自衛隊の教育隊では民間では味わえない体験を多数することになります。
銃の取り扱いから戦闘訓練、分単位で指定された行動の制限。
それらの中でも私の記憶に強く残っていることの一つが、
催涙ガス体験です。
自衛隊に入隊したら必ず経験することになる催涙ガスについて思い出を書いていきます
※10年ほど前の話なのでいわゆる00式の装備でした。今は18式ですね。
催涙ガス訓練の目的
ガス訓練といわれることが多いですが、実際には特殊武器防護訓練となります。
特殊武器とはNBC(核・生物・化学)兵器を意味する言葉です。
そのもっとも初歩的な装備が防護マスクであり、すべての隊員がその扱いに習熟する必要があります。
防護マスクとは所謂ガスマスクで、有害物質を濾過するためのフィルターが詰まった缶が特徴的なアレです。
防護マスクの装着訓練を行い、その最終段階として催涙ガスの充満した天幕(テント)に班員でそろって入場します。
その中で防護マスクの効果を確かめます。
効果を確かめる以上、マスクなしの状況を知らなければなりません。
そのために、天幕の中でマスクを外して催涙ガスに暴露するわけです。
催涙ガスの効果

さてこの催涙ガスですが、体験したことがある人は分かるでしょうが、とても普段通りの行動ができるものではありません。
フィクションの世界では「くそ!催涙ガスだ!」みたいなことを言いながら動き続けていますが、あれを食らった直後から目や鼻、呼吸器系に鋭い痛みが走ります。
そして、脱水症状になるんじゃないかと思うほどに涙と鼻水が分泌されます。
誇張ではなく、鼻水は途切れることなく地面に垂れるほどです。
一度咳込んでしまうと、その反動でガスをさらに吸い込み、さらにさらに咳込んでしまうという負の連鎖が待っています。
そのため、どんなに苦しくても呼吸は最小限にし、粘膜を保護するために目や鼻を決してこすってはいけません。
訓練の思い出

私がマスクを装面してから催涙ガスの充満する天幕に入って感じたことは
「南天のど飴みたいなに匂いがする」
でした。
若者が食べているイメージはあまりありませんが、私の祖母はよく缶に入った南天のど飴を食べていたのをその時に思い出しました。
ちなみにマスクの効果は、当たり前ですがてきめんでして、匂いはすれども目や鼻に異常はありませんでした。
もうもうと煙が充満しているその天幕の中で、いよいよマスクを外します。
班長の号令でみんな揃ってマスクを外しました。
うわ、煙いなーと思ったその0.5秒後に上記の症状に襲われます。
そんな中で、自己紹介をさせられたり「同期の桜」を歌わせられたりと存分に催涙ガスの効果を体験させられます。
悲鳴なのか歌なのかわからない大騒ぎが展開されていました。
その間も、決して目をこすってはいけないことだけ繰り返し伝えられます。
そして持ち時間が終わると全員で一列になり、前の仲間の肩をつかんで出口から外に出るわけですね。
そこであらかじめ用意していた入浴時に使用する洗面器にためておいた水で顔を洗います。
その間、班長はホースで放水をしており、必要に応じて水を新しくしたり頭からかけてもらっていたものです。
その後、いったん営内に戻り、着用していた戦闘服の洗濯をします。
ガスが染みついており、そのまま使うことはできませんからね。
ちなみに
この訓練で使用されるガスですが、本物の催涙ガスではなく、催涙線香と呼ばれるお線香に火をつけて発生するガスになります。
兵器としての催涙ガスに比べて効果は半減以下になっていると班長に聞きました。
つまり、実戦で使用される催涙ガスはあの地獄の空間より悲惨になるということです。
それでも効果は抜群で、肌の弱い人は湿疹が出ますし、咳込んでしまい呼吸ができなくなって外に引きずり出される人もいました。
しかしある程度は慣れるそうで、恐るべきことに天幕の中で線香を炊いていた区隊長はマスクなしで平然としていましたし、引率の各班長も私たちよりつらくなさそうでした。
涙と鼻水はすごいことになっていましたが…。
まとめ
陸海空問わず、自衛隊の新隊員教育でガス訓練は体験することになると思います。
身をもってガスの恐ろしさを知ることで、防護マスクの重要性が理解できます。
装着訓練は「状況、ガス!」という号令と共に何度も同じ動きを繰り返して、規定時間内に装面できるようにするという退屈なものですが、それを怠った際の被害を知ることは大切です。
あれを知っていればさぼることはないでしょうから。
ちなみに余談も余談ですが、実戦でガス攻撃に気付いた際は「ガス!」とのみ叫べばよく、「状況」は訓練の時のみ使います。
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