練りこまれた伏線と、一人称視点での物語による「信頼できない語り手」という手法を活用した大人気サスペンス作品である
「ひぐらしのなく頃に」シリーズ
様々なメディアミックス展開がされ、令和になっても続編アニメが作られるなど人気は衰えるところを知りません。
今回は、作中で発生する不可解な事件の多くに関わり、登場人物たちの生活に紛れ込み秘密裏に活動している黒幕の一味である、
入江機関付き陸上自衛隊の特殊部隊「第733装備実験中隊」
通称
山狗
について解説します。
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山狗
「ひぐらしのなく頃に」シリーズに登場する入江機関付の特殊部隊で、要人の警護、情報操作、雛見沢症候群発症者の確保を始めとした研究の補助を行う陸上自衛隊の不正規戦部隊とされています。
※ちなみに「不正規戦」とは、宣戦布告によって開始される国vs国の正規戦争とは異なり、国vs武装勢力(テロリストや犯罪組織など)の国際法に定められた形式とは異なる戦闘状況のことを言います。要するに対テロや対ゲリラ戦が該当します。作者も誤解している節がありますが、不正規戦=秘密裏に行われる不正な戦闘ではありません。
「山狗」は陸上自衛隊内に秘密裏に組織された部隊が母体となっており、「第733装備実験中隊」という名称でした。この名称は、旧日本陸軍に存在した731部隊という悪名高い研究機関が由来でしょう。あちらも細菌兵器の研究を行ってましたし。
この部隊の当初の目的は、毒ガス戦(作中では都市沈黙戦と呼称)を実行できるように研究することであり、現実の自衛隊ではありえない戦法を研究していました。自衛隊はNBC攻撃に対する防御のための研究はしますが、仕掛ける側の戦術を積極的に訓練することはありません。
このような部隊をもとに編成されたのが「山狗」であり、隊長は小此木二等陸尉が努めます。鷲鼻と尖った耳、吊り上がった目ながらもチャーミングなウィンクが魅力的な男性です。
陸上自衛隊の一部隊ではありますが、構成している隊員は陸自の隊員に限らないどころか、警察や消防、その他民間企業からも隊員をリクルートしているという極めて異質な部隊でもあります。どんな選抜基準なのかは分かりませんが…。
つまり、山狗は所属こそ陸上自衛隊ですが、何かしらの思惑を持った集団(あるいは個人)の私兵部隊に近い存在です。
山狗のような要素を持つ特殊部隊について、あえて現実の用語でいえば「混成部隊」や「タスクフォース」が該当します。
任務
山狗には主に3つの任務が付与されています。
- 入江機関の研究補佐、各種工作
- 入江機関の防衛および要人警護
- 緊急マニュアル34号(滅菌作戦)の初動対応
それぞれを詳しく見ていきましょう。
1.入江機関の研究補佐、各種工作
雛見沢症候群の研究は軍事利用につながる面もあり、政府主導の極秘研究となっています。そのため、表沙汰になってはいけない情報の処理や、水面下での各種工作(暗殺等の非合法活動を含む)が必要となる可能性も考慮されています。山狗が各技能を持った混成部隊なのもシギントやヒュミントに代表される情報操作・保全が重要な任務のためです。
末期発症者の確保も担当任務であり、肉体のリミッターを外したような攻撃性を持つ発症者を制圧するには、山狗のような荒事に慣れた人員が必要です。
2.入江機関の防衛および要人警護
雛見沢症候群という奇病の周囲には様々な思惑を持った組織が近づきます。物語開始時点では小泉派と呼ばれる雛見沢症候群を認めている派閥が政府内で力を持ち入江機関(鷹野)をバックアップしていますが、雛見沢症候群に懐疑的かつ小泉派とは主張を異にする政敵も存在しています。
そのため、政敵による各種工作の懸念から入江機関の要人は警護対象(かつ監視対象)とされています。
それとは別に、女王感染者である「古手梨花」の身柄は最重要保護対象としています。彼女の生死によっては雛見沢の住民すべての命運が決されるため、入江や鷹野よりも厳重に守られています。
さらに場合によっては他国の介入も考えられ、最重要機密となっている入江診療所の地下区画には、武装集団からの襲撃にも対応できるように重装備の保安要員が交代で警備しています。
彼らは通常、どこにいても不自然ではない一般的な作業服に身を包んでおり、警護対象の周りにそれとなく存在しています。実際に「小此木造園」というブロント企業を経営しており、頻繁に雛見沢に出入りしているため、なおのこと怪しまれにくい状況を作っています。
