スズキ唯知氏によって連載されている「レッドサン・インク」
緻密なミリタリー描写と、作者の好み(らしい)インフラ関係のネタがうまく組み合わさって引き込まれる面白さを発揮しています。
本記事では、レッドサン・インクの感想をネタバレありで記載していきます。
ご意見ご感想は Twitter:@tanshilog まで頂けますとうれしいです。
タイトル
カタカナと併記される形で「RED SUN Inc.」と記載されています
「Inc.」は「Incorporated」の略であり、日本語にするならばレッドサン株式会社となります。
タイトルがそのまま主要登場人物が経営・勤務している企業名となっているわけです。
レッドサンは日の丸を示しているようで、桐宮社長は日本のためという目的のために、あらゆる方法をもって利益をあげようとします。
…本当にあらゆる方法を取ります。
ストーリー
作中年代は1990年代終盤で設定されており、何となく懐かしい街並みや人々の振る舞いを見ることができます。
たまごっちとかポケベルとかルーズソックスとか、平成初期の文化です。
勤めていたハンバーガーショップを休職して、青年海外支援団にて途上国の教育水準向上の活動を行っていた「紺野啓太郎」
彼はフィリピンで開かれた日本大使館主催のパーティでRED SUN .Incを経営する「桐宮凛」と出会います。
RED SUN .Incは各所と強いコネクションを持ち、日本の国益のために暗躍している開発コンサル企業です。
紺野を言うに憚られる方法で無理やり協力させた桐宮は、持ち前の「交渉力」で様々な依頼をこなしていきます。
当初はその活動に否定的で強制的に協力させられていた紺野でしたが、桐宮のもつ危険な魅力に取りつかれ、RED SUN .Incに転職し世界を股にかける仕事を始めるのでした。
登場人物
複数の個所を仕事で巡り様々な立場の人間と接触することの多い本作では、必然的に登場人物は多くなります。
しかし、固定されているキャラクターはRED SUN .Incの社員くらいなので、覚えるべき人数は少ないです。
紺野啓太郎
紺野啓太郎は、青年海外支援団に参加し発展途上国の子供に対して教育を行うという活動をしている意識の高い青年です。
青年海外支援団のテレビCMに起用されるなど、活動は本腰を入れて行っていたようですね。
実際に現地で活動しているあたり、意識高い「系」ではないのでしょうが、自身の人脈や功績を誇り承認欲求に突き動かされているきらいがありました。
物語冒頭でも日本大使館主催の日本とフィリピンの何かしらの記念式典で、様々な大手企業の役員と名刺交換をしただけで人脈ができたと鼻の下を伸ばしているような人物です。
そんな中で「RED SUN Inc.」の代表取締役社長である桐宮凛に声を掛けられたのが彼の運命の分かれ道でした。
あからさまな色仕掛けにホイホイと乗ってしまった結果、数々のえげつないアダルトグッズ(一部工具を改造したものを含む)によって拘束蹂躙された彼は、その時の写真をネタに桐宮の業務への協力を強制されたのです。
彼女の経営する「RED SUN Inc.」は、日本の国益になる様々な業界からの依頼に基づいて業務を遂行します。
社員の数は多くはありませんが様々なコネクションを持ち、コネの無いところには無理やり割り込みを企てます。
第一話で紺野が協力させられたのも、高速道路の開発予定地であるフィリピンのとある村に立ち退きをさせるための突破口として利用するためでした。
銃撃戦などの危険な状況についての耐性は一切なく、きわめて平凡な日本の若者です。
当初は桐宮の行う殺人を全く躊躇しない業務に対して大きな嫌悪感を抱いていましたが、何度か無理やり参加させられると、彼女の持つ危険な魅力にひかれてRED SUN .Incに転職することになります。
他の社員とはすったもんだありつつも、ある程度の信頼関係を構築することができました。
彼の性格や能力上、囮や時間稼ぎの駒に使われることが多く、命の危険に晒されることも少なくありませんが、社員からの手助けもあり生き残っています。
また、戦えないなりに努力して囮としての使命を果たそうとするなど、社員からもある程度の仲間意識をもって接せられています。
基本的には心優しく、普通の青年です。
桐宮凛
RED SUN .Incの代表取締役社長を務める23歳の女性です。
