人種国籍性別を問わず、あらゆる国には不良が存在します。
多くの人々にとって、彼らは恐るべき対象であり、日常的に関りを持つことは少ないでしょう。
この記事では、遠く異国の地 ロシア に存在する不良文化
ゴプニク(гопник)
について解説します。
概要
ロシアを始めとした旧ソ連諸国で生まれた不良文化です。
ロシア語なので男性名詞と女性名詞に分かれており
男性をゴプニク(гопник)
女性をゴプニカ(гопница)
に変形します。
現代においては殆ど衰退しているとされていますが、20世紀ごろのソ連諸国の労働者階級で発展したサブカルチャーです。
主にフルシチョフカ(労働者向け低価格集合住宅)に居住する低所得者の若者で構成されており、屋外でたむろしていました。
作法
ロシアの文化や風習、気候条件から成熟した作法があります。
服装
主にアディダス(たまにプーマ)のジャージを着て、足元は革靴で固めています。
ジャージを着るようになったきっかけは、1980年のモスクワオリンピックと言われています。
当時、驚くべきことにソ連政府は自国選手団の運動着として、西側のアディダスと契約を結んでいます。
その結果、多くのソ連国民がアディダスのジャージに魅了され、それはゴプニクにとっても例外ではありませんでした。
とはいえ、社会主義国のロシアの若者にとって、西側のアディダスはとても高価で容易に手を出せる代物ではありません。
そこでパチモノメーカーはこぞって安価なレプリカを作り出し、その「なんちゃってアディダス」が初めに普及しました。
やがて正規メーカーのジャージも流通数が増え、現代では「ゴプニクはアディダスのジャージ」というう文化が固定されたのです。
日本でいう短ランや長ラン、刺繡がバチバチに入った上着のようなものですね。
スラヴスクワット
彼らの特徴の一つに、地面にしゃがむ(スラヴスクワット)というものがあります。
いわゆるヤンキー座りに相当する姿勢です。
日本でもヤンキーがコンビニ前にたむろする際は、ヤンキー座りをして周りを威圧していましたよね。
(最近見かけませんが…)
ただ、ゴプニクのスラヴスクワットの起源はロシア特有の事情があります。
ゴプニクは上述の通り、ロシアの労働者階級の不良で構成されています。
彼らは総じて低所得であり、犯罪に手を染めてしまう者も少なくありませんでした。
当然逮捕されれば刑務所に収監されます。
つまり、ゴプニクの文化形成において、刑務所という環境の占める割合が大きいということです。
ところで、ロシアの刑務所には、屋外での自由時間の際に人が座れるベンチが設置されていないことが多いそうです。
とはいえ、ずっと歩き回ったり立ち続けるのはしんどいので、自由時間くらい座って仲間と駄弁りたいと思うのが人の常でしょう。
しかし座る場所がありません。
さらに豪雪地帯であるロシアで、地面に座れば急激に体温を奪われますし、服も汚れます。
そのため、ロシアギャングの地位の高い受刑者は地面に座るのは品がないとして倦厭していました。
となると、残された手段は地面に触れないようにしゃがみこむしかないのです。
ゴプニクの大部分を占めるチンピラ連中は、そんなギャングの姿に影響を受けます。
日本のヤンキーがヤクザみたいな振る舞いを好むのと同じです。
結果、スラヴスクワットと呼称される伝統的なしゃがみ方の文化が形成されたのです。
酒とヒマワリの種
ロシア人にとって、酒とヒマワリの種は日常的に摂取するものでゴプニクに限った話ではありません。
ただ、屋外でたむろするゴプニクたちは、彼らの美的こだわりから、これらを常用しています。
スラヴスクワットでしゃがみこみ、ヒマワリの種をつまみに酒を飲みながら、仲間と面白おかしく話をし、次の犯罪の企みを共有するのです。
ちなみにヒマワリの種にはLシステインという栄養素が豊富であり、肝臓の代謝をあげて二日酔いの予防に効果を発揮するそうです。
旧ソ連時代は労働者階級が裕福になれる可能性はほとんどなく、国からも労働力としてしかみなされていませんでした。
彼らに与えられた娯楽は非常に少なかったのです。
フルシチョカは低賃料でしたが、同じような共同住宅が立ち並ぶ地域で、娯楽用品店や上等な飲食店などは存在していません。
そもそも、そういった贅沢なお店は特権階級者向けであり、労働者階級の人は例えお金があっても入店お断りだったのです。
すると、彼らは何にお金を使うのか。
その答えが「アルコール」だったのです。
彼らは目が覚めている間の殆どを飲酒して過ごし、自身の生活環境が今後よくなる兆しがないことを酒の力でぼやかして、自分の人生を受け入れていたのです。
殺風景な街並みであっても、将来に不安があっても、お酒を飲めばそこは楽園に早変わりします。
彼らは気の合う仲間で集まり、自身が求める美学を体現するためにゴプニクらしいふるまいをするようになるのです。
現代のゴプニク
現代においてゴプニクというの文化は絶滅危惧種であるとされています。
その理由が、娯楽の多様化です。
ロシアでは検閲が入っているとはいえインターネット環境があり、かつてに比べれば圧倒的に情報や娯楽を得る機会に恵まれています。
寒い屋外で仲間と集まって酒を飲むゴプニクの全員が、決してそれが最高の楽しみだという考えを持っていたわけではありません。
他にすることがなかったから、消極的な選択をしていたにすぎないのです。
独裁色の強いロシアと言えども、現在においてはそれなりに選択肢があります。
結果、今もゴプニクを貫いている人は少なくなり、その中の多くも「ゴプニクという文化」を模倣することを面白おかしく表現するという形態に変化しています。
まとめ
人間は環境に適応して思想を変える生き物です。
ゴプニクは見ようによってはスタイリッシュかもしれませんが、その実態は不良集団です。
彼らは働いても報われるこのない人生がほぼ確定してましたが、それを受け入れて前向きに生きるための手段を講じる必要があったのです。
それがゴプニクという生き方であり、しかし決して最上級のものではなかったのでしょう。
それを示すのが現代におけるゴプニクの衰退であるといえるのではないでしょうか。
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