3.緊急マニュアル第34号(滅菌作戦)の初動対応
古手梨花の死亡により雛見沢住人の集団急性発症が懸念される状況になった際に、フェイルセーフ手段である緊急マニュアル第34号の実施が政府内で決定されます。それに基づき滅菌作戦が発動し、山狗は現地展開部隊として初動対応及び実働部隊の援護を実施します。
作戦の初期対応として、村に至る道の物理的封鎖、無線や電話を始めとした通信の遮断、村内に隠匿して保管していた滅菌装備の準備などを行います。実働部隊の到着後は彼らの支援および情報工作に従事します。。
部隊規模
正確な構成人数は不明ですが、小此木の発言から一個中隊規模であることが示されています。一般的に中隊の人数は100~200名程度であることが多く、山狗も同程度の人員を持つと推測されます。
ちなみに陸上自衛隊における中隊長は三等陸佐もしくは一等陸尉が任官しますが、隊長の小此木は二等陸尉のため、中隊規模なだけで厳密には中隊ではないのかもしれません。もしくは三等陸佐の階級を持つ鷹野が名目上の中隊長を兼ねている可能性もあります。
山狗のは幾つかの班に分けられており、鳥類をモチーフにした以下の班名が確認されています。
- 鳳(オオトリ)
- 雲雀(ヒバリ)
- 鶯(ウグイス)
- 白鷺(シラサギ)
- 鴉(カラス)※雛見沢ではなく東京に配備
作戦状況中の各隊員はコールサインで呼び合っており、鳳-1や雲雀-2など、班名+数字で識別します。
上記の班が山狗を構成してい全てなのかは不明ですが、最も数字の多い隊員が18であったことから、仮に各班が18名編成だとすると90名は所属していることになります。
また、各班はそれぞれ得意分野により分けられているようで、小此木の所属する鳳および雲雀は祭囃し編における園崎家突入を担当しているため、戦闘員の割合が高いことをうかがわせます。
ただし、前述の通り山狗の構成員はほとんどが技術職であり、直接の戦闘が発生しないように水面下で最善を尽くすのが防諜部隊である山狗の任務であるため、戦闘員が活躍する状況になった時点で山狗の不手際と言えるでしょう。
とはいえ、全員がある程度の戦闘訓練を受け、重火器で武装することもできる彼らは一般社会においては非常に高度な戦闘力を保有した集団であることに間違いがありません。
保有装備
原作がサウンドノベルのため、彼らの装備について具体的な描写がない場合もあります。
ここでは、作中で言及があった装備、もしくはアニメでの描写をもとに解説します。
MP5シリーズ
ドイツのH&K社製の短機関銃(サブマシンガン)です。
高価な代わりに極めて高い精度を誇る9mm口径の短機関銃で、世界中の法執行機関や軍の特殊部隊に採用されています。現実の日本では自衛隊での採用という話は聞きませんが、警察の機動隊や銃器対策部隊、SATなどの特殊部隊で装備されています。
作中で明確に名称が出てきたのは「祭囃し編」の中盤でした。診療所から逃走する入江の車を追う山狗の保安車両に標準装備されており、入江の車をパンクさせるために使用されます。
保安隊員に対して小此木が「A5か? 3か?」と無線で尋ねるシーンがありますが、ここは描写ミスだと思われます。
MP5A3もA5も基本性能は同じで、A3の発展型がA5です(どちらも伸縮ストック装備)。
これがA3(ストックを伸ばした状態)
これがA5
保安隊員は「3です。サイレンサー付き」と返事をしますが、太く長い銃身という地の文と合わせて考えると、サイレンサーが標準で内蔵されたモデルのMP5SD3であると判断できます。
通常のA3かA5に外付けのサイレンサーを付けている可能性もありますが、太くはありませんし、何よりA5とA3の違いを気にする理由になりません。なので正しくは「A3か? SD3か?」とするべきだったと推測されます。
※ちなみにMP5A5は昭和58(1983年)にはまだ開発されていません。
何しろ林道とはいえ白昼堂々銃声を派手に響かせるわけにはいきません。
状況的に小此木は隠密性を気にしてサイレンサーの有無を尋ねたのだと思われます。
M1911
アメリカのコルト社が開発した45口径の自動拳銃です。名前の通り、1911年に開発されて以来、100年以上も基本設計を変えずに使用され続けてる、まさに傑作です。
現在ではM1911のパテントが失効されたため、各社がクローンモデルを多数販売しています。
現実の陸上自衛隊においても設立当初に米軍から供与され「11.4mmけん銃」という名称で採用されていたことがあります。
