ミリタリー界隈でよくささやかれるのが、
64式小銃はポンコツである
という意見です。
何故そのような評価を受けているのか、
本当にポンコツ・駄作と言えるのか、
この記事では、
陸上自衛隊の教育隊にて64式小銃を貸与された私が、ネット上でよく批判されている欠点を3つ挙げて解説・考察していきます。
64式小銃とは

陸海空自衛隊にて1964年に採用された自動小銃です。
戦後初どころか国産初の自動小銃であり、当時のNATO共通弾薬である7.62mm×51弾を使用します。
そのため、現在のくくりではアサルトライフルではなくバトルライフルに分類されることもあります。
陸上自衛隊では1989年に採用された後継機である89式小銃に順次更新され、2023年現在では新隊員教育でも89式が使用されるほど更新が進んでいます。
さらにその89式の後継である20式小銃も採用されましたので、2世代前の旧式小銃ですね。
そのため陸自ではほぼ退役状態であり、予備自衛官補の訓練に使用される程度の運用となっています。
半面、海上自衛隊および航空自衛隊では基地警備用に使用が継続されており採用から50年以上経っても現役のご長寿小銃です。
ポンコツとされる理由とその反論
以下に64式小銃の欠点と言われる要素を列挙し、それに対する反論を(あれば)考察して行きます。
①重量が重い

弾倉等を除いた重量が4.3Kgと、現行の各種軍用小銃に対して重たいと言えます。
現に後継の89式小銃は3.5Kgと800gも差があります。
1964年当時の水準で言えば特別重たくない
実は7.62mmNATO弾を使用する小銃の中では特別重たい銃というわけではありません。
欧米人との体格の違いがあるため日本人にとって相対的に重たく感じるとは言え、当時の技術的には特別劣った重量ではないのです。
64式と同時期かつ同口径弾を使用するアサルトライフルの例としては以下の通りです。
- アメリカのM14は4.5Kg
- イギリスのL1A1(FALのセミオートモデル)は4.3Kg。
- ドイツのG3は4.4Kg
ちなみに銃本体が重いというのは何もデメリットばかりではなく、発砲時の反動を軽減する作用もあります。
後述の通り、64式小銃は拠点防衛火器としての性格が強く、そう考えると重量はあるものの精度の高い射撃を継続できる点ではメリットとも言えます。
②切替軸(セレクター)の操作性が悪すぎる

64式の切替軸(セレクター)は銃の右側にあるというだけでもやや珍しいのですが、それにも増して特異なのは
引っ張って回す構造になっている
ことです。
(上記の画像で引き金の上にある楕円形の部品)
大抵の銃のセレクターはレバーを回転させたり上下させたりするだけで発射方式の変更が可能です。
さらに握把(グリップ)を握る右手親指で操作ができるようなレイアウトになっており、咄嗟の安全装置解除や迅速な単発・連発の変更が可能になっています。
しかし64式のセレクターは右側にあるうえ、引き金より大分前方に配置されており、さらに引っ張って回す関係上グリップから右手を完全に放さないと安全装置の解除すらできません。
この構造のせいで突発的な戦闘や、状況の変動による単発連発の変更に手間取るという問題があります。
想定している状況が現代と異なる
国産初の自動小銃である64式小銃は、自衛隊という特殊な軍事組織で運用されることを前提に開発されました。
自衛隊は他国に攻め込むことはなく、想定する状況は専守防衛のみです。
そんな自衛隊で使われる64式小銃ですがら、侵攻してくる敵兵を待ち伏せて射撃することを念頭に置いた運用思想です。
二脚を標準装備しているのも拠点防衛火器としての性能を上げるためですね。
現代戦で頻発する市街地戦闘やCQBといった速度の速い銃を使った戦闘は考慮されていないのです。
そのため、安全装置の迅速な解除よりも、不意の撃発(暴発)を防止することを念頭に置いた設計になっています。
64式小銃のセレクターの構造上、第5匍匐前進をして銃を引き摺ろうが、森の中を走り抜けようが、安全装置が偶発的に解除されることはありません。
安全装置の不意の解除といったリスクとは無縁であり、スピードを犠牲にして安全性を取っており、その運用で問題ないと考えられる時代だっただけです。
③部品の脱落が多すぎる

