2012年から続くファンタジー漫画。
メイドインアビス
とてもかわいらしい造形のキャラクターが、それはそれは悲惨な目に合う作品として
有名です。
Kindleで1巻が無料配信していたのを興味本位で読んでみたのがきっかけで、遅れば
せながらこの作品にハマった口です。
連載当初は不人気で打ち切りの話が出ていたとは信じられないほどに、
1巻だけでも作中に引き込まれ、そのまま既刊の11巻まで一括購入しました。
上述の通り、かわいいキャラクターがグロテスクと表現するにふさわしいほど悲惨な目にあいますが、ただショッキングなだけでは多くの読者の心に残ることはないでしょう。
何故メイドインアビスは読者の心に残るのか。
グロテスクでショッキングながらも魅力的なのは何故なのかについて考察してみます。
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ファンシーな見た目なのはキャラクターだけ
本作の特徴の一つはキャラクター造形の可愛らしさです。
作者の「つくしあきひと」氏が深刻な[検閲削除済み]のため、少年少女がとても可
愛らしいタッチで描かれます。
半面、アビス内の植生や原生生物の描写は極めて生々しく、人間を含めた弱肉強食の世界や「上昇負荷(呪い)」のシーンは事前知識なしではドキッとするレベルでショッキングです。
ただグロテスク、ショッキングなだけでは読者に受け入れられない。
登場人物が意味もなく悲惨な目に遭うだけの作品というのも世の中には存在します。
それらがフィクションである以上、そういった作品を作る人も楽しむ人も否定はできません。
しかし大衆に受け入れられるのは難しいと思います。
一般的には趣味の悪い漫画として、せいぜい虎の穴やまんだらけの奥のほうに陳列されるにとどまるでしょう。
では、何故メイドインアビスは受け入れられているのか。
それは、もろもろの描写がスパイスとして作用するほどに作品を作りこんでいるからたど思います。
言い換えれば、世界観設定が上手ということでしょうか。
人間の制圧下に無いアビスという危険な土地を描くには、人間が「弱肉」になるシーンが必要です。
アビスの探査が容易ではない理由の一つである「上昇負荷」の危険性を表すには深刻な描写が必要です。
ショッキングな描写はあくまで場面を盛り上げるための装置であり、決してメインに据えられている訳であはりません。
逆に言えば、作品を楽しみつつショッキングな描写が読者の心に深く残るほどに作品の完成度が高いということです。
例えば、スプラッタ色が強いにもかかわらず大人気になった映画に「SAWシリーズ」があります。
残酷な殺人ゲームが特徴的ですが、サスペンスとしての完成度から、スプラッタシーンはアクセントとして機能しています。
逆に「グロテスク」という2009年に公開された日本の映画は海外からも酷評されました。
「ストーリーもなければ登場人物の成長などもなく、過剰な残酷描写が描かれているだけで存在価値のわからない作品」という理由でイギリスでは販売がされず、Amazonでも自主規制がかかりました。
メイドインアビスは原作漫画のほかにも、アニメ化、劇場アニメ化、ゲーム化などのメディアミックス展開をしています。
見る人を選ぶのは否めませんが、娯楽作品として多くの人に求められているのは間違いないでしょう。
キャラクターに愛があるからこそ心を抉られる
例えば、リコが上昇負荷を受けて穴という穴から出血するシーン
例えば、とある探窟家がクオンガタリに寄生され眼下から幼虫がのぞくシーン
例えば、ミーティが呪いの影響で激痛を感じながら「成れ果て」に変異するシーン
例えば、レグがボンドルドの一派に人体実験を受けて腕を切断されるシーン
パッと考えただけでも、これだけのショッキングな描写が思い浮かびます。
しかし、これらはどれも「ショッキングなだけ」であるとも言えます。
もちろん作品を描くうえで外せない効果的な舞台装置なのは間違いありません。
私が特に心に残った、というかトラウマ的に心を抉られたのは一見グロテスクではないシーンでした。
