メカニカル・バディ・ユニバース
漫画家の加藤拓弐さんがTwitter上で不定期連載していた漫画の単行本がついに発売されました。
メカやミリタリーに対する描写の細かさが活きる、とても魅力的な作品です。
私も、氏のTwitterに作品が投稿されるたびに楽しんで読ませていただいています。
驚きなのは、連載を抱えている中で仕事の合間に描き始めた趣味の漫画だというのがきっかけとのことです。
世界観の広げ方や登場人物たちの群像劇など、片手間に作られた作品とは思えません。
さすがプロと言わざるを得ませんね。
この記事では、個人的に単行本化を待ちに待った「メカニカル・バディ・ユニバース」の紹介をさせていただきます。
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
あらすじと世界観
大規模な戦争後の世界を舞台に描かれる、複数のメインキャラクターたちが織り成す物語となります。
時代設定や国は不明ですが、現実世界よりもはるかに技術は向上しており、
自律型ロボットや、自意識を持つAIが普通に存在しています。
主人公の少年は戦災孤児であり、赤ん坊のころに瓦礫と化した街に放置されていました。
周囲には遺体も含めて人影がないため、捨て子だったのでしょう。
それを通りかかったAI搭載型のアンドロイドに拾われます。
このアンドロイドが、のちに彼の「母親」となります。
アンドロイドの見た目は、人型である以外には「いかにもロボット」という我々から見れば格好いい風貌だったのですが、
赤子にとっては恐ろしい外観だったようで、泣かれてしまいます。
ここで登場するのが「彼女」の顔になる「擬装用生態スキン」です。
端正な顔立ちの女性型で、はじめは首から上の分しかありませんでした。
しかし、赤ん坊はこの顔に安心したのか、母親と認識してすくすくと育てられていきます。
やがて育児に必要だということで、全身分の擬装用スキンを調達します。
メインストーリーの時間軸が、赤ん坊が青年まで成長し、一人前の傭兵として活動するようになってからとなります。
彼は、母親と一緒に仕事をこなしていくようになります。
時には大戦中に放棄され暴走しているドローンの破壊任務をこなしたり、要人警護を行います。
そんな生活をしていく中で、様々なキャラクターと交流を持ち、多くの経験を積むことになるのです。
キャラクター・登場人物
この作品は、明かされている情報が極めて少ないという特徴を持ちます。
大半の人物のバックボーンは限定的にしか描かれず、名前さえも不明です。
主人公(レイニー?)
上述の通り、戦災孤児であり、親の顔を知りません。
「母親」に拾われ、この世界で生きていくために戦闘訓練を受け、成長後は傭兵として生計を立てています。
「母親」がアンドロイドであることは認識していますが、「それがどうした」と言わんばかりに親愛の感情を抱いています。
とあるチンピラが、彼がアンドロイドを「おふくろ」と呼んでいるのを見て「人形遊び」と馬鹿にしますが、即座に殴りつけるほどに母親のことを大切に思っています。
修理の利く身体であるにも関わらず母親を気遣い、むちゃな戦い方をして損傷するたびにお説教をしているようです。
後に登場する「お嬢様」に特別な感情を抱いているようで、アンドロイドに育てられたとは思えないほどに健全に成長しています。
(お嬢様の正体を考えると「普通」とは限りませんが)
他にも、パーツ屋の主人やその孫、いかつい傭兵仲間とも良好な関係を築いており、気さくな性格に育ったことがうかがえます。
母親
ここまでに何度も言及していますが、彼女はアンドロイドです。
高度な自意識を持つAIを搭載した無機物です。
もともとはとある軍事組織で戦闘員として運用されており、戦争中は「相棒」の兵士と深い信頼関係を築きました。
自他ともに少年の母親と認識していますが、装着した生態スキンがたまたま女性型だったというだけで、性別は存在しませんし、性自認もありません。
戦闘に長けていますが、戦闘用に特化したアンドロイドではなく、人型の形状とサイズを持った汎用型と推測されます。
「息子」である主人公を親として深く愛しており、ほとんどの行動基準は息子のためになるかどうか、で判断しています。
また、主人公が問題なく社会に溶け込んでいることを鑑みるに、人間のと大差ないレベルで高度なAIを積んでいることが分かります。
しかし、彼女に飲み食いする機能がないために、作る料理の味はなかなか尖っているようです。
基本的には論理的な思考をしますが、人間と行動を共にしたり、AIが個性的な成長を遂げています。
息子に「おふくろ」呼ばわりされることに衝撃を受けたり、
息子に「気になる人」ができたことを知り動揺したり、
息子のコスプレを見たがったりと、
愛する息子が絡んでいると、感情豊かになるようですね。
パーツ屋の孫娘と自律機銃
母親がよく訪れているパーツ屋(ジャンク屋)の店主の孫娘です。
主人公よりも年下のようで、快活な性格をしています。
彼女が物語に絡むようになるのは、とある出会いがきっかけでした。
店から見える場所にあるビルにて、不審な発光物を見つけた彼女は、そこへ行ってみることにしました。
家財の類はもちろん、人っ子一人いない廃ビルにて彼女を出迎えたのは、一基の自律機銃でした。
見た目はAIを搭載したコンポーネントが頭部のような位置にあり、照準器付きの大型ライフルを支えるアームと土台となるボディだけの、見ようによっては人の上半身のみと言えなくもない姿です。