容姿端麗で語学力や判断力に優れた敏腕社長ですが、目的のためには手段をいとわず、殺人に対する罪悪感や嫌悪感も持ち合わせていません。
紺野との出会いも、自身の魅力を利用した色仕掛けから入っており、その後の彼に対する所業も極悪非道と言っていいでしょう。
他にも気に入らない相手を必要以上に不快にさせたり、セクハラおじさんの自宅住所を突き止めてハードな風俗店員を勝手に派遣したりと、性格が良いとは言えません。
「日本の国益のため」という最大目的を持っており、富は限られたパイと同じだとしています。
ビジネスの現場でもよく聞きますよね、パイの奪い合い。
バブルがはじけた日本が世界で生き残っていくには、パイのある場所から奪うしかないとして、日本政府や大企業が表立って活動できない非合法な仕事も請け負っています。
会社自体は父親から引き継いだようですが、各国政府機関にもRED SUN .Incは知れ渡っており、ロシア軍ですらその危険性から彼女たちに手を出すことをためらいます。
数名の社員を擁しており一般的な事務処理や交渉のほか、彼女の私兵として活動しています。
社長として社員には十分な働きを要求しますが、自身の打ち立てた仕事のロジックが見事なまでに壊されることに性的な快感を覚える異常者です。
それは対立企業による妨害だけにとどまらず、自社社員(紺野)が思いもしない行動を取って事態を収めようとした時も発生します。
宇田川登
見た目は経理のおじさんといった、一見パッとしない中年の男性です。
基本的には背広姿で、「仕事」の際にはアームカバーを着用するといった、今では絶滅危惧種といえるスタイルですね。
RED SUN .Incの社員である以上、彼も堅気ではありません。
元陸上自衛隊の第一空挺団所属の隊員で、現役時代には非公式にイギリス特殊空挺部隊SASに参加しイラクでのスカッドミサイル狩り(砂漠の嵐作戦)に参加していたようです。
このことから、自衛隊内でも特殊な業務をしていたことが分かります。
当時は特殊作戦群も存在していなかったため、その前身組織に所属していたのかもしれませんね。
銃撃戦においても常に冷静沈着で、敵弾の変化から敵部隊の動きを予想すら可能です。
おそらく社員の中でも総合的な戦闘力はトップクラスでしょう。
さらに特筆すべき点が、人当たりの良さです。
職場に馴染めない紺野を気遣い、仕事で期待通りの働きをできず社員から総スカンを食らっていた彼にたった一人挨拶を返してくれた優しさがあります。
他にも、仕事についていけずに辞職しようとしていることを察し、不器用ながらも飲み屋に誘って愚痴を聞いてくれるナイスミドルです。
さらに愛妻家でもあり、家族の話を嬉しそうにする一面もあります。
誰に対しても敬語で話し、仕事もテキパキするので堅物的な印象を受けますが、とある話では紺野と口裏を合わせて桐宮社長に嘘をつくこともあるお茶目な面もあります。
その際に悪だくみを持ち掛けるニヤッとした笑いは彼の魅力を一段階上げました。
はい、私は彼が一番お気に入りのキャラクターです。
仁平優希
社員の中では紅一点。
小柄かつ金髪ショートヘア、さらに時代を感じさせるガングロの女性ですね。
見た目のイメージに違わず、強気で活発であり、仕事をミスる紺野に対しても厳しく接します。
元警視庁の特殊部隊隊員であり、ハイジャック事件に際して突入部隊に編成されるほど優秀だったようです。
その後は非正規活動に従事していたようですが、上官を殺害の末、なぜか不問にされてRED SUN .Incに転職したようです。
宇田川と同じく、正規の戦闘訓練を受けているため高い戦闘力を誇ります。
作中当初は、紺野のことを社長のお気に入りなだけの使えないお荷物として認識していました。
ロシアでの仕事中には仲間の危機に際してビビってしまい助けられなかった紺野の顔面に膝蹴りをお見舞いしています。
仲間に対する思いが強いことが伺え、紺野がとある犯罪組織に拉致された際は救出部隊の一員として現地に突入しています。
詳細は不明ですが、大切な人と会えない状況であるようで、誰かのことを思い浮かべていることがあります。
ちなみに、それがきっかけで命拾いした標的もいたりします。
相良尚輝
後述の浩輝と双子の兄弟であり、たびたび二人を指して「双子」と呼ばれます。
外見性格共に浩輝とは似ておらず、若干パーマのかかった髪型に大人しい立ち居振る舞いをします。
あまり目立った活動はしませんが、銃を手に取り戦闘も行いますし、殺人を厭うこともありません。
