ふわっとした絵柄とは裏腹に過酷かつ絶望的な世界を描いた作品
「がっこうぐらし!」
この作品を一言で表現するなら「ゾンビサバイバル」です。
本作に登場するゾンビ、通称「かれら」について、解説をしていきます。
作品概要
いまさら紹介する必要もないほどに人気となった「がっこうぐらし!」ですが、作品について簡単に紹介します。
人々をゾンビ化させる細菌が蔓延した世界で、生存者の女子生徒たちが学校に立てこもって生活する話です。(物語中盤で学校を出ることになりますが…)
学校内の3Fを封鎖することで生活環境を獲得していますが、学校外どころか世界中にゾンビが蔓延している状況です。
そんな絶望的な世界で、生き残りをかけて活動する「学園生活部」のお話です。
ゾンビ(かれら)の概要
本作に登場するゾンビは、バイオハザードシリーズに登場するような走ったり特殊な変異をするような存在ではありません。
ジョージ・A・ロメロ氏が監督した映画「ゾンビ」に登場するような、ゆっくりと動く死者で、走ることもできなければ、階段を上ることも下手という有様です。
光や音に敏感であり、サイリウムなどの発光体を投げつけることで陽動が可能です。
行動原理は一般的に想像されるゾンビと一緒で、人間や動物を見ると襲い掛かります。
作中でゾンビ化した人物の描写から、発症後は理性の低下及び強烈な食欲に支配されているようで、動物を襲う理由は飢餓感から来ることが分かっています。
行動を止めるためには頭部の破壊(首の切断)が必要という点も一般的なゾンビと同じと言えます。
特徴的な要素として、作中のゾンビは食料を摂取せずとも行動を続けられ、肉体的には死亡しているにもかかわらず腐敗の兆候を示さないというものがあります。
また、作中では登場人物から「ゾンビ」と呼称されることは一切なく、便宜的に「かれら」と呼ばれることが多いというのも気になるポイントです。
ゾンビ(かれら)のネタバレ解説
本作に登場するゾンビについて、作中内のネタバレと、メタ的なネタバレに分けて解説します。
作中情報のネタバレ
主要人物はゾンビのことを一貫して「かれら」と呼称します。
作中序盤に、主人公たちが立てこもっている学校で、職員用緊急避難マニュアルという書類が発見されます。
内容は細菌兵器のパンデミック時に学校を秘密裏に避難所として運営する方法が書かれており、ゾンビ発生が予見されていたことが伺えます。
このマニュアルは学校を運営している「ランダルコーポレーション」という巨大製薬企業が秘密裏に発行したもので、学校地下の非公開区画にはゾンビ化に対するワクチンの試作品が保管されている徹底ぶりです。
読者の多くが想像した通り、ゾンビ災害の原因はこの「ランダルコーポレーション」です。
作中の舞台となる巡ヶ丘市(旧名:男土市)には土着の細菌が存在していました。
同市内の沼に生息しており、そこの水の成分によって鎮静状態になるという生態を持っていましたが、いったん沼から離れると感染力が高まり、人々をゾンビ化させるのです。
数十年前に「男土の夜」と呼ばれる、市民の半数が死亡する事故が発生していますが、細菌が蔓延したためにミサイルによる滅菌作戦が行われたのが真相です。
ランダルコーポレーションは、この細菌に生物兵器としての可能性を見出し、研究の結果、細菌兵器の開発にこぎつけました。
厳重に管理されていたはずの細菌兵器ですが、ヒューマンエラーから誤って外部に流出、世界中に蔓延する結果となりました。
当初は感染者からの接触感染が主たる感染経路でしたが、自己を変異させることで空気感染するようになったのではとの仮説が立てられています。
登場人物の言葉を借りれば「どこかの馬鹿が手洗いをサボったせいで世界は滅んだ」のです。
これが世界中の人々がゾンビになった理由です。
メタ的なネタバレ
京都SFフェスティバル2022にて、原作者の一人である「海法紀光」氏が核心的な情報を開示しました。
(あくまで原作者が言っているだけなので公式設定ではないと前置いていましたが、原作者である以上は公式設定なのでは?)
