2014年8月にPlayStation Networkで配信が開始され、翌年2015年4月に配信終了した伝説の体験版
P.T.
延々とループし続ける家屋内の一角を舞台に、様々な超常現象に見舞われながら脱出を目指すホラーゲームです。
当初はインディーズスタジオが開発したホラーゲームを装っていましたが、その正体は小島プロダクションが製作した「Silent Hills」の体験版(プレイアブル・ティーザー P.T.)だったのです。
しかし、後にコナミはSilent Hillsの製作中止を発表し、P.T.の配信も停止。
さらにかつてダウンロードしていたユーザーに対しても再ダウンロード不可にする処理をすることで批判を受けました。
…それはそれとして、このP.T.はホラーゲームの中で突出したアイディアで恐怖を演出しており、「P.T.系」と呼ばれる一ジャンルを築き上げるほどの反響を呼びました。
この記事では、伝説の体験版「P.T.」について考察してみました。
根拠なんてない妄想垂れ流しですが、そういう楽しみ方ができるのも傑作だからだと思います。
…どうせ答え合わせがされることも無いでしょうから、言ったもの勝ちです。
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
P.T.の概要
極めてシンプルな一人称視点のゲームであり、ゲーム内で可能な動作は
- 視点の移動
- 前後左右への移動
- 凝視(ズーム)
の3種類のみです。
姿勢変更など、その他の動作は存在せず、扉の開閉すら主人公が扉に近づくことでのみ行われます。
このシンプルな操作性をもって、主人公はL字に曲がった廊下と隣接する2つの部屋のみで構成されたマップをさまようことになります。
基本的には一本道なので道に迷うことはありませんが、特定のフラグを立てないと延々と同じマップをループすることになります。
フラグを立てることに成功するとマップに変化が現れ、廊下の先の扉を開けると次のL字の廊下にたどり着くことができます。
道中で様々な霊的体験を繰り返しながら、隠されたフラグを解き明かすことで閉ざされた玄関の扉が開き脱出に成功します。
考察=妄想
私はゲーマーでもなければ評論家でもなく、ましてや物語を創造するクリエーターでもありません。
それでも、このゲームを体験することで様々な妄想を巡らせることができます。
P.T.の世界について私が妄想した内容を書いていきます。
P.T.の世界は「作りかけのゲームの世界」
メタ的に言えばP.T.は体験版で未完成のゲームといえることは間違いないのですが、ここで言いたいのはそういう意味ではありません。
P.T.は不完全な世界を意図的に表現しているという意味です。
P.T.というゲームは、
クリエイターの脳内で行われている創作活動をホラーゲームとして表現したものと考えています。
その理由については以下の通りとなります。
不完全なマップ
主人公がさまようことになる家屋内は、基本的に廊下と2つの部屋で構成されています。
ただ、玄関ホールで上を見ると、この建物は少なくとも2階建てであることが分かります。
しかし、マップ内には2階に上がるための階段は存在していません。
構造的に階段があるとしたら廊下の始まりである扉と終わりである扉の間なのですが、
そのあいだの空間は存在せず終わりと始まりの扉が直結しています。
さらに外は雨が降っているような音がしますが、廊下にある窓は漆黒であり外の風景は見えません。
ちなみにクリアすると外に出ることができるのですが、
外は多くの建物が立ち並び、夜とはいえ街灯も多く比較的明るい世界が広がっています。
窓からその光が見えないはずがないのです。
つまり、
主人公がうろつくことになる世界には、見える(聞こえる)範囲の情報しか存在していないと考えられます。
その他の情報(窓の外の風景や範囲外のマップ)は、まだ決まっていないのです。
恐らく決まっているのは以下の情報程度でしょう。
- 間取りは決めてないけど、廃墟ではなく生活感のある家を舞台にしよう。
- 住民に闇を感じる演出を作ろう。
- 不可解なことが起きている世界にしよう。
- 女の霊とその原因である事件を作ろう。
その結果、P.T.のマップが出来上がったのです。
ちなみに、ホラーゲームでよく言われるメタい意見として
「扉や窓を壊して逃げればいいじゃん」
というものがあります。
しかし、P.T.の世界では開始時点では外という概念がないため壊れないし出ることもできないのです。
難しすぎる謎
本来であれば正常なゲームの世界というのはクリアのためのヒントがあらゆる形で存在しています。
しかしP.T.の中にはクリアにつながるヒントは存在していません。
何かしらの行動をして結果が帰ってきて初めて意味のある行為だったというのが分かるのです。
いわば総当たりで挑まねばならず、そうなってくると難易度がどうこういう次元の話ではありません。
さらに、様々な霊現象やラジオから聞こえる謎の情報は支離滅裂であり、
この情報がヒントになってクリアにつながることはありません。