固定砲台として運用されていましたが、大戦の終結後に軍は解体され、回収の見込みもなくひたすらに眼下の景色を眺めて過ごしてたのです。
「母親」のような人型をしてはいませんが、同様に自意識を持っており、訪れた彼女に対して「一目惚れした」と宣います。
彼女は、その告白を受入はしないものの、交流を続けるうちに仲良くなっていきます。
機銃を運び出しパワードスーツと接続することで、自身の個人兵装へと改造しました。
彼女は機銃の協力を得て「正義の狙撃手 ホークアイズ(鷹の双眸)」結成だと息巻いています。
なんだか恥ずかしい格好いいネーミングですね。
その後の彼女たちは、「正義の味方」として、犯罪者や人を傷つける悪党を殺さない程度に狙撃で懲らしめる自治活動を行っています。
泣き女
ターミネーター:ニューフェイトに登場する老齢のサラ・コナーを思わせるかっこいいばあちゃんです。
彼女が「おしゃべりジュークボックス」と呼ぶ、箱型のAIと一緒に協会跡地の畑で野菜を育てて暮らしています。
当然、この世界で一人生きているということは只者ではありません。
その正体は、大戦中の機動戦車精鋭部隊「泣き女(バンシー)隊」の隊長だった女性であり、
一緒に暮らしているAIは彼女の愛機の制御用高性能AIです。
新兵のころは非常に泣き虫の女性兵士でしたが、戦闘中に孤立した際にその頭角を現しました。
味方とはぐれ、敵勢力の真っただ中に取り残された彼女は、機体制御用のリミッターを強制解除し、機体からノイズが走るほどの出力と高機動をもとに、単機で生還しました。
制御リミッターを外して、短時間のみ限界以上の能力を発揮するのは男の子ならば心の底に刺さります。
その戦果から「泣き女」という渾名がついたばかりか、のちに編成される精鋭部隊の名称にもつながります。
その後バンシー隊はどうなったのか、なぜ彼女が一人なのかは、本編から読み取ってください。
お嬢様とメイド
戦後の荒廃した世界で、なおも豪邸に住んでいる富豪の一人です。
どうやら何かしらの製品を製造販売している会社のようで、後述の理由から兵器もしくは兵器転用が可能な技術を用いた製品を取り扱っていると考えられます。
「お嬢様」はこの会社の社長で、製品開発も担っているようです。
容姿端麗で非常にきれいなたたずまいの女性です。
「お嬢様」の身辺の世話は同年代の「メイド」が執り行っているようですが、
ほかにも屋敷には「庭師」「執事」「メイド長」などの使用人が多数配置されています。
メイドのお嬢様に対する忠誠心は生半可なものではなく、暴徒がお嬢様に向けて発砲すれば躊躇なく自身の肉体を盾にするほどです。
ただ一つ、普通のお嬢様と使用人の間柄ではないことがあります。
それは、「お嬢様」がアンドロイドであるということです。
それもかなりの高スペックであり、全身に小型リアクターを搭載し、強化された骨格で構成されています。
拳銃弾程度では弾き返せるどころか、避けることすら可能だと豪語します。
さらに、指向性のエネルギー兵器も搭載しており、
メイドをはじめとした使用人たちの警備を突破した暴徒を、自らの手によって殲滅したこともあります。
アンドロイドの「お嬢様」は、生前の本物の「お嬢様」本人と同じ姿で製作されています。
そして、その製作者はお嬢様本人です。
その理由や、その結果による様々な軋轢については、ぜひ本編をご確認ください。
主人公と母親とは、警護任務を受け持った際に関係を構築しています。
主人公とお嬢様の関係、母親の介入と、なんともほほえましい世界が展開されますので、ぜひご一読ください。
口裂け女
都市伝説の口裂け女を思わせる風貌の女性です。
耳まで裂けた口と、ギザギザの歯(というより骨格?)が目立ちます。
口を隠しているとかなりの美人であり、そのギャップに魅力が詰まっています。
正体やバックボーンについて詳しくは明かされていませんが、バンシー隊の新人だったのは確かなようです。
彼女の乗機が敵に破壊されたのちに回収され、強化改造の被検体となりました。
その後、意識を取り戻した彼女が自らの姿を認識すると、周囲の構造物を破壊し姿をくらませます。
改造されたのは口だけではなく、同じく強化改造の被検体となった「てけてけ」と初遭遇した際は頭部を割られていますが、断面も口のように割れており、すぐに閉じてしまいました。
目的が不明な一派ですが、主人公と母親とは遭遇しており、一度戦闘も行っています。
さらに、「お嬢様の妹」がとある目的で口裂け女に接触したりと、今後のストーリーにも深くかかわってくることは間違いないでしょう。
この不穏なシーンについては、ぜひ本編をご覧ください。
まとめ
従来はTwitterでの不定期連載でしたが、2023年からヤングガンガンにて連載が決定しています。
これまで紹介しましたストーリーや設定、キャラクターは、あくまでも作者様の「仕事の合間に描いた趣味漫画」というのが期待値を押し上げます。
片手間に作ってこれだけレベルが高い世界を生み出せるのは驚嘆です。
それが商業誌での連載ともなれば、さらに不可彫りされた世界は、きっと私を虜にして離さないでしょう。
是非皆さんも、この魅力的な世界にどっぷりつかっていただきたいと思います。
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
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