漫画家の岩宗治生氏によって執筆された漫画作品。
ウスズミの果て
漫画雑誌「ハルタ」にて連載されており、23年4月14日に第1巻が発売されました。
1巻発売に際してTwitterにて作者様が1話目を投稿してくださいました。
それがたまたまTLに流れてきて試し読みをした結果、あまりに面白くKindle版を即購入しました。
本記事では「ウスズミの果て 1巻」の感想を書き連ねます。
ネタバレ注意です。
作品概要
ポストアポカリプスな世界をベースにしており、大まかには「キノの旅」や「少女終末旅行」に似た雰囲気を持っています。
作中の年代は不明ですが、現代に対して相当先の時代であるようで、高度なAIや小型高火力な火器などが登場します。
主人公の少女は明確な目的のもとに崩壊世界を旅しています。
あらすじ
作中世界の50年ほど前に人類の大半が「厄災」により絶滅した世界です。
厄災の原因は突如発生した「断罪者」と呼ばれる異形の存在と、
断罪者が発する瘴気が原因の「結晶病」と呼ばれる致死性の病気です。
断罪者は人間に対して攻撃的で、特異型とされる個体は特に強力な火力を発揮します。
結晶病の原因となる瘴気は拡散型の断罪者が発する他、結晶病を発症した感染者の遺体からも発せられます。
主人公の少女「丑三小夜」は感染源の浄化と生存者の保護を任務として付与されており、謎の生物の「クー」と一緒に人影のない荒廃した街を探索します。
内容紹介
1巻に収録されている各話の感想を書いていきます。
ネタバレ注意です。
1話:静寂の街
物語の導入たる1話は、作中世界がどのような成り立ちになっているのかが大まかにわかります。
丑三小夜がどんな生活をしているのか、
なぜ世界が崩壊しているのか、
「断罪者」との遭遇、
「結晶病」の犠牲者の発見、
そして丑三小夜の正体の片鱗が示されます。
崩壊した世界の描き込みが細かく、また物資の調達方法も描かれており想像力が掻き立てられます。
食糧庫で朝食を調達する際には棚に置かれた食料を順番に持って行っているようで「もうすぐ、この棚もコンプリートだな」と独りごちています。
このシーンは映画「アイアムレジェンド」でDVDをレンタルショップから持ち出す際のネビルのセリフと被りますね。
彼女は結晶病の浄化、生存者の捜索を任務として課せられているようですが、浄化率は目標の0.002パーセントにとどまっているようです。
つまりダダ遅れですね。
ちなみにこの時点で、彼女は生存者に出会ったことがありません。
2話:式日
感染源の浄化について描かれます。
冒頭から丑三小夜は起床後早々に喪服に着替えます。
ちなみに普段携行している拳銃型の武器はショルダーホルスターで上着の下に携行しており描写にこだわりを感じます。
彼女が向かうのは未だ稼働を続けている大規模火葬場です。
そこには彼女が探索の末に発見した感染遺体が集められていました。
人はいませんがAI搭載型の機械が施設を運営しており、遺体の火葬を執り行っています。
これは弔いの意味もありますが、メインの目的は感染者の遺体の焼却処分です。
感染した遺体は腐敗することがなく、半永久的に瘴気を排出し続けるようです。
第1話で登場した感染者の遺体を回収していたのは焼却するためだったというわけですね。
この話で、彼女は厄災によって死んでいった過去の人々に思いを馳せます。
夥しい数の墓場の前で、せめてあの世では安らかに過ごせていればと。
遺体の焼却は感染拡大防止のための手順に過ぎません。
しかし、服装を正したり死した人々の冥福を祈ったりと、弔いの気持ちを持っていないわけではありません。
彼女が人間の生き死にに対して淡白な存在ではないことが見て取れます。
3話:シネマ
丑三小夜は今日も任務を続けます。
感染源の浄化のために訪れたのは崩壊間際の映画館でした。
ここには結晶病患者の遺体があり、瘴気を発していました。生存者はいないようです。
しかし映写機は起動しており、ホールにて映画を上映していました。
そこに目を向けると一人の人影があります。
生存者か、あるいは断罪者かと警戒する彼女の目に移ったのは、胴体と頭部のみのロボットでした。
そのロボットは自身を上記の遺体の人格コピーであることを説明します。
人類がいつ滅んだのかはまだ語られていませんが、高度に技術が発達していたようですね。
しかし人格コピーは成功率の高くない措置のようで運が良かったと述べています。
いずれにせよ結晶病に感染したら助かることはないためリスキーではなかったようですが。
急拵えの機体にコピーをしたため、移動はおろか身動きすら取れません。
しかし彼は映画さえ見られればいいと、このまま映画館と共に朽ちていくことを選びました。
