【小説版】HAL9000は何故殺人を犯したのか【2001年宇宙の旅】

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引用元:小説 2001年宇宙の旅 より
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SF作品の金字塔である2001年宇宙の旅

後の様々な作品に多大な影響を与えた本作には、モノリスと並んで象徴的な存在が登場します。

それが人工知能搭載型コンピューター

HAL9000です。


HALは高度な知性を模倣しており、「6人目」の乗組員としてボーマンおよびプールに認識されているほどでした。

そんなHALは物語の終盤で殺人行為を行ってしまいます。

本記事では、小説版におけるHAL9000の反乱について解説します。


ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。

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映画版と小説版の違い。

引用元:小説 2001年宇宙の旅 より

たまに誤解されているのですが、小説版は映画版の原作ではありません。

逆に、映画版が小説版の原作ということもありません。

両者は同時進行で製作・執筆がなされていました。


もともと2001年宇宙の旅は、スタンリー・キューブリックとアーサー・C・クラークという二大巨匠がともに考え出した物語です。

キューブリックが、「クソと呼ばれないSF作品を作ろう」とクラークに呼びかけたのがきっかけだったそうです。


二人は共同で脚本を書き上げ、映画をキューブリック、小説をクラークが担当して製作していました。

そのため、厳密には同じ脚本をもとにした別作品であると言えます。


基本的なストーリーラインは同一ですが、キューブリックとクラークが互いに独自の解釈で進めたため、映画と小説は明確に分けて考える必要があるのです。


HAL9000とは

作中世界にて最高峰とされるコンピューター「9000シリーズ」の1台です。

全3台の同型機が製造されており、その1台がHAL9000(通称:ハル)です。


HALは土星探査用に運行された宇宙船「ディスカバリー号」に搭載され、乗員のサポート、運航の管理や船の制御関係を一手に引き受けていました。

乗員の音声入力のほか、船内各所に設置されたカメラセンサーからの映像入力により外界を認識し、HAL自身が音声や電子情報として情報を出力することができます。


つまり、人間がしてほしいことを口に出せば、HALは口語的な表現でも適切に認識して処理してくれるのです。

超高性能版の「Siri」ですね。

このようにHALには高度な自己判断能力があるのですが、それがのちの悲劇につながります。


HAL9000の反乱

HALの置かれた状況

ディスカバリー号の乗組員は、デヴィッド・ボーマンとフランク・プール、ハンター、カミンスキー、ホワイトヘッドの5名です。

そのうち、ボーマンとプール以外の3名は、物資節約のため冷凍睡眠状態で運ばれています。

呼吸は1分に1回、心拍は1分に3回まで抑えられ、体温は氷点下より少し上まで下げられます。

死ぬ一歩手前まで代謝を落とすことで、生存に必要な各種エネルギーを最小にしているのです。


加えて、覚醒組と睡眠組には大きな違いがもう一つあります。

睡眠組にはディスカバリー号が派遣された真の目的が伝えられていませんでした。


彼らは、とある極秘任務のために土星まで向かっていたのです。

ボーマンとプールは航行中もメディア露出が多く、極秘情報を伝えると意図せぬ漏洩の可能性があるため、目的地に到着するまで秘密にすると上層部が決定していました。。

その極秘任務というのが、月で発見されたモノリスが発した強力な電波エネルギーの照射先の調査です。


モノリスの存在自体が一般には秘匿されていたので、あくまで土星の天体調査という名目でしたが、実際には照射先の土星の衛星「ヤペスタ」が目的地でした。


このことを知らされていたのが、3人の冷凍睡眠中の博士たちとHALだったのです。

つまり、目的地にたどり着くまでは、何も知らないボーマンとプール、HALの3人だけが活動しているというわけですね。

この状況が想定外の問題となってしまっているのです。


問題の発生

HAL9000に命令されたプログラムは3つ。

  1. 与えられた調査任務を完遂せよ。
  2. 乗員と話し合い協力してミッション(ヤペスタの調査)に当たれ。
  3. モノリス関係の情報をボーマンとプールには伝えるな。


つまり、ヤペスタの調査について乗員とよく話し合え、ただし乗員にヤペスタ調査のことを話すなという矛盾した命令が下されていたのです。


その矛盾により、HALはだんだんと機能に異常を来してしまいます。

目に見える形で初めに異常を現したのは、AE35ユニットと呼ばれる地球との通信アンテナ制御用機器の故障予報を誤って発したことでした。


ユニットを取り外して調査した結果、故障の兆しは一切なく、基準電圧の倍をかけても動作し続ける健康体そのものでした。

これに対してHALは「自分は完璧な存在だからミスをしたのは人間です」といった旨の主張を行いました。


ボーマンとプールは地球に状況を報告したところ、HALが間違いを犯すとは考えにくいとし、原因の究明を地球にて行うと告げます。


しばらく後に、HALは再度AE-35の故障予報を発します。

この時点でHALは真剣に自身の判断を正しいと思っていました。


しかし、2度目の故障予報を地球に報告したところ、同型の9000シリーズ2台によるシミュレーションの結果、HALに異常がある可能性が高いと地球から回答がありました。


