皆さんは二層式洗濯機という物をご存知でしょうか。
私も世代ではなく、祖父母の家で見たことがあるだけの旧式の洗濯機です。
選択と脱水をそれぞれ別の層で行うもので、
現在ではどちらも自動で一つの層で行うのが主流であり、
普通に過ごしていれば死ぬまで見ることが無くでも不思議ではありません。
しかし、自衛隊の教育隊では未だに主力洗濯機として新隊員の衣服の洗浄を一手に引き受けているのです。
本記事では教育隊時代の洗濯機の思い出についてお話しします。
こんな人にお勧めの記事です。
- これから自衛隊に入る人で、細かな生活体験談まで予め知っておきたい人
- 二層式洗濯機が好きな人
【注意】
私が教育隊にいたのは2010年のことですので、現在とは違っているかもしれません。
もしかしたら最新の洗濯機に更新されているのかもしれませんが、ご了承ください。
自衛隊の高い自己完結能力は身の回りのことから

自衛隊は高い自己完結性を持った組織であり、
ほぼ全てのことを自衛隊内で対応できます。
戦争を含めた有事を想定した唯一の組織であり、
そのような状況では、民間を含め他組織の援助を必要としない機能が求められます。
結果、
自衛隊に無いのは床屋と葬儀屋
と言われるほどに何でも屋さんと化しているのです。
その「何でも」の出発点は、各隊員の身の回りのことから始まります。
炊事洗濯掃除など、通常の家事の大半を自分たちで行います。
(最近は食堂についてはアウトソーシング化が進んでいますが)
特に教育隊ではそれが徹底しており、教育期間中は営内で生活し、外出も自由には出来ません。
必然的に自分たちでやらざるを得なくなり、家事に精通していくのです。
当然、洗濯も自分でします

最初にお話ししました通り、
自衛隊(教育隊)では二層式洗濯機を使用していました。
その理由は三つあります。
1.強力な洗浄力

なかなか実感する機会はありませんでしたが、
一般的には二層式洗濯機の洗浄力は強力とされています。
自衛官の訓練というのは世間一般のイメージ通り、
泥だらけになることも珍しくなく、
そのまま1日以上着続けることもあります。
そういった頑固な汚れのついた戦闘服を綺麗にしてくれるのが二層式洗濯機というわけです。
2.シンプルな構造で頑丈だから

全自動洗濯機に比べて構造がシンプルな二層式洗濯機は、
壊れにくいという特徴があります。
また、シンプルがゆえに、壊れた際の修理も簡単(安価)でもあります。
1.で述べたように泥やらなんやらがたくさんついた戦闘服を洗えば、当然洗濯機も汚れます。
二層式ならば洗浄力の高い粉洗剤でもキチンと溶け、洗濯物に残ることもありませんでした。
(本当にボロくて今にも壊れそうな子は液体洗剤推奨でしたが)
一般家庭の洗濯物とは性質が違う自衛隊での生活では、二層式洗濯機の強みが活かされるのです。
3.更新するお金が無いから

2.とも少し絡んでくるのですが、
そもそも防衛費がギリギリに切り詰められている自衛隊には
古くなっただけの生活用品を更新するだけの予算がありません。
そのため、いつ買ったか分からないような、
今まで数多の新隊員の衣服を洗ってきた猛者が洗濯室には並んでいます。
最初に見たときはあまりの古さに驚きました。
7セグメントの表示すらなく、あるのはいくつかのボタンとツマミだけ。
それでも使用に耐えるのですから、さすがでした。
二層式洗濯機の使い勝手について

私は学生のころに親の手伝いで洗濯をしたことはありますが、
当然二層式なんて使ったことはありませんでした。
班長に「最近の若いやつは」と言われながら使い方を教えてもらい、毎日洗濯していました。
使い慣れてくると確かに買い替えは不要だなと思えるほどによく働いてくれましたし、
むしろこっちの方が便利なんじゃないかとさえ思いました。
便利なこと① 使用方法が分かりやすい

上記でも少しお話ししましたが、使っていた洗濯機にはボタンとツマミが幾つかあるだけでした。
その内訳は、「電源」「洗濯or脱水」「タイマー」だけでした。
一度使い方を教われば忘れないほどにシンプルです。
全自動洗濯機のようにボタンを何度も押してモードを切り替え、
複数ある洗い方から選ぶなどの手間なく使用できるのです。
また、洗剤や柔軟剤を入れる場所もありましたが、適当に庫内にぶちまければ混ざってくれるのでそれほど気にしていませんでした。
洗濯の際も「どうせ汚れるからいい香りにする必要はない。臭くなければいい」と酵素系漂白剤をよく使っていました。
常に時間に追われクソ忙しい教育隊では、このシンプルさは非常に助かりました。
便利なこと②

すぐに脱水だけすることができる点は便利でした。
全自動洗濯機も脱水機能はありますが、モード選択の簡便さが段違いでした。
脱水の方にレバーを動かし、適当な時間にタイマーを回すだけ。
これで遠心力に身を任せていれば洗濯物は脱水されます。
特に、下着として着用していた速乾性の迷彩シャツは、脱水すれば干す必要はないほどです。
夏場に汗をかいたら水道でシャツを水洗いして、脱水機で回す。
もちろん洗濯した方がきれいにはなりますが、その日着る分にはさっぱりして気持ちよかったです。
必需品は洗濯ネットです。

自衛隊の洗濯という視点から言って、必ず持っていくべきものがあります。
それは洗濯ネットです。
洗濯機は営内班に1台もないため、
2〜3班で1台の洗濯機を共同で使うことになると思います。
その際、特に戦闘服など大物以外はネットにまとめておくことをお勧めします。
これは洗濯物の保護の為ではなく、自分の物を素早く取り出すためです。
靴下やパンツ、タオルなどの小物類がごちゃ混ぜになっていると、
貴重な時間をロスし、どんどん時間が無くなってしまいます。
その点、大きな洗濯ネットにまとめて入れておけば、
屋上や物干場(ぶっかんば)と呼ばれる乾燥室に持っていく際も
脱水後にそのまま持って行けるメリットがあります。
まとめ

以上が教育隊にいた頃の洗濯事情でした。
当時は忙しさにかまけて大雑把な洗濯をしていましたが、
二層式洗濯機というのはそういった乱暴な使用にも耐えてくれる便利な道具でした。
しかし、民間に就職した今では、普通に全自動洗濯機を使います。
やはり流通している物にはその理由があり、便利さではかないません。
しかし、おそらく全国の駐屯地に未だ存在するあの猛者たちがすべて壊れてしまうまでは、
多くの新隊員が彼らのお世話になることでしょう。
そして、猛者たちはちょっとやそっとでは壊れず、自衛隊のお財布事情も守っていくのでしょう。
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