アニメ版では入江の車を止めるのにこの銃を使用しているほか、その後に園崎家へ突入する際に使用しています。
次期採用の9mmけん銃の採用が1983年ですので、昭和58年以前に自衛隊で拳銃を使おうとすればM1911になる可能性は高いでしょう。世界中どこにでも流通していますしね。
もしかしたら改良型のM1911A1かもしれませんが、アニメの作画では判断がつきませんでした。
9mmけん銃(SIG P220)
スイスのSIG社が開発した9mm口径の自動拳銃で、ミネベア社(現:ミネベアミツミ)がライセンス生産しています。
戦後の自衛隊創設時に米軍から供与された上記11.4mmけん銃が老朽化したため、昭和57年(1982年)に後継として陸海空自衛隊に採用されました。
アニメ版の皆殺し編で、鷹野が部活メンバーを射殺する際に使用し、続く祭囃し編でも小此木から鷹野へ渡されています。
1982年に採用された拳銃が、翌年の昭和58年(1983年)に配備されているということから、入江機関には最新装備を供与されていたのが分かります。
RPG-7
旧ソ連製の対戦車兵器です。
外観や弾頭がロケット推進で加速することから「ロケットランチャー」の一種と思われがちですが、厳密には無反動砲の一種で、装薬による発射と同時にバックブラストを放出することで反動を相殺しています。
簡単な構造ゆえの低単価と、主力戦車を破壊可能な攻撃力から、ソ連軍をはじめ世界中の紛争地帯で出回っています。日本でも暴力団が所有していたこともあります。
現実の自衛隊には配備されていませんが、防衛省は研究用に少数を購入した記録が残っています。仮想敵国の使用兵器ですからね。
予算が潤沢で最新装備を優先的に回されているであろう山狗には一見不釣り合いに見えますが、操作の簡便さと万が一使用が露見された場合に足がつきにくいというメリットはあるかもしれません。園崎家(園崎組)が持っていてもおかしくない兵器でもあります。
RPG-7の使用に踏み切る場合は、戦闘の痕跡を完全に消すことは不可能な規模と考えられるため、警察が介入したときに可能な限り山狗という存在の痕跡を残さないという思惑があるのかもしれません。
祭囃し編の終盤で、雛見沢から脱出しようとする赤坂と富竹の乗った車両を阻止するために持ち出されますが、詩音と赤坂の狙撃により発射せずに終わります。アニメ版では弾頭の先端にプロープがあるように見えることから、対戦車榴弾を装填している可能性が高く、非装甲の車両や対人用に使用されるものではありません。
道路封鎖のためならば通常の榴弾のほうが加害範囲が広いため効果的だと思いますが、まあそういうアニメじゃないですしね。
微光暗視眼鏡JGVS-V3
陸上自衛隊に採用されている、日本電気(NEC)製の微光暗視装置です。
星明りのような弱い光を増幅することで視界を確保する方式の暗視装置ですが、本装備は赤外線を照射することで、完全な暗闇でも視界を確保することができます。ヘッドバンドにより顔面に装着できるため、装着した状態で作業や移動ができるほか、双眼型のため距離感を図ることも可能です。
現在は後継のJGVS-V8が採用されていますが、まだ配備は続いています。
アニメ版の祟殺し編・厄醒し編、および皆殺し編、祭囃子編にて登場しています。祟殺し編と厄醒し編では、滅菌作戦の際に山中に逃亡した沙都子、レナを追跡するために使用しました。こちらからは見えないのに、山狗からは見えているという絶望的な状況を不気味に演出する良い装備です。
皆殺し編では山中を逃走する部活メンバーを捜索するために使用。
祭囃子編では園崎家の地下祭具殿を進む際に使用しています。
テーザー銃
アメリカのアクソン社が販売しているスタンガンの一種です。
特徴として、銃のようにワイヤーでつながった針を二つ射出し、離れた位置から電撃を与えることができます。
原作・アニメともに皆殺し編で古手家を警備していた警官に発射されたほか、原作祭囃し編では山中に潜伏する部活メンバーを掃討する際に山狗が装備していました。
現実のものは圧縮窒素で針を飛ばしますので一発使いきり(最近は3発のモデルも)ですが、山狗の持つテーザーは射出したワイヤーを巻き取る機構がある架空の武器になります。低致死性武器としてアメリカを中心に官民問わず流通しています。
悪用を防ぐために、発砲した際にはカートリッジからシリアル番号が書かれた紙片が大量にばらまかれるという対策がなされています。
あくまで護身用という位置づけですね。
その他
