もしも不死の存在になれたなら。
光を超えた速度で動き回り、時間も意味を成さないほどの時間を使って外宇宙の惑星を探査できたら。
きっとSCP-2669のようになってしまうのでしょうね。
この記事では、2016年に開催されたDクラスコンテストにおいて、SCP-2439と並んで優勝した、
SCP-2669の解説を行います。
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SCP-2669とはナニモノか?
物理的な実体を持つSCiPで、平たく言えば財団製の惑星探査機(名称:Khevtuul)です。
太陽系外にて地球に類似した環境の惑星の探索および地球外生命体の探査を目的とした、プロジェクト・ヘイムダル(地球外脅威評価プロトコル)のために財団が秘密裏に打ち上げた探査機でした。
財団製である以上、当たり前のように普通の探査機ではありません。
以下のSCiP由来の技術が使われた超科学により、望遠ではなく実地で何光年も離れた惑星を直接探査をすることが可能になっています。
- 局地的な時空間歪曲による事実上の超光速推進システム。
ある地点とある地点を捻じ曲げて繋げることで光速の5.3倍以上の速度で飛行が可能。
質量兵器としての応用が容易なため、この技術は本機体に使用を制限するクリアランスが付与されている。 - SCP-2372の精神と肉体の遠隔接続現象を応用した無遅延の通信システム。
人間の意識を電子化し装置にアップロードすることにより、距離に関わらず瞬時に情報伝送が可能。
被験者は志願制であり、財団のアスマ・タリーン博士の精神がアップロードされている。
当初は予定通り惑星探索を実施しており、上記の技術により千光年以上離れた惑星の探査も順調に行われていました。
探査の結果は機密扱いになっているため全ての内容は分かりませんが、しかし開示されている情報を見る限りは生命の痕跡は見つけられなかったようです。
なぜSCiPになったのか
極めて順調に系外惑星の探査を行なっていたKhevtuul(以下:探査機)ですが、通信・制御システムとして採用されていたタリーン博士は終始順調とはいきませんでした。
当初は管制室から指示された惑星に生命の兆候がなくとも、めげずにポジティブに探査を続行しました。
時には自身の考えに基づき、司令部に探査対象の惑星を提案したりして前向きに任務に取り組んだりもしていました。
しかし、次第に任務以外についてのネガティブな意見が目立ち始めます。
なにしろ、ほとんどの時間を何もない宇宙空間で過ごし、何の成果も上げられない惑星探査のみをするのです。
さらに、指示される惑星は次第に地球からどんどん離れていきます。
タリーン博士に知らされていたかは不明ですが、制御プログラムにはもともと地球から無限に離れていくよう設定がされていました。
その上、SCP-2372と同類の影響のため、博士の精神は探査機から離れることができません。
やがて、博士は自身の肉体を破壊するよう求めます。
彼女には肉体があることである種の苦痛を受けているようでした。
しかし、財団はそれには応えず、次々に新たな指示を与えます。それもさらに地球から離れるように。
博士は財団が自分を回収する気もなければ助けるつもりもないと考えました。
事実、博士は本プロジェクトにおいて、D-43852の番号、つまりはDクラスに再割り当てされていました。
博士自身がそれを知っていたかは不明ですが、使い捨ての駒にされたのは間違いありません。
探査機に搭載されていた制御ソフトにも、自動で地球から無限に遠ざかるようプログラムされていました
そしてタリーン博士は財団との通信を遮断し、一時姿をくらまします。
この時、地球からは実に3,800光年離れていました。
記事内では徹底して日時が編集済みとなっており、どれくらいの期間がプロジェクトに費やされているかは不明です。
しかし、光速の5倍で飛行できたとしても、3,800光年は途方もなく遠く、単純に考えても760年はかかります。
博士のメッセージでも数十年という言葉が出ることから、かなりの時間が経過しています。
