インボイス制度
私にとって直接的には関係がない(と思っていた)インボイス制度について、
巷では「ひどい」「やばい」と大きな話題になっています。
しかし、私はこの制度が何なのか、恥ずかしながらよく知りませんでした。
そこで、自分の理解を深めるために調べた内容を、私のように詳細を知らない人にも分かりやすく理解できるように記事にまとめてみました。
Twitter:@tanshilog
インボイスとは何か。
英単語を直訳すると「請求書」のことですが、
本制度におけるインボイスとは「適格請求書」を指します。
ではこの「適格請求書」が何なのかというと、
仕入税額控除を受けるために必要な要素を満たした請求書
のことです。
逆に言えば、インボイス以外の請求書は税額の信頼性が担保されていないとみなされます。
つまり、請求書に記載されている仕入税額控除を受けられなくなるということです。
この請求書を発行できる事業者を「インボイス(適格請求書)発行事業者」と呼ぶのですが、
インボイス発行事業者として登録できるのは「課税事業者」に限られます。
仕入税額控除とは何か。
加重課税を防ぐために認められている消費税の控除のことです。
とだけ書くと意味が分かりませんでしたので、もう少し細かく説明します。
消費税とは、消費者(エンドユーザー)に課される税金であり、消費者が商品やサービスを購入した際に販売者に対して消費税分を上乗せして支払います。
販売者は、その消費税分の金額を消費者の代わりに税務署へ支払うという少し変わった納税方法となっています。
では、なぜこの控除が認められているかというと、
商品やサービスを準備ための仕入(原材料や運搬など)にも消費税を含めているからです。
売り上げに伴う(消費者からもらった)消費税をそのまま支払うと、仕入の際に自らが支払った消費税と重複してしまいます。
そのため、仕入れのために自分が支払った消費税分は、売り上げに伴う消費税から差し引くことが認められています。
課税売上の(受け取った)消費税額 - 課税仕入れの(支払った)消費税額 = 納付する消費税額となるわけです。
例えば、売価100万円、原価80万円の製品(税率10%)が売れた際に納付される税金は以下の通りになります。
- 課税売上の消費税額:10万円
- 課税仕入の消費税額:8万円
- 8万円分の消費税は仕入のタイミングで既に納税済みなので、課税売上の消費税額から差し引き2万円のみ納税するだけでOK
インボイス制度とは
上述のインボイス(適格請求書)でのみ仕入税額控除が可能になるという制度です。
目的について、詳しくは後述しますが、税制の適正化があげられます。
インボイス制度が施行されると、仕入税額控除のために以下の流れが必要となります。
売り手側は、取引相手(顧客)からインボイスの発行を求められれば交付しなければならず、また交付したインボイスのコピーを保管する義務があります。
買い手側は、取引相手(仕入先)からインボイスを発行してもらわなければ、仕入税額控除の適用を受けられなくなります。
また、発行されたインボイスを保管する義務があります。
逆に言えば、(まずないでしょうが)仕入税額控除の適用を受けないのであれば、インボイスではなく従来の請求書の使用も可能です。
インボイス制度の目的。
消費税納付額を適正化することが目的となります。
具体的には以下を目的としています。
- 2022年現在の日本の税率は複数税率(8%と10%)であり、各請求内容がそれぞれどちらの税率が適用されるのかを明記するためにインボイス(適格請求書)を定める。
- 現行の請求書には、それぞれの税率の記載が義務化されておらず、取引上のトラブルおよび納税額の誤りや不正が発生する恐れがある。
- 免税事業者の益税を抑制(後述)。
なぜ課税事業者しかインボイス発行事業者になれないのか
シンプルに言ってしまうと、
免税事業者は仕入税額控除を受けることがないから
となります。
パッと見だと、自身が控除を受けない以上、インボイス発行事業者になれないことによる問題はないように思えますが、
客先が仕入税額控除を受けるために必要なものである以上、その影響は大きいものになります。
後述しますが、「控除を受けられないのならば貴社とは取引しませんよ」 という流れになる可能性があります。
では、何故そうにもかかわらず免税事業者がインボイス発行事業者になれないかというと、
上述のインボイス制度の目的で記載した「3」
免税事業者の益税を抑制することが関わってきます。
先に答えを言ってしまうと、
政府は免税事業者に対して課税事業者になるよう求めているのです。
益税とは何か
免税事業者(年間売上高:1,000万円以下)は、消費税の納税義務が免除されています。
