はじめに
この記事は、1980年にイギリス政府が国民向けに発行した
「Protect and Survive (防護と生存)」
という民間防衛のブックレットをベースにしています。
冷戦期の、核戦争が今よりずっと身近だった時代に、一国の政府が国民を保護するために本気で策定した防衛策です。
やや古い情報ではありますが、当時から核兵器自体の特性は変わっていません。
よって、われわれが出来る対処方法も、当時と大きく変わることはありません。
この記事は以下のような不安を解消する助けになります。
- 核戦争になったらどうしたらいい?
- 核爆発があったら何をしたらいい?
- 核攻撃からどうしたら生き残れる?
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
まずは核兵器の脅威性を知る
核爆発によって引き起こされる脅威としては、以下の2種類があります。
- 熱風と爆風(物理的な破壊)
- 放射性降下物(放射能汚染)
熱風と爆風

核爆発により巨大な火球が形成されます。
これはいわゆる「ピカドン」の「ピカ」に当たるもので、この火球は数百万度の温度を持ちながら急速に膨張して行きます。
火球が膨張する際には衝撃波を形成するため、その爆風は300m/秒以上の風速になる場合もあり、それが数秒間持続する過程で人間や建物を破壊します。
さらに火球から放出される熱は相当な距離まで、人間を含めた可燃物を発火させるのに十分な温度を保ちます。
核弾頭の威力にもよりますが、危害半径は数キロ~数十キロに及び、特に半径10キロ圏内のあらゆる物体は完全に破壊されます。
放射性降下物

核爆発によって生成された放射性物質が爆風により塵と一緒に巻き上げられ、気流に乗って広範囲に広がったのちに地表へ降下してくる現象を言います。
通常の爆弾に比べて、核爆弾が広範囲に深刻な被害をもたらす大きな原因です。
核爆発そのものは局所的な汚染しか引き起こしませんが、この放射性降下物により広範囲が汚染されるのです。
およそ数週間から数年をかけて地表へ降り注ぎ、
地上で生きる生物はもちろん、土壌や地下水にも汚染が広がり、長期的に生態系は放射線の影響を受けることになります。
余談ですが、
放射線は細胞を傷つけ変質させる作用を持つエネルギー
放射性物質は放射線を放出する物質
放射能は放射線を出す能力のこと
と考えてください。
核爆発が迫ってきたらするべきこと

前提として、核攻撃を受けた際には、自治体の支援を当てにできません。
救急や消防、警察では核攻撃への対処が出来ず、軍事組織(日本なら自衛隊)が対応に当たることになるでしょう。
しかし、いくら自衛隊と言えども、
放射性物質という厄介な物質が相手 + 防衛を含めた戦闘に従事している状況で、被害範囲にいる国民の救助を優先して行えるとは限りません。
戦争において、核を一発撃ったから攻撃をやめるなどということは無いのです。
二発目の核攻撃や、その他通常の非核兵器による攻撃に対応する必要があります。
我々にできることは殆どありませんが、だからこそ出来ることは全てしておくべきでしょう。
基本的には、放射線の被害を最小限に抑えながら、いつになるか分からない救助を待つのが原則となります。
【Protect and Survive】では以下の方法を提示しています。
家にこもる準備をする
残念ながら日本では核シェルターは殆ど普及していません。
よって、近距離で発生した核爆発による熱風と爆風に耐える方法はありません。
【Protect and Survive】でも核爆発そのものに対する防御方法は、頑丈な建物に入れ、とされている程度です。
シェルターに入る以外の有効な方法が無いのでしょう。
しかし、運よく爆心地から離れた場所にいたために生き残った場合は、放射線の被害を最小限に抑えるための準備が必要です。
特に、自宅であれば事前に準備することも困難ではないでしょう。
【Protect and Survive】では核攻撃に際してシェルターに避難できない場合は、可能な限り自宅にとどまることを推奨されています。
放射性物質と相対する際に重要なポイントが二つあります。
- 放射線は物質を通り抜ける際に強度が落ちる。
- 放射線は49時間で1/100、2週間後には1/1,000まで減退する。
これらに着目して、次のような準備を行い、家にこもることを推奨されています。