やがてタリーン博士は探査機の操縦系統を掌握。
時空間歪曲を繰り返して地球へのコースを取りました。
凄まじい速度に増速した探査機をぶつけて、地球ごと自分の肉体を破壊しようと試みています。
自らの精神を解放するために。
しかし、財団もそれに気付かないなんてことはなく、操縦系統の奪還を試みます。
特別収容プロトコル
簡潔にまとめると
- プロジェクト・ヘイムダルの当初の目的は破棄。
- SCP-2669との接続を維持し、可能な限り地球から引き離す。
- 鎮静プロトコルによりSCP-2669の制御を一時奪還するためDクラスを安定供給する。
根本的な収容方法が見つかっていないため、対処療法的なプロトコルが組まれています。
鎮静プロトコル
概要
SCP-2669は特定の手段で一時的に無力化が可能です。
その手段というのが、他の人物の精神をSCP-2669に追加アップロードするというものでした。
タリーン博士が追加された他人の精神を除去するまでの数週間は、探査機のシステムは財団の制御下に復帰します。
その間に出来るだけ地球から離れるようにコース変更をするのです。
ちなみに、追加される人員についてはDクラスに割り当てられ、徴用される人物は財団内外を問いません。
しかし、現在はとある理由から、難民キャンプから養子縁組という名目で一般の子供を調達する方法で暫定運用されています。
なぜ他人の意識を追加アップロードすることになったのか
財団はタリーン博士から制御権を取り戻すためにシステムの更新を試みましたが、成功することはありませんでした。
光速の5倍以上の速度で迫り来る小型の探査機を迎撃することも困難でしょう。
そして考案されたのが、
財団の意を汲んだ新しい人物の精神を追加アップロードし、タリーン博士の妨害、もしくは財団の指示に従う制御システムの確立を目指す
という方法でした。
そして、適任として最初に選出されたのが、ピーター・ウェスリーという財団勤務の博士です。
彼のもつ能力、年齢、トランスヒューマニズム(科学技術により人間の認知能力と肉体を進化させようとする考え)への賛意によるものでした。
また、専門分野が軌道力学であったことからも、宇宙生物学が専門だったタリーン博士よりも探査機の制御で主導権を握れると想定されたことも理由の一つです。
ウェスリー博士も同様にDクラスに再割り当てされ、手順は実行されました。
ウェスリー博士の精神のアップロードが成功すると、SCP-2669はセーフモードに入り、財団の指示を受け付けるようになりました。
その間に地球から無限に離れていくコースが設定されます。
しかし、3ヶ月後、再度SCP-2669が探査機の制御を掌握し、さらに以前より35%も効率化されたコースで地球へと前進を始めたのです。
さらにウェスリー博士の存在は検知できなくなっていました。
しかしながら、他の精神アップロードにより一時的とはいえ探査機の制御を取り戻せることから、繰り返し同手順を実行する承認がおりました。
ここから、SCP-2669を地球から遠ざけるために、さまざまな人物をDクラスとして雇用し、アップロードを繰り返していくことになります。
なぜ一般人をDクラスとして雇用することになったのか
数度目のアップロードの際に、タリーン博士と各Dクラスとの対話ログが検出され、タリーン博士は追加アップロードされた精神の記憶や知識を吸収することができると示唆されていました。
そのデータをもとに、Dクラスを選定する基準が設けられ、その基準を満たす人物のみが雇用されることになりました。
それが、財団のフロント企業を用いた難民の養子縁組につながっていくのです。
当初アップロードされていたのは財団の息がかかった人物でしたが、そういった人物の持つ知識などの特性はタリーン博士に吸収され、その都度彼女の有利に使われてきました。
そこで、何の科学知識も持たない人物であれば、タリーン博士の混乱を誘えるという仮説が立てられました。
まず初めに、本当に何も知らない人物の精神を同意なく抽出してアップロードしました。
被験者はひどく混乱しており、自分の身体がなくなっていることに動揺が隠せませんでした。