二人は上映が始まった映画を一緒に鑑賞します。
すでに滅んだ世界、消え去ってしまった人々とその思い。
しかし、たとえ作り物でも映画の中には彼らの思いがそのまま切り取られて残っており、映画を見るものがいる限り、彼らが消え去ることはありません。
ちなみに作中世界では厄災が始まるはるか以前に世界大戦が起こっていたようです。
その時点で多くの文明が失われていましたが、この映画館は大戦前の映画を収集しては上映していたようです。
つまり、彼らにとっては映画の中の世界は遠い昔のことであり、なじみがない平和な世界だったのです。
時代が流れ、自分の知らない世界に対して思いを馳せられるのは映画の持つ力なのかもしれません。
4話:洋館
丑三小夜は今日も任務を続けます。
感染源の浄化のために訪れたのはかなり大きいお屋敷でした。
屋敷の内部に侵入した彼女は違和感を覚えます。
人が死に絶え、せいぜい過去の機械が限定的に稼働している程度の世界の割には、掃除が行き届いているのです。
そこに現れたのはメイド服に身を包んだアンドロイドでした。
アンドロイドは彼女を医者であると誤認し、屋敷の主人の元へ案内します。
曰く、51年ほど前から待っていた、と。
つまり厄災が始まったタイミングですね。
案内された先にいたのは、結晶病ですでに死亡していた男性でした。
彼に向けてアンドロイドは「医者が来てくれた」と説明をしますが、当然反応はありません。
丑三小夜は、自分は医者ではなく、感染源の浄化のために遺体を火葬すると伝えます。
アンドロイドは丑三小夜の言葉を拒否します。
主人はまだここにおり、いつも通り眠っているだけであると。
しかしどうしても連れていくなら、役目を果たせなくなる自身を破壊しろと訴えます。
彼女はその言葉に対して引き金を引くことができません。
アンドロイドと遭遇する前に、主人の遺した音声データを彼女は見つけていました。
メイドロボットに対して「クラウディア」と名づけ、自身の死後に一人残されるクラウディアのことを不憫に思う内容が吹き込まれていました。
他の浄化が全て終わり次第、また戻ってきて埋葬することを伝え、丑三小夜は屋敷を後にします。
この行為は問題の先延ばしに過ぎません。
屋敷を出た後に音声データの続きを聞くと、主人がクラウディアに対して「愛している」と遺していました。
屋敷の主人は単なるメイドロボットであるクラウディアに愛情を抱いていたのです。
そしてクライディアも、使用人として機能するAIを搭載している以上、極めて献身的に奉仕をします。
この事実を知った丑三小夜は、クラウディアを破壊して彼を埋葬できるのでしょうか。
5話:転居
丑三小夜が滞在していたエリアの浄化が全て完了しました。
他のエリアに移動するために引っ越しの準備をします。
お世話になった火葬場の管理ロボットに別れの挨拶を済ませ、次のエリアで新しい拠点を探しました。
とある部屋を選び荷物を運び込んだところ、以前の生存者が遺した避難用施設の座標が記されたメモを見つけます。
その施設は完全循環型の施設で、数世代にわたって生存が可能な設備を有しているとのことでした。
おそらく避難したのは災厄が発生した50年前でしょうが、世代交代して生存者が残っている可能性がたいでしょう。
しかし、たどり着いた施設はひどく破壊された状態でした。
隔壁には10メートル以上はあろうかという大穴が空いており、内部には防護服姿の遺体が多数残されていました。
その遺体も防護服を着てはいましたが、結晶病に感染したようで身体中に結晶状の腫瘍が出現していました。
そこには人間の遺体の他にも「特異型」と呼ばれる断罪者の死骸も残されていました。
極めて高い攻撃力を持ち、碌な兵器もなく相打ちまで持ち込んだことに彼女は驚きます。
さらに探索を続けると、あからさまなバリケードが築かれたエリアを見つけます。
その先は可愛らしい装飾が施され、おもちゃにあふれた子供部屋のようでした。
その際奥のテント内には子供たちの遺体が残されていました。
子供たちには外傷はありませんでしたが結晶病に感染したようです。
防護マスクをつけていましたが、呼吸用のボンベが空になってしまったのでしょう。
施設内で特異型と差し違えたの防護服姿の遺体たちは、この子たちを守るために戦ったのでしょう。
また、先の遺体たちが結晶病に感染していたということは、特異型の襲撃は急遽起こり、その時点で瘴気に暴露していたのです。
死が確定的であったにもかかわらず、それでも子供たちを守るために大人は勝ち目の薄い戦いを決意したのでしょう。
私も二児の父親です。子供を守るためなら死に物狂いで戦う気持ちは共感できます。
