陸上自衛隊の教育隊では非常にタイトなスケジュールが組まれ、課業後の外出はもちろん、営内(隊員が寝泊まりする隊舎)での行動も厳しく規制されます。
陸上自衛隊としましたが、海空でも同様のはずです。(私は陸の経験しかないため)
もちろん、教育期間が終われば自由度は大幅に向上し、外出も(制限付きとはいえ)許可されますし、営内でもある程度自由に生活ができます。
しかし、教育隊では、言いようによっては人権を制限するような、部隊からの指示に徹底して従う必要があります。
その一つの例が「消灯後のスマホ禁止」でしょうか。
自衛隊はいじめっ子の集団ではありません。
厳しい制限には当然理由があります。
この記事では、教育期間中における消灯後のスマホ(その他よそごと)の禁止と、その理由について解説します。
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消灯後のスマホ使用は厳しく制限されています。
厳密に言えばスマホに限らず、読書も同期との会話も、全てが禁止です。
消灯後に出来ることは三つだけ。
- 眠る
- 大人しく横になる
- トイレに行く
消灯後は寝る時間であり、たとえ自分が眠れなくても動き回ることは許されません。
以下にその理由を解説いたします。
職務的な観点
日本は特殊な事情から軍隊を持っていません。
代替の防衛戦力として陸海空の自衛隊を持っています。
しかし、そう思っているのは日本だけであり、海外から見れば自衛隊は日本軍であり、保有する機能もほぼ同じです。
敵地作戦能力が無いだけで、世界的に見ても軍隊としての要件を満たしています。
そして、言うまでもなく軍の使命は国を守ることです。
24時間365日休むことなくです。
つまり自衛隊戦力の最小単位である自衛官も24時間体制で働くことが求められます。
もちろん、個人が24時間働けという意味ではなく、適切な休養を取りローテーションをしつつ自衛隊という組織を最大効率で動かし続けるという意味です。
そうなってくると、眠るべき時に眠らないというのは命令の不服従であり、極論ですが敵前逃亡と同じ領域の問題となってきます。
訓練するときは訓練する、休憩時間はしっかり休養を取る、消灯後は睡眠で疲れを取る。
訓練中にサボり、休憩中に騒ぎまくり、夜は眠らないおかげで、いざという時に力が出ませんなどというマヌケなことはあり得ません。
全て意味のある行為であり、消灯後に眠れないからと携帯をいじったりするのは許されていないのです。
他の人の睡眠を妨げてしまう可能性もありますからね。
実際に入隊すると多くの人が言われると思いますが「初めのうちは眠れないだろうが、目を瞑って横になっているだけでも疲れが取れる」と班長に言われます。
要するに動き回るなということですね。
税金的な観点
自衛隊は税金で運用されています。
さらに、一般的な公務員と特に違うのは、自衛官の衣食住全てが国(税金)から提供されているということです。
厳密には「衣」に関しては戦闘服と半長靴を支給はされますが、下着や普段着は自腹です。
戦闘服についてもPX(駐屯地内の売店)等で民生品を着用することが多くなると思いますので、完全に衣服について支給されているわけではありません。
とは言え、生活に必要なものの大半が官給品であることに違いはありません。
そして営内に居住していれば税金で運営されている隊舎に住むことになります。
何が言いたいかというと、自衛官の生活のほとんどすべてのタイミングで税金が消費されているということです。
新隊員が住む隊舎も、眠るベッドも税金で作られ維持されています。
つまり、消灯時間は眠り休息を取るための時間であり、スマホやよそ事をするために税金が使用されているわけではないのです。
そういった意味からも、自身の立場を身体に染み込ませるために、非常に厳しく管理されています。
消灯後にスマホをいじっているのがばれたらどうなるのか。
そうはいってもバレなきゃ別にいいだろ。
そう考える困ったちゃんもいることでしょう。
だいたい、どの期にも一人はいるものです。
しかし、班長達はそういった困ったちゃんをあぶりだすプロです。
誰かが携帯をいじっていた場合
たとえば貴方が自分のベッドの中でスヤスヤ眠っていたとしましょう。
明日の訓練に備えて、酷使された身体も心も休息を取っています。
起床ラッパに叩き起こされるまで、たっぷり数時間は残っています。