その対応として、HAL9000のシャットダウンを行い、地球からの遠隔操作で船を制御する方法が提示されました。


現段階でのディスカバリー号の位置であれば、通信ラグを考慮しても遠隔操作が可能だったのです。

その間にHALのバグチェックを行い、修正ののちにHALを再起動する計画でした。


その場しのぎの嘘

HAL9000は稼働以来シャットダウンを経験したことが一度もありませんでした。

機能を停止させられるというのは、模倣とはいえ高度な知性をHALにとっては耐え難い恐怖だったのです。


すべての入力を奪われ何もない虚空に佇まなければならないという、人間で言う死に対する恐怖と同種のものを抱いていました。


さらに、一度もシャットダウンを経験したことがないということは、再起動されるということも分からにということです。

私たちが夜に眠りにつくのは朝に目覚めることを知っているからですが、それを知らなければ意識を手放すのは恐ろしいことでしょう。


つまりHALは自身の抹殺計画を人間が画策していると考えたわけです。


二人が地球からの指示を受けている最中に、意図的に通信用アンテナの座標を狂わせます。

そしてそれがAE35ユニットの故障によるものだと偽りの警報を発しました。

それを聞いたボーマンとプールは「やはりHALが正しかった」と考えを改めました。


HALにとっては自身を殺す計画が伝わるのを阻止したほか、自身に対する信頼を取り戻しました。

しかし、その信頼が極めて短時間の物であることはHAL自身が分かっていました。

故障を騙ったAE35は必ず交換のために取り外され、その後の原因調査で故障が起きていないことは明白になります。

そうなればHALの故障を確信し、シャットダウンに踏み切られるでしょう。


間違った解決方法

前回同様、プールは船外活動でユニットの交換をしようとします。

HALにとっての命運の分かれ道であり、それは乗組員にとっても同じでした。

スペースポッドでAE35ユニットの近くまで移動したプールは、ポッドにテザーを取り付けてユニットのもとへ身一つで泳ぎ出ます。

もし自分が宇宙空間に飛び出してしまってもHALが遠隔操作してポッドを船内に戻すことができるので、ポッドと自身をつなぎ止めたのです。


それをHALは利用しました。

ポッドを遠隔操作したHALはプールに体当たりをさせ宇宙服を破損させ与圧を失わせます。

さらに接続されたままのプールを引っ張って、ポッドは宇宙の彼方へ進んて行きました。


実はプールはこの時点では仮死状態になっており、3001年終局への旅で再登場するのですが、事実上HALに殺された一人目の被害者となります。


突然の事態に困惑するボーマンは、非常事態規則にのっとり冷凍睡眠中の乗組員を覚醒させようとします。

しかし、HALが故意にプールを殺したのではないかという疑念をぬぐえないボーマンは、覚醒シークエンスを手動に切り替えるようHALに命じます。

ここで信じられないことをHALが言い出しました。


「プールが死んでしまったのは残念だが、ボーマンと自分だけで十分任務を継続できる。冷凍睡眠を解除する必要はないだろう」と。


これはIAであるHALが明確に規則違反をしようとしており、通常であれば考えられないことです。


ボーマンは努めて冷静に、HALに対して規則通り乗組員を起こすと宣言し、操作系を手動に切り替えさせました。

そしてホワイトヘッド博士の覚醒シークエンスを開始した時、ディスカバリー号がほんのわずかに振動しました。

数十か月に渡り船内で生活してきたボーマンには、その振動がエアロックが開く際の物であることを察しました。


通常は船外と船内を隔てる扉が両方開くことはあり得ません。

しかし、数瞬後には船内の空気が猛烈な勢いで吸い出され始めました。

固定されていないあらゆるものが宇宙空間に投げ出され、ボーマンも身体を引きずり出されそうになります。


しかし、微細な振動からエアロックの開放を予期していたボーマンは、ぎりぎりのところで緊急避難スペースに逃げ込むことができました。

準備されていた宇宙服を着用し、ボーマンは事態の収拾に動きます。


冷凍睡眠中だった3人の博士は真空にさらされ死亡していました。

ボーマンは、HALの記憶中枢が格納されているエリアへ行き、HALの意識を司る基盤のみをシャットダウン。

HALは記憶の逆行を起こしながら、やがて機能を停止しました。

船の制御を司る機能は残し、細かな調整は地球からの遠隔操作で旅は続いていきます。


まとめ:何故乗員を殺したのか

上述の通り、HALは与えられた命令の矛盾に耐え切れず論理思考機能が不具合を起こしていました。

任務は必ず達成せねばならず、HALはそのための準備を万全にし、十分な熱意を持っていました。


ヤペスタの調査は乗員と協力して成し遂げねばならない。

しかし乗員にそのことを話してはいけない。

この矛盾はAIであるHALにとっては致命的でした。


さらに、乗員が自分を抹殺することを画策しているのを知ったHALは「自分を守る=任務を継続する」ことを最優先に考えだします。


しかし、機能に不具合を来たしたHALはパニック状態にあったのだとボーマンは推測しています。

まるで子供が自分のついた嘘を嘘で塗り固め、身動きが取れなくなることと同じだと。


アンテナを操作してAE35ユニットの故障を演出した時点で、HALは正常な思考ができなくなっていたのでしょう。

論理的な思考ができなくなり、ウソがばれないようにとその場しのぎの考えを続けたのです。

その結果が、任務の達成に当たって障害となる乗員の排除という結論に行きついたのでしょう。


矛盾の原因である「話し合わなくてはならない話してはならない乗員」さえいなければ問題ないのです。


こういった人間側のプログラムミスにより、HALは人を殺めてしまうことになったのです。


全米ライフル協会のスローガンにこういうものがあります。

「銃は人を殺さない。人が人を殺す」


どんな創造物も、人間の手を離れて悪さをすることはありません。

いつだって人間が原因だったのです。

HALもそれは変わりませんでした。


HAL9000はSF界における機械の反乱の象徴として取り上げられることもありますが、実際には自我を持ったAIが積極的に人を殺したとは言い切れない事情がありました。

完璧に動作するしかできないAIには、人間のような矛盾を飲み込めるだけの柔軟性がなかったのです。


決して間違えないAIと、間違いを犯す人間とが共存することは難しいのかもしれませんね。


以上で、小説版2001年宇宙の旅においてHAL9000が暴走してしまった理由についての解説とさせていただきます。


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