この場所はすでに死んだ場所ですが、その跡を訪れることでかつてそこに生きていた人の思いを汲み取れるのは映画と同じなのかもしれません。
6話:シェルター
新しい区画で任務を開始した丑三小夜。
一体の地図をダウンロードしたところ、近隣に丑三技研機関が管理しているシェルターがあることが分かりました。
丑三技研機関とは彼女が臨時職員として勤めている組織であることが以前の話の中で出ていました。
たどり着いたシェルターの周囲には多くの感染者の遺体が残されていました。
それを訝しんでいると、シェルターの監視機能が彼女とクーを丑三技研機関の職員として認識し、シェルターの扉を開いたのです。
シェルターを管理する人工知能が少年のようなビジュアルの立体映像を投影して挨拶をします。
このシェルターは丑三技研機関が設定した選定基準を基に受け入れの可否を決定しているようで、シェルター前の遺体は基準を満たさなかった者たちの末路でした。
内部を案内される彼女たちですが、1,000名の収容が可能な施設にもかかわらず、現在は利用者はいないことが判明します。
当初は320名の収容者がいましたが、シェルターの管理権をめぐって殺し合いにまで発展したようです。
こういう時の常ですが、トップを決める争いというのはそれ以外のものを排除しきって終わるものです。
つまり、最後の一人になるまで殺し合いが続いたということです。
では最後の一人はというと、現時点では死亡していました。
白骨化が進んでおり、結晶病とは別の死因だったことが窺えます。
実はこのシェルターには外出許可が降りないという致命的な問題がありました。
管理AIはこのシェルターが完全なものであると自認しており、外部に出る必要を理解できていませんでした。
さらに外部に出ること自体が危険な世界との接点を持つというリスクを内包しているため、管理者権限があろうとも許可されることはなかったのです。
最後に残った一人は、シェルターの全てを手に入れましたが、人とのつながりを完全に失ってしまい、外に出ることが叶わないと知るや否や、自ら命を絶ってしまったのでした。
この話のテーマになっているのは、選民思想と価値観の押し付けに対するアンチテーゼでしょう。
シェルターに入れる人間は傷病や犯罪歴のない清廉潔白を求められます。その基準に満たない人間は、たとえ収容人数に余裕があっても受け入れられませんでした。
さらに、シェルターのAIは自身の完全さを自負しており、外の世界など選択肢のうちになりません。AIが持つ価値観を収容者に強要していたのです。
その結果は破滅です。
丑三小夜は当然シェルターに留まるつもりはありません。
携行している拳銃型の武器をクーに有線で接続し、出力を増加させて隔壁を破壊します。
つまりは力づくで出ていくことを選んだわけです。
シェルター側も危害を及ぼす危険人物として、無人攻撃機を動員して彼女を制圧しようとします。
どちらもが自分の都合を押し通すために力を行使するのはどの世界でも変わりません。
それを避けるためには話し合いをして妥協点を探すしかないのですが、双方の意思が強い場合は話し合いでは決着がつきません。
この話でも、丑三小夜とシェルターは双方の意思を貫こうとします。
それが悪いことなのかは分かりません。
それでも、どちらかは悲しい結末にしか辿り着かないのは間違いないのです。
この戦いの結果、彼女は片目の喪失や体への被弾を受けますが、程なくして再生しています。
7話:博物館Ⅰ
丑三小夜は今日も任務を続けます。
この日訪れたのは大きな博物館でした。
かなり破壊が進んでおり、大きな穴がいたる所に空いています。
その中で、頻繁な使用の痕跡が見られる階下に続くハシゴを見つけます。
辿っていくと、密閉されたテントのような拠点があり
一人の生存者の姿がありました。
丑三小夜も生存者も、互いに生きた人間がいることに驚きを隠しません。
生存者は高齢の男性で、元々はこの施設の職員でした。
50年前の災厄の日に同僚たちはみんな「拡散型」の断罪者に食い殺されましたが、彼だけは「運悪く」生き残り、博物館の地下で隠れ生き続けていたそうです。
この男性は丑三小夜と同じ目的を持って活動していました。
それは断罪者の中に取り込まれたかつての仲間たちの遺体を掘り返すことでした。
すでに拡散型の断罪者は活動を停止しており、取り込んだ感染者の遺体を基に瘴気を吐き出し続けるだけの存在になっています。
拡散型の断罪者を浄化するために訪れていた丑三小夜は、彼と協力することを決めます。
とはいえ、男性によって断罪者の身体にはすでに十分な穴が穿たれており、丑三小夜の武器を活用することであっさりと断罪者の体内に入ることができました。
