日本が保有する国防組織
自衛隊
自衛官といえば、日々厳しい訓練を積んでおり、泥だらけ汗まみれになると連想する方も多いでしょう。
実際、そういった職種(陸自の戦闘職種や海自空自の警備など)については間違ったイメージではありません。
では、そんな彼らはいつも汚れた格好をしているのかと言えば、そんなことは全くないことをご存じですか?
むしろ、異常なまでに統制された小奇麗な格好をしているのです。
この記事では、自衛隊入隊直後から指導される「自衛隊が見栄えを重視する理由」について解説します。
自衛隊(軍)は見栄を重視する。

何も自衛隊に限った話ではありませんが、諸外国の軍隊を含めた国防組織というのは見栄を非常に重視します。
その理由は単純で、強そうに見えることが国防における大前提だからです。
端正な身だしなみと統制された行動は強い軍隊における初めの一歩です。
これはつまり、指揮系統がしっかりしており、各個人の気力が充実した軍隊は「強いだろう」と敵国に思わせる戦略です。
平時からヨレヨレの戦闘服に泥だらけの半長靴、整列したらバラバラであっては、弱そうに見えるのは必然です。
つまり、敵国からは舐められ、国防の理想である「戦争を抑止する力」がないことを示します。
そんな軍隊も戦ってみたら意外と強いかもしれませんが、戦わないことが最善という基準から考えれば失格です。
軍隊が戦うのは最後の手段です。いわゆる「鞘のうち」ですね。
そのため、自衛隊に入隊した新隊員が最初に教わるのは戦い方ではなく「裁縫」「靴磨き」「アイロンがけ」「歩き方」「敬礼」なのです。
それぞれを細かく見ていきましょう
ちなみに、以降の話は自衛官候補生、一般曹候補生として(昔の二士)入隊した際の流れです。
幹部候補生もそうは変わらないとは思いますが、経験したことがありません。
お裁縫

自衛官は、戦闘服一式を官給品として支給されます。
部隊配属後はPX(売店)などでノンアイロンの戦闘服を買ったりできますが、初めの初めは官給品スタートです。
実は、駐屯地に入営してから入隊式までは数日の猶予があります。
その間に超基本的な教育を受けるのですが、初日に多くの卵たちを悩ませるのが「裁縫」です。
階級章と名札を所定の位置に縫い付けるのが一番最初の自衛官としての仕事になります。
(今は自衛官候補生章という徽章みたいですね)
これがまた難しいのです。
そもそも裁縫に長けた人は少ないでしょう。
さらに、戦闘服も階級章も名札もゴツイ生地で作られており、そもそも針を貫通させるのも一苦労です。
ちなみに、生地がどのくらい固いかと言いますと、針を持つ指のほうに穴が開きそうになる程度です。
針の尻が食い込んで痛いのなんの。
指サックはあったほうがいいですよ
そんな縫いにくいものを「mm単位」で定められた位置に縫いつける必要があります。
さらにさらに、まつり縫いをするのですが、糸のピッチも定められているという厳格さです。
場所がずれていたり縫い跡がガタガタだったりすると、班長が容赦なく引き剥がしてやり直しです。
しかし安心してください。
この時点ではまだまだ時間はたっぷりありますので、合格するまで終わりませんし終われません。
絶対に完成します。
ちなみに支給される戦闘服は2着です。気を確かに頑張ってください。
靴磨き