ほかにも、皆殺し編で大石と熊谷を射殺したサイレンサー付きの狙撃銃(モデル不明)やナイフ、バリスティックシールド、プラスチック爆弾、無線などの装備を保有しています。
番犬
山狗と似た組織として、「番犬」という部隊が存在します。
どちらも一般公表されていない極秘の舞台ですが、山狗が防諜を専門にした組織に対して、番犬は戦闘に特化した部隊とされています。
祭囃し編の終盤にて、富竹からの出動要請を受けた番犬部隊が、山狗及び入江機関の制圧のために雛見沢へやってきます。
具体的な姿は原作では描写されていませんが、アニメ版ではヘリからラぺリング降下してきた隊員は、戦闘服にフリッツヘルメットをかぶり、弾帯とサスペンダー、M16A2アサルトライフルを装備していました。番犬の介入に気付いた山狗の残存隊員は鷹野を連れて一目散に山の中に逃げだすほどに戦力に差があります。
実際、武器だけ見ても、山狗はせいぜいが拳銃弾を使用する短機関銃しか装備していませんが、番犬はM16を基本装備としていますので単純な火力だけでも桁違いの差があります。
さらに、小此木の弁よると、山狗はあくまで技術部隊であり戦闘を専門にした番犬には敵わないとしています。
作中では主に入江機関(鷹野と山狗)の造反に備えた部隊であるように描写されました。強い権限と戦力を保有する入江機関に対して、監視の目を付けるのは決して不自然ではありません。
しかし、入江機関が造反するなんて「東京」は思っていなかったのではないかと思っています。あくまで保険としての番犬の配備であり、それを裏付けるように番犬の出動を要請できる「首輪」は富竹ただ一人しか割り当てられていませんでした。実際には山狗も番犬もパトロンは同じ「東京」であり、本来であれば共同して任務に当たる存在だったのでしょう。
諜報・情報操作を得意とする番犬が作戦の土台を作り上げ、必要かつ適切なタイミングで強力な力を持つ番犬が投入されて事態を解決するという役割が想定できます。
現実でも、CIAの現地エージェントが情報収集をし、テロリストのねぐらを特定したうえで海兵隊やSEALsなどの強大な戦力を投入していますしね。
ちなみに彼らの装備しているM16A2ですが、米軍に採用されたのが1982年という、これまた最新小銃です。しかも採用は1982年ですが、米軍内で一般部隊の装備として更新され始めたのは1984年です。
つまり、特殊部隊とはいえ、日本の自衛隊の一部隊が大半の米兵より先に米軍の新型小銃を装備しているということになります。
ベースになっているM16A1が存在しますので、当時自衛隊で採用されていた64式小銃よりは信頼性があるという判断なのでしょうが、米軍の最新装備を横流しで入手しているというのは驚くべきことです。
ぶっちゃけ、ミリタリー描写に強い作品ではないので、そこまで考証していないだけなのでしょうけど。
まとめ
劇中で描写されるのが、暗殺や誘拐、鷹野への加担などの目立つシーンが多いため、いかにも特殊部隊といったイメージの山狗ですが、実際には表に出ずに活動することをメインにした防諜部隊です。
普段は興宮に「小此木造園」という地域密着柄の造園会社をフロント企業として経営しており、村やその周辺で活動しても目立たないよう工作がされています。
本来は作中で活躍したような荒事にならないために存在しているのが山狗ですので、彼らが戦闘をメインにするようになった時点で鷹野の立場は相当危ういものになっていたのでしょう。
とはいえ、彼らの実力は間違いなく本物であり、奇跡でも起こらない限り部活メンバーに勝ち目はなかったのも事実です。
実際、梨花の100年のループの中で彼らに勝てたことは祭囃し編の一度しかありませんでした。
その祭囃し編でも、黒幕が誰かが事前に分かっているという絶対的なアドバンテージを持ち、これまでに培ってきた仲間との信頼関係のおかげで全面的な協力を得られました。さらに警察官の大石や赤坂どころか、秘密結社「東京」の一員である富竹や入江という事態を収束させられる者の協力者を得ました。
そのうえで鷹野と山狗を出し抜く形で先手を打って「番犬」を呼ぶことでようやくギリギリで勝てた相手なのです。つまり、部活メンバーを始めとした一般の人々が普通にやりあって勝てる相手ではありません。これだけの有利な要素(奇跡)があっても圧勝とは程遠かったのです。
古手梨花という特別な存在がいなければ、すべての世界で雛見沢の人々は何も気づくことなく滅菌されていました。
それほどまでに強固な力を持つのが山狗なのです。
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