また、外出中であっても、可能な限り条件の良い場所にとどまる必要があります。
避難部屋を作る。

放射線が1/1,000まで減衰するのを待つために、14日間外出せずに過ごせる準備が必要です。
さらに、放射線の強度をなるべく下げるために、外壁および屋根から最も遠い場所の部屋、
つまり、1F中央に避難部屋を作って救助を待つのが望ましいとされています。
さらに、窓や扉といった開口部の遮蔽や目張りを行い放射性降下物の侵入を防ぎ、余裕があれば外に面している壁や二階の床(1Fから見た天井)を厚くすると防護効果が高まります。
厚くするために使用する物はどんなものでもいいのですが、土嚢などのなるべく密度の高いものが効果的です。
避難場所を作る
放射線量が1/100になるまでの最初の49時間(約二日間)は致命的な期間です。
そのため、この期間は上述の避難部屋の中でも、さらに防護した避難場所を作成するのが、より望ましいです。
具体的には、避難部屋の中に、さらに小部屋を作り、その中で二日間を過ごすイメージですね。
【Protect and Survive】で示されている例としては、以下のような方法があります。
- 外部に面していない壁に取り外した扉や家具で差し掛け小屋を作り、土嚢や衣服を詰めた鞄で覆う。
- 大きなテーブルがあればそのテーブルを土嚢等で覆い、内部で過ごす。
- 階段下の収納があれば、そこを土嚢等で覆い避難場所とする。
しばらくはトイレの問題など、およそ現代社会に生きる我々には受け入れがたい生活になるでしょうが、放射線はもっと受け入れがたいもののため、頑張って我慢しましょう。
サバイバルキットの準備

上述のように、最低でも14日間は外出せずに生存する必要があります。
そのための物資・装備を避難部屋に準備する必要があります。
避難場所での2日間は最低限の物資でも乗り切れますが、14日間ともなると入念な準備が必要なのは言うまでもありません。
ちなみに、3・3・3の法則という考え方がありまして、様々な要素で必要量を得られない場合に、人間が生存できる目安を示しています。
- 空気:3分で酸欠で死亡する。
- 水分:3日で乾きで死亡する
- 食料:3週間で飢えで死亡する
合わせて極端な温度変化があった場合は、3時間で凍死、もしくは熱中症で死亡するとする場合もありますが、今回は省きます。
何が言いたいかというと、極端な話、避難場所で過ごす最初の49時間は、何もなくても生存できる可能性が高いということです。
しかし、その後は適切な摂取が必要ですので、避難部屋には十分な物資が必要です。
最低限必要とされる物資を3種類まとめました。
1.飲料水
何を差し置いても、人間が生きるためには水が必要です。
厚生労働省曰く、成人が健康に過ごすためには、1日2.5Lの水が必要とされています。
3人家族だと仮定すると、単純計算で2.5L×14日×3人=105Lの飲料水が必要となり、一般的な2Lの保存水で53本も必要になってしまいます。
普段からこんな量の保存水を備蓄するのは現実的ではありませんし、かと言って、有事の際に購入するのはほぼ不可能でしょう。
さらに、水は飲用以外にも使われます。
洗い物をしたり身体を清潔にするためにもある程度の量は必要です。
105Lはあくまでも生命維持のために必要なのであって、実際にはもっと多く必要になるでしょう。
しかし、水というのはボトルに入っているものだけではありません。
たとえば一般的に、浴槽には200Lのお湯が張られることが多いそうです。
翌日入浴するまで排水しない習慣を持っていれば、丸々200Lの水が手に入ります。
さらにトイレのタンクには15L前後の水が入っています。2Fにもあれば2倍です。
(節水タイプだと5L位だそうですが、一人が二日で必要とする分です)
放射性降下物が付着しないように密封したりカバーをする必要はありますが、この水を使わない手はありません。
これらの水を飲用とする際に役立つのが、以下のような浄水器です。
私も下段のボトルタイプを持っているのですが、煮沸した川の水を飲んだ際は完全に無味だったので驚きました。
特に、赤ちゃんのいる家庭では調乳や身体を拭くのに綺麗な水が必要です。
保存水を優先して赤ちゃんに使うためにも、大人の飲料水は可能な限り浄水器で確保したいところです。
2.食料
こちらも同じく14日分の食料が必要となります。