本作のゾンビは細菌により死体が動いているものですが、実はオカルト的な力によって動いているというのが真相なのです。
海法氏いわく、作中の世界は異次元からの侵略を受けているという前提があります。
異次元からは様々な怪異が送り込まれてくるというのです。
では異次元の敵はどのように侵略しているのかというと、スティーブン・キング氏が執筆した「ダークタワー」から来ているとのこと。
ダークタワーについての詳しい解説は割愛しますが、簡単に言えばあらゆる世界を一点に繋げ、支えている塔のことです。
この塔が無ければ世界は崩壊してしまいますが、塔を用いれば別の世界へ干渉することも可能なのです。
ただし、海法氏の設定では、人間の中には侵略のシグナルを事前にインスピレーションとして受信できる者がおり、受信者が物語としてその内容を世に広めることで「フィクションにしてしまう」ことが可能なのです。
我々の世界では「スティーブン・キング」氏がダークタワーの存在をキャッチし、自身のインスピレーションとして「ダークタワーシリーズ」を執筆しました。
そのため、我々の世界にダークタワーは存在しません。
他にも、ゾンビというモンスターを広めた「ジョージ・A・ロメロ」氏のおかげで、ゾンビはフィクションにしか存在しない状況となっています。
しかし、「がっこうぐらし!」の世界では、キング氏もロメロ氏も作品を発表(侵略を阻止)する前に死去してしまっており、異次元からの侵略の危機にさらされている世界になってしまいました。
その結果、作中の世界はダークタワーとつながっており、ゾンビをはじめ「it」に登場するピエロやミストに登場する化物が実在する世界になっているとのことです。
作中では語られていませんが、作中の米国では、あのピエロ(デカい蜘蛛)が存在しているようです。
ちなみに上述の理由から、「がっこうぐらし!」の世界にはゾンビ映画は存在せず、登場人物たちもゾンビという概念を知りません。
そのため、ゾンビとは呼称されていないというわけです。
作中ではゾンビ災害は一応の解決がされますが、根本的なところで言えば、我々の世界とは違った脅威が潜在的に存在するのです。
なぜ主人公たちは感染を免れたのか
主人公たちが「進学」した際に訪れた大学で、ゾンビに噛まれた形跡の無い生存者たちが次々に発症するという現象が発生しました。
基本的には噛み付かれることで細菌に感染する接触感染が主でしたが、上述の通り空気感染するように変異している可能性が示唆されています。
しかし、主人公たち学園生活部のメンバーは1人たりとも空気感染による発症はしませんでした。
これは主人公補正というわけではなく、とある理由があるのです。
上述の通り、ゾンビ化させる生物兵器の原料となる細菌は巡ヶ丘市土着のものでした。
この細菌は生息域の沼の水に含まれる固有の成分により鎮静化するという性質を持っています。
そして、学園生活部が根城にしていた巡ヶ丘学院高等学校の浄水設備が水源としていたのが、この沼の水源と同じだったのです。
それを常飲していた主人公たちは、その他の人々に比べて細菌に対する抵抗力が強かったとされています。
ただし、接触感染までは防げず、彼女たちも噛まれれば感染・発症します。
まとめ
ゾンビものは日本を含めた世界中で人気ですが、だからこそ擦られ切ったジャンルとも言えます。
新しくゾンビを主題にした作品を作ろうとしても、作中世界の人とは言え、ゾンビを全く知らないという状況にはならないでしょう。
その点、本作は原作者の海法氏が大のSF好きということもあり、従来の作品ではあまり見かけない手法で、ゾンビに全く耐性のない作品世界を作っています。
登場人物がゾンビのことを「ゾンビだ」と認識した状況というのは、どうしてもチープになりやすいですし、今後の展開や世界観を狭める要因になってしまいます。
それを回避するために、本作は登場人物がゾンビのことを全く知らない理由を考え、さらにそれをゾンビ発生の原因の裏設定として考えているというのが大きな魅力だと思います。
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