では、免税事業者が販売、提供する商品やサービスの代金には、消費税分が抜かれているのでしょうか。
実は、免税事業者の売価には納税する必要のない消費税が上乗せされていることが通常です。
そのため、常時10%もしくは8%の純利益を得ることが可能です。
一見不正な利益に思えますが、消費税法が免税事業者の消費税上乗せを禁止していないため、違法行為ではないのです。
さらに、免税事業者が仕入を行う際にも消費税を支払う必要がありません。
そのため、仕入時に支払った消費税(仮受消費税)を控除することが可能です。
つまり、【仕入時に支払った消費税+売上時に消費者から受けとった消費税】がそのまま利益となります。
ここで得られる消費税分の利益を「益税」といいます。
いうまでもなく、現行の法律が禁止していないだけで課税事業者から見てみれば不公平なものです。
なので、国は免税事業者を課税事業者にして公平性を維持しようとしているのです。
そして、決してこうは言いませんが
税収を上げるために課税事業者を増やしたいという思惑もあるのでしょう。
インボイス制度のメリットとデメリット
どんな物事にもメリットデメリットは存在します。
そして、その両方を天秤にかけた際に、より重視すべき要素を選択するのです。
当然、インボイス制度も、その考えに基づいて導入が決定されたのでしょう。たぶん。きっと。
では、それぞれを具体的に見ていきましょう。
メリット
電子インボイスが導入できる。
電子帳簿保存法の縛りを受けるものの、電子データで客先へインボイスの送付が可能(電子インボイス)になることで、以下のような有益な効果が見込まれます。
- 請求書の印刷代、郵送代の削減、資源の節約。
- 紙としての請求書を保管しなくてよいため、保管スペースの削減。
- 請求書発送に伴う人件費の削減。
はじめこそ混乱があるでしょうが、馴染んでしまえば大きなメリットとなるはずです。
インボイス発行事業者は、取引先選定における優位性がある。
言うまでもなく、税金をなるべく払いたくない(節税したい)というのが企業の基本的なスタンスになるため、
控除を受けるためにインボイス発行事業者というだけで選定対象として優位性が得られます。
※ちなみに、インボイス制度が開始される2023年10月1日までに発行事業者として登録を受けるためには、2023年3月までに申請をする必要があります。
デメリット
経理業務の増加
請求書の記載事項変更、仕入税額控除の要件変更に伴い、インボイスとそれ以外の請求書の振り分けなど、
現行の業務方法では、経理担当者の業務が増えるのは間違いありません。
消費税控除額が減る可能性がある。
インボイスを発行できない免税事業者との取引においては控除を受けることができなくなるため、控除総額が減ってしまうことが考えられます。
免税事業者が取引先選定において不利になる。
インボイスを発行できない免税事業者は、親事業者が控除を受けられないため仕入対象として避けられる可能性が高いです。
かといって、免税事業者がインボイスを発行するために課税事業者になれば、今まで免除されていた分の税金が課されるため、金銭的負担が大きくなることは間違いないでしょう。
取引が減るか、税金の負担が増えるかのDeath or Dieに陥る可能性が非常に高いです。
この問題こそが、「小さい会社いじめ」だとか「日本の産業が衰退する」と巷で話題になる原因です。
一応、経過措置として、以下の通り6年間の猶予期間が設けられており、
以下のように段階的に制限を受けていく予定です。
- インボイス導入~3年間は、通常の請求書で80%控除可能
- そのさらに3年後までは50%控除可能
まとめ
- 今までの請求書では仕入税額控除はできません。
- インボイス(適格請求書)が発行されている場合のみ控除します。他は加重課税になるけど、信頼性がないのですべて払ってください。
- この制度によって、納税の適正化と請求書発行にともなう各種コストの低減、電子化がすすめられます。
- ただし、インボイスを発行するには「課税事業者」になってください。免税特権はなくなりますけど、長期的なメリットと、納税の公正化のためです。
上述のメリットデメリットで分かるように、小さい会社にとって良いことは何もありません。
今まで取引してきたお客さんは、仕入税額控除を受けられないなら別の仕入先を探すでしょう。
インボイスを発行しようとするなら、免税特権を捨て、税金を支払わなければいけません。
インボイス発行に伴う出費増(税金)以上の儲けが期待できるのなら、課税事業者になるのも選択肢のうちでしょうが、
税金の分だけ収入が落ちるという状況になる事業者も多いでしょう。
Twitter:@tanshilog
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