ミーティを火葬砲で送るシーン。
レグがミーティを殺すことを決心した後、ナナチによりお別れの場をセッティングされています。
ミーティの寝床にはきれいなアーチ状の飾りを作り、周りにはナナチが作ったであろ
う可愛いぬいぐるみがたくさん置かれています。
ミーティに知性が残っているのかは最後までわかりませんでしたが、死の瞬間まで彼女はいつも通りこちらを見ています。
彼女を殺すのは自分のエゴなのかもしれない。
決して死ぬことのない彼女が、アビスでどんな末路を辿るか想像のついていたナナチですが、だからと言ってミーティを殺していい理由にはなりません。
それでも、この決心をしたナナチはどんなに辛かったでしょうか。
女の子が好きだろうものでミーティを囲み、できるだけ可愛らしく華やかに、苦しませずに送っ
てあげたいという思いがひしひしと伝わってきます。
ナナチがどんなにミーティのことを大切に思っていたか。
本当はずっと一緒にいたいのに、殺すしか救う手がないというのはどういう気持ちな
のか。
そういうことを想像させられる場面でした。
ただ死ぬだとか痛い目に遭うだとかの結果だけではなく、そこに至るまでにキャラクターの心に刻まれた苦しみが特に読者の印象に残るのではないでしょうか。
プルシュカがボンドルドへ愛情を向けるシーン。
リコたち一向が、ボンドルドを上昇負荷を利用して倒した際に、「パパ」の死に取り乱すプルシュカ。
しかし、精神を複製していたボンドルドは、アンブラハンズの一人を新たなボンドルドとして復活します。
「あなたの愛があれば私は不滅です」
そう言い、つい先ほどまで自分の死を悲しんでいたプルシュカを抱き寄せました。
「パパ」が生き返ったことがプルシュカにとってどれほど嬉しいことかは想像に難くありません。
満面の笑顔になったプルシュカは、両手をボンドルドに差し出して嬉しそうに抱きしめようとしていました。
結局その直後に眠らされて「カートリッジ」にされてしまいます。
自分が子育てをしてみて思うのは、子供が親に向ける愛情というのは純度100%だということです。
あまりに純粋な愛すぎて胸が締め付けられるほどです。
この時、プルシュカは本当にボンドルドが生き返ってくれて、大好きな「パパ」が無事でどれほど嬉しかったでしょうか。
これからも「パパ」と一緒に暮らせるとわかってどれほど安心したでしょうか。
言葉にせずとも伝わってくるほどの満面の笑顔でした。
「パパ」が自分を愛していて大切にしてくれていると信じて疑わない素敵な笑顔でした。
それほどまでに「パパ」のことを愛していたのです。
さらに、カートリッジにされる際にプルシュカが願っていたのは「パパ」とリコたち
が仲直りすることでした。
身体の大部分を切除される激痛の中でも、「パパ」と友達みんなで冒険に出ることを
心から望んでいたのです。
こんなにきれいな心を持っていられるのは子供のころだけです。
親は、この子供たちを守るためにいるのだということを、実際に親になって初めて心の底から実感したものです。
それを無常にも踏みにじるボンドルドの非情さと、プルシュカの最後まで潰えることのない愛に心をえぐられました。
まとめ
グロテスクなシーンばかりが先行して話題になりやすいのは、メイドインアビスに限ったことではありません。
ショッキングなものというのは読者の興味を惹き、特徴的なワンカットのみが一人歩きしていくのがネット社会です。
実際のところ、確かにグロかったりショッキングなシーンがあり、読み手を選ぶ作品なのは間違いありません。
しかし、それだけが魅力なのではなく、あくまでメインの要素である世界観やキャラクターの人生を描くのが本作の一番の魅力だと考えています。
ショッキングなシーンはそのためのスパイスの一つでしかありません。
それらが巧みに混ざり合って「メイドインアビス」という素晴らしい作品が展開されているのだと私は思います。
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