1964年に採用された64式小銃ですが、後継の89式小銃が採用されるまでは生産が続いていました。
つまり、もっとも新しい個体でも1989年あたりに作られたということになります。
私が教育隊で貸与された64式小銃がいつ作られた個体だったのかは今となっては分かりませんが、かなりボロボロで被筒などは所々変形している有様でした。
それもあってか、やたらと色んな部品が脱落するのです。
自衛隊では物品愛護と通称される装備品を大切にする精神が強く、分解結合の時に脱落させれば腕立てを食らい、訓練中に部品を落とせば見つかるまで、マジで見つかるまで探し続けます。
これは精神面の意味もありますが、装備品は税金で貸与されているだけであり紛失などは許されないことと、
極端な話ですが銃の部品全てを一個ずつ失くしてしまうと拾得した他者が銃を組み上げてしまえるという安全面の懸念もあるためです。
少し話がそれましたが、とにかく64式は部品脱落が多いです。
個体差にもよりますが、何の対策もせずに訓練すれば絶対に幾つか部品を失くします。
そこで出番になるのが黒のビニールテープ、通称ブラックテープです。
上記の画像のように、ブラックテープで訓練のたびに脱落しやすい部品を固定します。
長年の先輩隊員の工夫により、テープを張り付ける箇所は決まっており、教育隊では必ず教えてもらえます。
非公式の手法ですが、全国の自衛官が皆修得する半公式技術です。
軍用銃のくせにそんなデリケートな扱いが必要なほどに部品が取れやすいのです。
ピストン桿止め用ばねピンとか、恨めしく懐かしく思う方も多いでしょう。
落ちやすいのは確かだけど、自衛隊側にも問題がある
64式小銃は自動小銃開発のノウハウがなかった豊和工業が開発しており、他国のアサルトライフルに比べて構造が複雑で部品点数も多いです。
その一つの要因が、弱装弾とはいえ高反動の7.62mmNATO弾の連射を制御しやすくするために撃発速度を下げる機械的な構造を取り入れたという理由もあります。
つまり設計が洗練されておらず無駄な構造になっているとも言えます。
構造が複雑になれば部品も多くなり、部品が多くなれば固定が甘くなり脱落の可能性が高まることもあると思います。
しかし、だからと言って64式そのものが悪いとは一概に言えません。
座学中に聞いた話ですが、上述したピストン桿止め用ばねピンなどの「特に落ちやすい部品」は、
メーカー的には「消耗品」に該当する部品だそうです。
要するに、継続した使用や分解結合などにより摩耗することが分かっている部品であり、定期的に新品に交換することが前提の部品ということです。
しかし、自衛隊の行き過ぎた物品愛護精神のせいか、交換時期を過ぎても使い続けているのです。
摩耗すればピンの径が細くなったり、結合部が消耗することで、脱落しやすくなるのは当然のことです。
つまり、64式小銃はもともと部品脱落の可能性が高い構造をしているが、さらに輪をかけて消耗した部品を交換しないことで異次元の脱落率を誇ってしまっているのです。
そして自衛隊にそういう行いをさせているのは日本であり、我々国民だという側面もあるのです。
まとめ

以上のように、64式小銃がポンコツ・駄作と言われる欠点が多く存在します。
しかし、あくまで現代から見れば致命的な欠点と呼べるものだったり、運用上の問題であったりと、64式小銃そのものの悪さだけによって酷評されているわけではありません。
現代では必要不可欠な機能が60年近く前の工業製品に備わっていないのは別に珍しくないのです。
それが国産初の製品であるならなおさらです。
とはいえ、決して傑作銃であるとは口が裂けても言えませんし、この記事では取り上げなかった意味不明な仕様による欠点もあります。
ロックできない可倒式の照星照門とか。
この記事が64式小銃に対するイメージ生成のお役に立てれば幸いです。
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