自身が窮地に陥った際に、紺野が敵を撃てなかったために一時は険悪な態度を取りましたが、その後は打ち解けて「紺野さん」と普通に話す間柄になっています。
ピアノ演奏の相当な腕を持っていますが、理由は不明なものの演奏することはやめていたようです。
浩輝と合わせて、裏社会においては「双子には手を出すな」と言い伝えられており、たった二人で関西のヤクザを一門壊滅させた実績があるようです。
相良浩輝
後述の尚輝と双子の兄弟であり、たびたび二人を指して「双子」と呼ばれます。
外見性格共に尚輝とは似ておらず、ストレートにした髪を肩まで伸ばしている90年代の若者といった風貌をしています。
おとなしい尚輝に対してきわめて快活な人物であり、紺野に対しても敬語交じりの打ち解けた口調で話します。
本人曰く、スイッチがオンとオフしかないため手加減ができないとのことです。
紺野がとある環境団体に監禁された際も、先に潜入していた相良兄弟が救出のために演技を打ちますが、暴行が全く加減できず紺野は流血することになります。
尚輝との連携は高度であり、紺野が殺されそうになった際は奪った銃火器を用いて敵を一掃し、監禁場所からの脱出に成功しています。
銃器について
本作の大きな特徴の一つとして、ミリタリー描写が細かいことが挙げられます。
上述の主要登場人物の装備も固定されており、巻末の資料で確認ができます。
全員のプライマリは9mm弾を使用する短機関銃です。
宇田川以外の3人はH&K社製の短機関銃MP5シリーズを使用しています。
それぞれ別モデルではありますが、弾倉は共通ですので弾の融通は効きます。
宇田川のみM4を使いますが、9mm弾を使用できるようにレシーバーと銃身を換装したモデルを使用しています。
拳銃も、宇田川のみM1911で、その他はSIG P229を使用します。
これらから考えられる装備の選定基準として、メインの弾薬は9mm固定で、銃は各自が使い慣れたものにしているのでしょう。
宇田川以外は拳銃も短機関銃も同じ弾薬を使います。
何かの拍子に銃本体をなくしても、拳銃も短機関銃も同じ弾を発射できるので便利ではあります。
宇田川はSASとしてスカッドハントをしていた際は、M4A1を使用しています。
M4を9mm弾仕様にしたところで外観そのものはほとんど変わらないので使い勝手に違いはありません。
拳銃も当時使っていたM1911を使っているのでしょう。
仁平は元警察特殊部隊なのでMP5には使い慣れています。
MP5シリーズの中でも特にコンパクトなPDWを使用しています。
短く切り詰めた銃身にフォールディングストックを装備していますので、小柄な彼女には使いやすいでしょう。
双子については出自の詳細が不明ですが、ヤクザを壊滅させた逸話を騙るワンシーンで斧やMAC10(11?)で武装していたので、こだわりがないとも考えられます。
兄弟はMP5A5とA3で選んだ銃に違いがありますが、ハンドガードの形状が異なるので好みの違いかもしれませんね。
改良型のA5に比べてA3のほうがハンドガードの耐久性は劣りますが、まあ限定的な運用なので問題はないでしょうね。
感想
ここまで書いてきましたが、正直な感想としては
ヨルムンガンドと似ている
という感想が第一に出てきました。
ヨルムンガンドは武器商人。
レッドサン・インクは開発コンサル企業。
どちらもリーダーは女性で何かの野望のために手段を選ばず業務を遂行し、そのために必要な私兵を従えています。
違いといえば、レッドサン・インクは主要人物が荒事に全く体制の無い一般人が当てられているということです。
とするとブラックラグーンとかと似てくるような気もしないでもないですが…。
とはいえ、キャラクターは立っていますし、各人が個性的でどんな展開になるのか楽しみにさせるストーリー展開です。
設定が多少に通った作品があるだけで、ストーリーそのものが似ているというわけでもありませんし、陳腐な設定で無理やり推し進めるタイプでもありません。
インフラ関係の知識が全くない私としては、読んでいて勉強にもなるので面白いというほかにありません。
魅力的なキャラクター、豊富な銃火器の描写、世界経済とインフラの話。
これらが組み合わさった本作は、購入の価値ありだと私は思います。
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