戦闘服と一緒に「半長靴」と呼ばれるブーツも支給されます。
当然新品が支給されるのですが、生まれたての半長靴は完璧ではありません。
待っているのは「靴磨き」です。
半長靴のつま先部分は一枚革の牛革で出来ているのですが、ここを鏡のようになるまで磨きます。
ちなみに「鏡のよう」とは比喩表現ではなく、本当に顔が映るまでピカピカにします。
大まかな顔つきや髪形くらいは普通に判別できます。
この作業は裁縫とは異なり、毎日行うことになるので、慣れてしまえばそれほど時間はかかりません。
しかし、最初はとんでもない時間を費やすことになります。
この「キウイ」という靴墨を何度投げ捨てようと思ったことか…
使用されている革はシボ加工がされており、よく見ると細かいシワシワになっています。
そのシワの間に靴墨を塗り込み、そしてシワを潰すように磨いていきます。
その際にも様々なコツがあり、ライターで墨をあぶるとか、ストッキングを使うとか、唾液を混ぜるとかいろいろな話を聞けると思います。
余談も余談ですが、女性用ストッキングを買うのが恥ずかしいと思う人が大多数だと思います。
そういう人は彼女に貰っておいて持ち込むと良いです。
え? 彼女がいない?
じゃあお母さんにお願いしてください。私はお母さんに買ってもらいましたよ。
まあ無難な入手先としては通販ですかね。
事情を説明すれば親に受け取られても問題ないでしょう。
そうして試行錯誤して出来上がった鏡面加工の施されたつま先は、世界を映す鏡となるのです。
ちなみに、一度ピカピカに磨いてしまえば、日々のメンテナンスはかなり楽になります。
さらにちなみにですが、部隊配属後は官品の半長靴は磨いたらしまっておき、式典以外には履かないというテクニックがあります。
アイロンがけ
「剃刀プレス」という言葉を聞いたことはありますか?
これは自衛隊内で言われるスラングで、アイロンをかけた戦闘服の折り目が剃刀のように鋭くなっていることを指します。
つまり、折り目正しくアイロン(プレス)がけをすることで、エッジの利いた折り目を戦闘服に与えることができるのです。
自衛隊でのプレスは、シワを伸ばすだけにとどまりません。
全てが直線的になるまで徹底的にプレスを仕込まれます。
ちなみに、上述の鏡面加工の施されたような半長靴と合わせて、
「半長靴を鏡にして、服の折り目で髭を剃れるようにしろ」とよく言われました。
そんなん無理だろ、と思いますが、班長達の本気の戦闘服と半長靴は、あながち大げさではないのだということを思い知らされる出来です。
言うまでもなく、本当に髭を剃れたりはしませんけれど。
部隊配属後はそこまで厳しく指導されることはありませんし、レプリカのノンアイロン戦闘服が買えるようになるので、プレスにかける時間は減ると思います。
しかし、一度身に着けた技術というのは衰えないもので、一般のサラリーマンに比べたらアイロンがけが丁寧です。
歩き方

見る人が見れば、自衛官は歩き方で判別が可能です。
姿勢よく、一定の歩幅で、歩くときは左足から前に出します。
街中でそういった歩き方の集団がいれば十中八九自衛官(オフの姿)でしょう。
入隊式まで、空いた時間で延々と歩き方の練習をします。
教育期間中は、駐屯地での生活において一人行動という贅沢はありません。
最低でも、常に二人一組以上で行動し、歩調を合わせて歩くよう指導されます。
そんな生活をしているうちに、自然と周りの人と歩調が合うようになるのです。
敬礼

これも有名な話ですが、日本の敬礼は大きく分けて「着帽時」と「脱帽時」の二通りがあります。
右手を挙げてオデコの前で斜めに構える「いわゆる敬礼」は帽子やテッパチ(ヘルメット)を被っているときのみの作法です。
一挙動で右手を動かし正しい位置で敬礼できるようになるまで何度も練習します。
これも腕の角度が決まっていたり、指先が眉毛の前に掛かるように、等いろいろと決まっています。
対して、何も被っていない脱帽時は、「お辞儀」をします。
10°の敬礼と呼ばれるのですが、これも一挙動でビシッと10°頭を下げます。
これ以外に、国旗や天皇陛下など最上位に対して行う際は40°の敬礼を行いますが、基本的に屋外での自衛官は着帽するので滅多に行うことはありません。
ちなみに銃を持った状態での敬礼もあり、基本教練では「立て筒」「担え筒」の時に行いますが、ここでは割愛します。
その他

他にも、自衛官として最初に教わることは多くありますが、そのほとんどが日常生活における動きに起因しています。
例えば、行進時の号令や、「休め」や「整列休め」、「かしら中・右・左」など部隊行動の基礎中の基礎から、ベッドメイクや営内の掃除など、極めて初歩的なことを教わります。
個人的にはベッドメイクとかプレスが訓練よりも苦手でした。
特にプレスにはいい思い出がありません。
興味がありましたら、以下の記事をご覧ください。
まとめ

自衛隊の使命は国防であり、自衛官の任務は国を守るために身を挺して戦うことです。
そんな彼らが最初に習うのが、戦い方ではなく見栄えを良くする方法なのです。
これは、国防において最も重要な抑止力を得るためです。
実際に戦うことなく、相手に戦意を持たせないのが最善なのです。そうすれば誰も血を流さずに済みますから。
そういった意味もあり、自衛隊を始めとした各国の軍事組織では、徹底した基本教練を行うのです。
実は弱かったとしても、強そうに見えれば喧嘩を売られることはないですからね。
しかし、いざというときに戦えないのでは困りますから、実力行使をできるような訓練も欠かさず行っているのは言うまでもありません。
こういった理由から、自衛隊では見栄え重視の教育を行っているのです。
(個人的には半長靴を鏡みたいに磨くのとかはやりすぎだとは思いますが…)
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