おそらくアイディアだけが放り込まれた状態の世界であり、部品はあれども組み立てられていない状態だと考えられます。
そもそも組み立てることができるかも分からない状態でしょう。
フラグを立てるための不可解な行動は「思考作業」を表している
上述の通り、クリア後に出られる外の世界は、ゲーム開始時点では存在していないと考えています。
玄関扉は施錠されているのではなく、現時点ではその先が存在せず、開くようにできていません。
ただ扉という情報がそこに居座っている状態です。
そして、プレイの中で主人公は様々な行動をしてフラグを立てていきます。
その中には一見意味の分からない行動が多く含まれます。(特定の歩数だけ歩く、写真を凝視する、何もせずに佇むなど)
この行為は、クリエイターの脳内で行われている思考作業を表しているのかもしれません。
フラグが立つと新しい怪奇現象が発生します。
これはクリエイターの考えが形になり、新しいアイディアを思いついたことを示しています。
そしてそれを繰り返すことで創作世界はより深く細かく、完成度の高いものになっていくのです。
紙袋は頓挫したアイディアそのもの
特定のフラグを立てた何回目かのループで、始まりの部屋のなかに血の付いた何かが入った紙袋が登場します。
どう見ても切断された頭部が入っているかのような膨らみと血痕が目立ちますが、彼?は主人公に語り掛けてきます。
「扉の先に自分の背中が見えるようになった」
「ここは分断された現実(セパレート・リアリティ)だ」
「俺なのは俺だけだ、お前なのはお前だけか?」
彼は主人公と同じように不完全な思考作業の世界に生まれ、様々な要素を組み合わせて新しいアイディアを創造していたのでしょう。
しかし、主人公(プレイヤー)のようにうまくフラグを立てられなかった彼は、何度もループを繰り返し、やがて廊下の世界は異常を来すようになってしまいました。
先を行く自分の背中に追いついてしまうということは、世界が崩壊してしまったことが分かります。
これは上手くアイディアが構成できず、物語が破綻してしまい放棄された世界があることを表現しています。
また、「分断された現実」という言葉からも、この廊下の世界が他の現実(創作物)から切り離された世界であることが連想されます。
分断された現実は、新しい物語を作るためのアイディア出しのためだけの世界であり、作業場にすぎません。
創作物は作業場で作られ、そして全く別の新しい世界として生み出されます。
新しい世界には作業場で考えられたアイディアが含まれますが、同じものには決してなれません。
つまり、P.T.の世界は分断された世界(思考作業用の世界)なのです。
玄関扉が開いたのはアイディアがまとまったことを表現している
クリエイターの脳内には様々なアイディアがバラバラになって漂っています。
P.T.では、主人公がそのアイディアを意味のある形に組み立てたため、クリエイターはさらに進んだ物語を作り始めます。
作家の人がたまに言う「頭の中でキャラクターが勝手に動き出し物語を勝手に紡いでいく」状態と同じようなモノでしょうか。
そして初めて外の世界が新しく生み出され、そこにつながる扉が開いた(クリアした)のです。
クリアの直前にラジオから流れる
「君は選ばれた」
というメッセージは、創作活動が軌道に乗り、この世界を本格的に創作していくことにしたというクリエイターの決意表明です。
つまり、P.T.の主人公をSilent Hillsの主役として抜擢することを決めたということです。
そして外に出た主人公は、おそらく同じように様々な行動をすることで新しい展開を生み出し、クリエイターはさらに深い物語を作っていくのでしょう。
そうした創作活動をゲーム中で表現しているのが「P.T.」だと考えます。
まとめ
P.T.の世界は、いわばアイディアノートやネタ帳の中身と考えられます。
ふと思いついたことを書きなぐり、書いた時点では不完全な情報の集まりです。
なんだか面白そうなアイディアも組み立てられなければ意味を成しません。
ある程度まとまったアイディア(=P.T.の廊下の世界)に生まれた主人公が自律して動くことで様々な要素が組み合わさり、一つの世界として完成に近づいていくのです。
P.T.の世界は不完全ですが、そもそもゲームの体験版(P.T.)は不完全なものです。
Silent Hillsの製作中止が発表される前に、インタビューで小島監督は「P.T.とSilent Hillsにつながりはない」と答えていました。
仮に計画が継続され販売にこぎつけたとしても、あの廊下の世界や、ラジオから流れる怪事件、リサと呼ばれる女性の霊の謎がSilent Hillsで解き明かされることはなかったのでしょう。
つまり、P.T.とは何か新しい試みをする際のクリエイター(この場合は小島監督)の脳内で起こっていることをホラーゲームとして表現したのだと思われます。
そのため、P.T.は作りかけのゲームの世界であり、興味を引く情報はあれども明確な答えが用意されていないのです。
以上が伝説の体験版「P.T.」に関する私の考察です。
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