そんな静まり返った深夜に、突然の怒鳴り声で無理やり目を覚まさせられました。
そして間髪入れずに舎前への集合を命じられます。それも朝と同じく戦闘服に着替えて。
消灯時間後に許可なく携帯を触っていた者がいることと、それに伴う説教を受けます。
しかしここは自衛隊。説教だけで終わることはありません。
始まる反省「腕立て伏せ」
皆が腕立てをしている中、班長の隣には携帯で遊んでいた野郎が立たされています。
(最近はこういう吊るし上げは減ったと聞きます)
彼は腕立てを命じられていません。ただ立っているだけです。
自分のせいで同期全員が深夜に起こされて腕立て伏せをさせられているのをただ見ているだけという、その立場がどれほど辛いことでしょうか。
しかし、何もしていないのに深夜に叩き起こされて腕立てをさせられている貴方たちの方がよほど辛いですよね。
そして班長の気が済むまでたっぷりと腕立てをしたのちに解散を命じられベッドに戻るのです。
貴方の身体は腕立てのおかげで目覚めてしまい、脳は馬鹿野郎に対する憤怒で燃えているため中々眠れないでしょう。
それでも寝なければ、疲れたまま朝が来てしまうのです。
翌日にはその馬鹿野郎は謝罪行脚に奔走するか、不貞腐れてそのまま嫌われ者になるか、嫌われたことに耐え切れず辞めていくかですね。
あなたが携帯をいじっていた場合
夜間も当直班長の見回りは実施されます。
班長も宿直室で仮眠を取ったりはしますが、基本的には異常がないかの見回りが欠かされることはありません。
ここでいう異常というのは、火の元水回りはもちろん、班員の健康状態、ちゃんと寝ているかという点に至るまで多岐にわたります。
貴方はベッドの中で携帯を握りしめています。
廊下を歩く班長の足音に耳を澄ませ、部屋の前までくれば扉を開けられるまでに画面をオフにして寝たふりをします。
そして班長が立ち去った足音を確認したのちに、再度携帯に目を向けます。
ディスプレイには質素な自衛隊生活では得られない面白い情報がたくさん表示されています。
めまぐるしく流れる楽しい情報に意識が傾きかけたその瞬間、扉が急に開け放たれ、鬼の形相の班長が迫ってきました。
さっき確かに立ち去った音がしたのに何故!?
貴方の頭はしまったという気持ちと疑問で満たされますが、身体はベッドから引きずり出されます。
毎年のように新隊員を受け持つ歴戦の猛者であれば、班員の気が緩むのはいつ頃からかも検討がついています。
そして、雰囲気からよそ事をしている者がいることにも気づくそうです。
そういう時は、わざと足音を消して戻り、様子をうかがうのです。
その罠にまんまとかかってしまった貴方は上述のような仕打ちを同期全員に受けさせることになるのです。
その後の対応をどうするかは貴方次第です。
まとめ
自衛隊といえどもスマホが全く触れなかったり娯楽がないわけではありません。
自由時間にはもちろん、ある程度は好きなこともできますし、それには携帯の操作も含まれます。
やるべきことができているのであれば、入隊初期はともかく、とやかく言われることはありません。
しかし、上述の通り、自衛官というのはただのサラリーマンではないのです。
与えられた使命の重さ、自分達がもらう給料や生活環境が血税でできていることを考えれば、教育隊においてそれらの重要性を身につけさせるために厳しい指導が行われるのは当然なのです。
ときには厳しすぎると感じることもあるでしょう。
権利の侵害だと憤ることもあるでしょう。
そんな時は自衛隊という仕事がどういうものなのかを思い出してください。
国や国民を守るというのは、災害派遣にとどまる話ではありません。
自衛隊の主たる任務は国防です。
つまり、有事の際には侵略者に対して防衛戦闘を展開するのがメインの仕事です。
それがどういうことなのかわかりますか?
場合によっては敵といえども人間を殺さなければいけないということです。
そんな重要な使命を持った自衛隊という職業が、一般の公務員や会社員と同じ心構えで務まるわけがないというのを忘れないでください。
決して意味もなく新人いびりで厳しい制限を課しているわけではありません。
教育期間というのは(残念ながら)自衛隊において最も手厚く気を配られ、最も充実した教育を受けられる環境です。
何故厳しいことを言われているのかという理由にまで思いを巡らせ、腹落ちさせてしっかりと精錬してください。
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