しかし、家にこもる生活の都合、殆ど運動しないため基礎代謝分を少し上回る程度のカロリーが取れれば問題ないでしょう。
一日当たり、成人男性で1,800キロカロリー程度あれば十分です。
保存食では栄養の偏りも懸念されますので、各種サプリも有効活用できます。
赤ちゃんのいる家庭ではさらに準備が必要です。
上述のように、粉ミルクを作るにも清潔な水が必要です。調乳用に保存水が必要でしょう。
加えて、哺乳瓶の消毒も留意しなければいけません。
最近は缶入りのミルクもありますが、飲ませるための乳首は消毒が必要です。
できれば煮沸するための鍋とコンロを準備しましょう。
ミルトンなどの消毒キットでも良いでしょうが、それに使った水は他の用途には使えません。
3.情報収集ツール
避難部屋から外に出られない都合、外部と連絡を取る手段が必要になります。
少なくとも、情報収集のための手段は確実に確保した方がいいでしょう。
現代であればスマートフォンをはじめとした端末が非常に有効ですが、基地局が破壊されると通信不能になるという弱点があります。
今回想定している核攻撃というのは、自然災害とは異なり、意図的に様々な攻撃を受けます。
事実、現在発生しているウクライナとロシアの戦争では、ロシア軍によりウクライナ領内の基地局が破壊されました。
そうなると、スマートフォンは通信手段としては役に立たなくなってしまいます。
しかし、ライトやその他アプリで有用性は高いため、予備電源含めて持っていた方がいいことに変わりはありません。
上記のような状況であることを想定するならば、情報収集のためのアイテムとして、昔ながらのラジオが有効です。
放送局が無事であれば情報収集は可能ですし、仮に民間のアンテナを破壊されても、自衛隊等が独自に発信するラジオ放送を受信することが可能です。
スマートフォンのみに頼るのではなく、バックアップとしてラジオを準備するのは必要不可欠です。
その他日用品
上記の他にも、以下のようなアイテムが有効です。
【布団、寝袋】
硬い床で寝ると疲労が取れません。普段使っている物で良いので避難部屋へ持ち込みましょう。
【ガスコンロ、鍋】
温かい食事は気力に大きく影響します。非常食であっても、なるべく美味しく食べるのが重要です。
スペースを圧迫しないアウトドア用の製品がおすすめです。
【照明器具】
電力が遮断されると夜間は真っ暗になります。ライトやろうそくを準備しましょう。
また、外部に対して明かりで合図を送ることもできます。
【常備薬】
普段使用している薬はもちろん、ストレスで調子が悪くなった際には胃腸薬や感冒薬があると役立ちます。
【トイレ】
携帯トイレや、下の様な簡易トイレを用意するのもいいですが、家にある物で自作することも可能です。
座面を取り除いた椅子と蓋付きバケツ、袋があれば簡易的なトイレになります。
【嗜好品】
実は最も重要かもしれないのが嗜好品です。
差し迫った危険がある際は必要ありませんが、救助を待つ段階になったときは気を紛らわせるものが必要です。
人類史上最悪の兵器が使用され、世界が滅ぶかもしれないという非常に高いストレスを受けている状況下では、何もせずにじっとしているのは精神衛生上、極めて不健全です。
小さな子供にとっても、避難部屋での生活は退屈極まりないでしょう。
そういった意味でも、書籍やオモチャなど、嗜好品の準備は怠らないようにしてください。
核兵器使用の現実性
2022年3月23日現在、ウクライナとロシアが事実上の戦争状態となり、双方に被害を出しながらも戦況はほぼ膠着状態となっています。
この戦争はヨーロッパで起きている国対国の争いで、歴史的に見れば決して珍しいものではありませんが、日本を含めた西側諸国がウクライナ側に付き、武器装備の供与やロシアへの経済制裁という形で間接的に関わっています。
ここで懸念されるのは、あくまでロシアは自身の軍事行動に正当な理由があり、侵略ではないと主張していることから、西側からの制裁等を自国に対する攻撃だと認定し、我々への反撃の口実を与えてしまう恐れがあることです。
言うまでも無く、ロシアは核保有国です。
2021年3月時点で、全世界に存在する核弾頭は13,130発とされており、ロシアだけでも6,260発の核弾頭を保有しています。
