がついており、それを合わせることで狙いを付けられます。
そして、狙いが定まったら、引き金を軽く引きます。
銃の内部で撃鉄が落ち、銃弾のお尻にある雷管という小さな爆弾を撃針が叩きます。
そうして雷管の爆発に誘発された装薬が燃焼して弾頭が発射されるのです。
(半)自動火器の場合は、その発射ガスや勢いを利用してスライドを後退させることで次弾を装填します。
ボルトやスライド、排莢口の部品が激しく動作するので、手や顔を使づけないでください。
スライドが後退する際には、空薬莢(撃ち殻)が排出されます。
この空薬莢も高温ですので注意が必要です。
銃口を飛び出た弾丸はそのまま勢いを失うまで、重力の影響を受けながら飛んでいきます。
弾倉内の弾が全て消費されるまでは「使い方①②」の動作は不要で、引き金を引けば次弾が発射されます。
ちなみに、発射機構が全自動(フルオート)の場合は、引き金を引いている間は弾倉内の弾を自動で発射し続けます。
使い方④:弾倉交換、再装填
弾倉内の弾をすべて撃ちきり、さらに続けて発砲する場合は、弾を再装填(使い方①に相当)する必要があります。
自動拳銃や自動小銃の多くは、弾を撃ちきるとスライドやボルトが後退位置で固定されます。
この状態で弾倉を外し、弾を込めた弾倉を入れなおします。
この間は完全に無防備になってしまうため、予備弾倉をあらかじめ準備し携行していることがほとんどです。
新しい弾倉を入れたら、固定を開放するボタンやレバーを押してリリースするか、スライドやボルトを手で引いて放すことで再装填されます(使い方②に相当)。
リボルバーの場合は、発砲時に空薬莢が排出されないため弾倉から抜いて、新しい弾を入れなおします。
その際はスピードローダーと呼ばれる装填補助具を使うとスムーズです。
使い方⑤:撃ち終わったら
これ以降発砲しないという段階になったら、再度銃を安全な状態に戻します。
状況としては2つのケースが考えられます。
この後は撃たない場合
射撃場などでの射撃が終わり、もう片付けるといった段になれば、銃を完全に発砲されない状態にしましょう。
弾倉を抜き、薬室内が空であることを確認します。
具体的にはスライドやボルトを手で引けば薬室が露出します。
もし弾が残っていれば、その際に一緒に排出されます。
注意点として、弾倉が入った状態でスライドを往復させると、排莢はされますが同時に装填もされてしまいます。
なので、念のため2回往復させるようにしましょう。
万が一弾倉を抜き忘れるというポカをしでかしてしまっても、2回目の往復でも排莢されれば気付くことができます。
そうして薬室が空であることを確認したら、引き金を引いて撃鉄を落とします(要銃口管理)。
これでケースにしまえば完全に発砲されない安全な状態にできます。
一時的に撃たないだけの場合
まだ撃つ可能性があるけれど、今は撃たないという場合があります。
車両等での移動時や作戦の伝達を受ける際、出発前の待機時間や敵が近くにいない場合です。
そういった状況で、銃を完全に無力化してしまうと、次に撃つまでに時間がかかってしまいます。
そんな場合には、皆さんご存知の【安全装置】を掛けます。
安全装置とは機械的に引き金を引けない(撃発されない)状態にすることで、暴発を防ぐという物です。
構造上、安全装置は撃鉄が上がっていないと掛けられない機種が多いです。
これのおかげで、薬室に初弾が装填されていても安全に銃を運べます。
それでも何かの不具合というのは起こり得ますので、その際も【してはいけないこと】は徹底してください。
余談ですが、私が訓練を受けていたころの自衛隊では、戦闘を想定していても、撃つその瞬間まで安全装置を掛けるよう訓練していました。
ローレディの姿勢ではア(安全装置)に合わせておき、銃口を上げながら切替軸(セレクター)を回転させて、構えると同時にタ(単発)に合わせて発砲、というプロセスです。
今ではどうなのか分かりませんが、当時は米兵も同じ要領だったので、基本的な安全管理の一環だと思います。
使い方のまとめ
「使い方」は「してはいけないこと」よりも簡単でしょう?
- 初弾を薬室に装填する。
- 引き金を引く。
たったこれだけで、絶大な破壊力を手に入れることができます。
「してはいけないこと」を身に着けていない状態であっても、老若男女問わず、人を簡単に殺傷できる力を与えるものが銃なのです。
だからこそ、この記事でも、実際の銃を取り扱う職業でも、初めに取り組むのは「してはいけないこと」なのです。
まとめ
これで銃の発砲に関わるプロセスはすべて終了です。
ここまで解説してきた内容は、銃を使うにあたっての基本中の基本です。
ここまでを身に着けても、銃を使えるだけであって、銃で戦えるわけでも、競技で活躍できるわけでもありません。
ただ銃を撃つことが出来るだけです。
構え方や狙い方、撃ち方など、銃を上手く扱うにはもっと多岐にわたる技術や知識が必要です。
この記事で紹介した内容は、取扱説明書レベルであり、これまた自動車教習で例えれば、エンジンの掛け方とペダルの意味、ハンドルの切り方を説明した程度の内容でしかありません。
ウインカーやワイパー、ハイビームなどの使用方法や、S字クランクや坂道発進などの応用技術は含まれていません。
とある作品の言葉を借りれば、運転が上手にできたからと言ってレースに勝てるわけではないのです。
しかし、これらの基本が出来ていなければ次のステップに進めません。
こういった基本中の基本を息をするように出来るようになって初めて、銃の持つ性能を最大限に引き出した動きを身に着ける準備が出来たと言っていいでしょう。
銃は所詮は弾を発射するだけの筒であり、人が介在しなけれ、ただの物体です。
それをどう使うかは、我々人間側の問題なのです。
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
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