タリーン博士にとっては特に価値のない情報の塊だったようで、財団が自身の気を逸らすために送り込んだものであることを理解していました。
次に、昏睡状態にある患者の精神をアップロードしました。
タリーン博士はその精神を分析し、特に何の情報もないことを把握しました。
しかし、患者の奥底に残っている、痛みや苦しみ、味のない粥、患者が自身の人生に嫌気が差して自殺を試みたことを読み取ります。
そして患者の両親と思われる二人の顔の思い出を読み取ると、患者の精神には興味を無くしました。
しかし、患者は「ここからだせ」と繰り返し唱えているという悲しい終わり方をします。
最後の事例は、命名すらされていない新生児をDクラスとして雇用し、その精神をアップロードしたものです。
長期的な封じ込めが可能ではないかと実験的に行われたテストケースです。
タリーン博士は明らかに動揺しました。
新生児からは何の情報も得られないどころか、正確な場所すらわかりませんでした。
ただ感じるのは新生児が恐怖していることと、探査機の中に存在していることだけ。
タリーン博士は新生児の精神に呼びかけるものの応答がありません。
そして、彼女は自分達には時間が無限にあることを伝え、好きな時に出てきていいと話しかけます。
このことから、知識を持たない者、記憶を持たない者ほど、タリーン博士の注意をより長く引き付けられることがわかりました。
難民キャンプであれば、身寄りのない子供の調達に困ることはないでしょう。
養子縁組を偽装することで、余計な情報操作も必要ありません。
そして、そこで雇用されたDクラスを使うことで、より長期的にSCP-2669を無力化することができるのです。
まとめ
根本から言えば、このSCiPの原因は財団にあり、現在実行しているプロトコルは財団とSCP-2669の根比べ(消耗戦)であり、探査機は宇宙空間を行ったり来たりしているに過ぎません。
その度に罪のない一般人、それも子供や赤ちゃんを犠牲にして財団は地球の壊滅を先延ばしにしているのです。
やがてはどちらかが根負けして探査機は地球か何もない宇宙のどちらかに進むことになるでしょう。
それがいつになるかはわかりませんが、少なくともタリーン博士には時間が意味を成さなくなるほどに時間があります。
ところで、新生児の精神がアップロードされた際に、タリーン博士は「今までにない体験ね。声を出せたなら歓喜の叫びをあげていたでしょう。私はこれを求めていたのよ」と喜びを表現します。
もともと彼女は太陽系外の惑星に存在するかもしれない異星人の存在を探しに、自ら志願した人です。
しかし、宇宙には人類の他に生命が存在しないのだと考えてしまったことにより、精神と肉体が分離している状況によるネガティブな要素を解消することに意識が向いてしまいました。
彼女は何かを発見するのが好きな人だったのでしょう。
新生児の精神が入ってきた時、彼女はその存在を確信しながらも見つけることができませんでした。
これは彼女の求めていた「発見」につながる有益な体験だったのだと思われます。
これまでにアップロードされてきた精神を分解し、知識や記憶を取り込んできたのも、地球帰還への助けになるのはもちろんですが、隠されたものを探し出すという行為そのものにやりがいを感じていたのかもしれません。
つまり、新生児の精神を送り込むというのは、タリーン博士の注意をより長く引きつけられるということで、かなり有効な手段だということがわかります。
先述の通り、Dクラスコンテストという、財団の暗部であるDクラスに焦点をあてたコンテストの優勝作品です。
同意なく罪もない一般人をDクラスとして重用するどころか、生まれたばかりの赤ん坊まで使うという、なかなかに過酷なことをしています。
タリーン博士についても、探査機が地球から無限に離れていくことを知らなかった可能性もあります。
Dクラスという死んでも心の痛まない存在筆頭として描かれることが多い存在ですが、
彼らも財団の必要悪として存在しているだけで、元を辿れば一人の人間であることに変わりはないのです。
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