内部には彼の同僚たちの遺体が腐敗することなく残っていました。
その中の一人は、彼にとって特に大切な人だったようです。
数十年にわたって一人きりでシェルターに閉じこもっていた彼ですが、老いによる人生の終わりを感じるようになって外に出られるようになったようです。
そして、残りの時間を、同僚たちを解放することに費やすことを使命と捉え、たった一人で膨大な時間を使って断罪者の身体に手作業で穴を掘っていたのでした。
8話:博物館Ⅱ
遺体の搬出が完了し、火葬を終えれば浄化は完了といった段階まで進めることができました。
男性は、丑三小夜に対して質問をします。
世界は瘴気に満ちており、防護服なしでは感染は免れません。
それなのにマスクもなしで生きているのはなぜなのかと問います。
それに対して、彼女は自身の正体を明かします。
結晶病は人間に感染し死に至らしめる病であることから、
丑三技研機関では「根本的に身体の構造が異なる人間」を生み出して復興任務に充てる
「永遠の子」
という計画を実行しました。
彼女はその計画の唯一の成功例であり、不死の人造人間だというのです。
それを信じられない男性ですが、彼女は目の前で掌を切り裂いて見せます。
傷ができ出血しますが、瞬く間に傷が塞がります。
「普通、人間はこうはならないと聞きました」と彼女は言いました。
これまでの話の中でも、普通の人間では致命傷になる損傷ですら死亡せず、急速に傷が再生していく描写がありました。
また、「こうはならないと聞きました」という発言から、おそらく彼女が自我を持ってから、生きた人間に出会ったことがないのでしょう。
そういえば、最初に男性に出会った際に、彼女もあり得ないものを見ているかのような驚き方をしていました。
彼女は自己紹介をする際は丑三技研機関の臨時職員だと名乗ります。
彼女が稼働を開始した時点で機関に生存者はおらず、残されたデータを基に自分に与えられた役割を知り、自発的に任務を開始したのかもしれません。
それを示すのが、第1話で示された浄化目標に対する達成率と考えられます。
組織的なバックアップが途絶えている状態で、彼女が単独で任務を続けているため、目標とかけ離れた状況になっていてもおかしくありません。
この話の結末はメリーバッドエンド的なものになります。
ぜひご購読いただければと思います。
1巻で分かったこと
- 丑三小夜は不死身の人造人間
殺すことができるかは不明ながら、普通の人間の致命傷に耐え、眼球の欠損等を自己再生する - クーと呼ばれる謎の生命体
小夜の持つ拳銃型兵器に有線接続することで威力を飛躍的に高められる。
また人語を介する。 - 断罪者
おおむね人型のシルエットで人類に対して敵対的。
瘴気と呼ばれる結晶病の病原体を放出している。
「特異型」と呼ばれる攻撃特化のタイプ、「拡散型」と呼ばれる瘴気の放出に長けたタイプが存在。
小夜の携行する火器で殺害可能。 - 結晶病
空気中に存在する瘴気が原因で発症する病。
致死率が100%で体中に結晶上の腫瘍ができる。
感染した遺体は腐敗せず、また瘴気を放出する。
焼却処理をすることで瘴気の放出を止める(浄化する)ことができる。
浄化後は空気中の瘴気は長持ちしないのか、やがて感染力がなくなる模様。 - 丑三技研機関
小夜を作り出した組織(詳細不明)。
人造人間の製造や各地にシェルターを保有していたりと大きな力を持っていた模様。 - 厄災のはるか以前に「大戦」が起きていた。
我々の世界の世界大戦とは異なるようで、多くの文明や生物が滅ぶ規模の戦争だった。
まとめ
終末世界を旅する。
こういう妄想は、男の子なら誰しもしたことがあるでしょう。
私は今でもしていますよ?
さあ恥ずかしがらずにカミングアウトしてください。
冗談はさておき、ポストアポカリプスという設定は古今東西で人気が途絶えることはありません。
実際に私たちの世界に終焉が訪れてほしいわけでは決してありませんが、だからこそ、その世界に想像力を働かせて楽しむことができているのだと思います。
丑三小夜とクーについては明かされている情報はまだまだ少ないです。
今後も彼女たちの旅についていき、作中世界がどうなっていくのか追っていかせていただこうと思います。
興味を持たれた方はぜひ購入してご一読ください。おすすめです。
巻末には世界が崩壊する前の「記録」がオマケ的に描かれています。
作中に登場した彼ら彼女らがどのような人生を過ごしていたのか、その片鱗を垣間見ることで物語への没入感を深めることができます。
以上、ありがとうございました。
コメント