米国を抑えて、世界で最も核弾頭を保有している国がロシアなのです。(©RECNA 核弾頭データ追跡チームhttps://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/nuclear1/nuclear_list_202106 より引用)
さらに、3月23日にはCNNからのインタビューに対してロシア大統領府の報道官が、
「自国の存亡にかかわる場合のみ核兵器を使用する」
と明言しています。
この基準については、ロシアの安全保障上の概念を基にしたものであり、今回の争いに限った話ではないとしたものの、「自国の存亡にかかわる場合」をどのように捉えるかは、その時々によると西側諸国へけん制していると考えることができます。
つまり、ウクライナ侵攻に関連した西側からの制裁の激化や、軍事的・武力的な介入をし始めた場合は、「自国の存亡にかかわる」と判断し、核兵器の使用も視野に入れると脅しているのです。
インタビューの際に、それ以外の状況での核兵器使用はあり得ないとも明言していることから、
「部外者が余計な茶々を入れてくるな」と言っているのでしょう。
私はロシアが核兵器を使用する可能性が高いなどと言うつもりはありません。
しかし、核兵器を保有しているということは、使用される可能性が少なからずあるということです。
これはロシアに限った話ではなく、お隣の中国も、本記事で取り上げる「Protect and Survive (防護と生存)」を発行したイギリスも核保有国です。
核を使用すれば、第三次世界大戦に進展するのは間違いありません。
世界には核兵器保有を公式に発表している国が8か国あり、疑いのある国も含めれば12か国程度あるとされています。
これらの国は東西それぞれの陣営にあり、自国や同盟国が核攻撃を受けた場合は、報復のために攻撃国へ核を撃つというのが核抑止における基本的な方針ですが、つまりは一発の核攻撃が連鎖的に他の核攻撃に繋がるということです。
前述のとおり、世界には13,130発の核弾頭が存在していますが、全ての核を撃ち切る前に人類の文明は終焉を迎えるでしょう。
この記事では、決して絵空事ではなくなってきた【核戦争】の脅威に備えて、生き残り、生き延びるために策定された対処方法についてまとめました。

唯一の被爆国として、核なき世界実現のための非核化を求める姿勢は大切なことだと思いますが、
核戦争も想定した安全保障体制の構築は別の問題として並行して行うべきだと考えています。
「憲法9条」も「核兵器禁止条約」も、日本を直接守ってはくれません。
他国からしてみれば「だから何?」でしかなく、むしろ恐れるに足らずと判断される程度でしょう。
まとめ
先に述べたように、本記事はイギリス政府が1980年に発行した「Protect and Survive (防護と生存)」を参考にして書きました。
書いている最中に思ったのは、我々民間人に出来ることはほぼなく、上記の内容も所詮は気休めに過ぎないだろうということでした。
至近距離で核兵器が使用されれば心配する必要が無いほどに即死ですが、運よく生き残れてもその後の未来に希望を見出せないでしょう。
人類の歴史の中で争いが絶えることはありませんが、それでも分かり合おうと世界の人々は願っているはずです。
それでも、人間というか生物の本質が排他的であるためか、時折大きな戦争が起きてしまいます。
2022年にもなって、私たちには理解できない理由をでっち上げ、それを盾にして他国へ侵攻する軍事大国があるということを、残念ながら目の当たりにしてしまいました。
そして、その矛先が日本に向けられる可能性も十分にあるのです。
我々も北方領土問題を抱えているのですから。
第二次世界大戦が当時の技術レベルで発生したのは不幸中の幸いだったかもしれません。
今後、現代の戦力や、それ以上の兵器をもって世界規模の戦争が起これば、制御不能な力で世界が終ってしまうのは想像に難くありません。
私たちの子供の世代がその苦しみを味わい、そこで人類途絶えてしまうということも十分にあり得るのです。
かつて、アインシュタインが「第三次世界大戦が起こったらどのような兵器が使用されると思うか」という質問に対して答えた言葉が現実のものにならないことを心から祈ります。
「第三次世界大戦にどのような兵器が使われるかは分かりませんが、第四次大戦なら分かります。石と棍棒でしょう」
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