ブラッド・ピット主演で映画化もされたゾンビサバイバルホラー作品
WORLD WAR Z(ワールドウォーZ)
その原作である小説についてネタバレありの感想を書いていきます。
映画版もなかなか面白かったですが、小説版は全く異なるアプローチでゾンビとの戦いを描いています。
脚本は全く別物であり、ジェリーやティエリーなどのような主要人物は登場しません。
ユルゲン・ヴァルムブルンは名前は登場します。
特定の主役は存在せず、様々な人物のインタビュー記録の集まりの体裁をとっています。
インタビュー対象者は、ゾンビ災害に直接立ち向かった軍人や研究者のみならず、医者や宇宙飛行士、主婦など多岐にわたります。
ちなみに日本人も登場します。
アメリカ人が日本人をどう思っているのかよく分かりますよ。
映画版
小説版(上下巻)
作品概要
地球規模でゾンビが蔓延してしまった世界です。
人類は滅亡の一歩手前まで追い詰められましたが、何とかゾンビを退けて復興の第一歩を踏み出しました。
本作はゾンビ戦争の終結後、
様々な人物に対してインタビュー形式をとりながら
、ゾンビの発生から鎮圧までの世界を描くという
オーラルヒストリー形式というスタイルをとります。
本作世界ではゾンビとの戦いはもちろん、それに伴う人間同士の争い(宗教問題による内戦、難民問題による核兵器の使用)も描かれています。
滅私奉公して国や生存者のために尽くす人物もいれば、私利私欲にまみれた人物も登場します。
ゾンビとの戦いはおよそ10年間続き、多くの人命が失われたほか、
価値観の反転(ゾンビ禍の後はホワイトカラーの価値は著しく低下など)が引き起こされました。
また、あくまで登場人物たちの視点でのみ描かれるため、
ゾンビウイルスの発生源をはじめとした多くの謎に答えが示されるとは限らないというのも特徴です。
また、様々な国でインタビューが行われており、いろいろなお国柄を反映したストーリーが楽しめます。
例えば、アメリカであれば米軍の強さの誇示、日本では引きこもりや刀の達人が登場、ロシアであれば古代ローマの残虐な10分の1刑の実施など、それぞれのお国柄やキャラクター性をやや誇張して描かれています。
10分の1刑については以下にまとめています。
ゾンビ
本作に登場するゾンビはウイルス性であり、人間の死体を活性化させます。
おおむね以下のような特徴を持っています。
完全な動く死体
完全な死体を動かす未知のウイルスであり、あらゆる生命活動は停止しています。
その停止具合たるや、脳さえ無事なら首から上だけになっても行動が可能です。
そのため、効果的に頭部を破壊できない限りは物量に押されてしまいます。
例えば、作中では最先端技術を搭載した兵器と装備をもった米軍部隊がゾンビの大群に大敗する事件が述べられます。
敗北の理由も皮肉的で、科学技術に誇りを持つため最先端の装備を纏った兵士によりゾンビを蹴散らすデモンストレーションの意味合いが強い作戦でした。
そのため、インタビューに答えていた当時の現場の兵士はその作戦の意味合いを見抜いており、怒りを見せていました。
具体的にどのように戦闘が推移したかについてはぜひ本作をご購読ください。
体液の変化
血液がタール状の比重の重い粘度の高い体液に変質しています。
この変異によって以下の特徴があります。
- 水に沈むため水底を歩くことができる。
ゾンビは泳げませんが、海や川を隔てても歩いて渡ってくることが可能です。
またかなりの深度に耐えられ、中国軍の潜水艦にゾンビが群がる光景もありました。 - 火器の影響を受けにくい。
大口径の砲弾や爆発物による人体の破壊に対する耐性を持っています。
体がバラバラになりにくいため、活動の抑制効果が著しく低くなります。
ゾンビと人間を見分けることができる。
作中にて、「寝返り」と呼ばれる精神に異常を来してしまった人々が登場します。
ゾンビに対する恐怖と将来への絶望から、自分がゾンビであると思い込みそのように行動するようになってしまう精神疾患です。
普通の生活を全くしなくなり汚れ放題になり、行動の模倣も相まってゾンビとの見分けが非常に困難になります。
そのため、作中世界ではゾンビと間違えて殺害されたり、ゾンビにかまれても発症しないケースとして誤認されたりしました。
また、寝返りは単なるごっこ遊びではなく、実際に人間を襲って肉を食べようとします。
行動パターンは完全にゾンビですが、ゾンビにとっては生存者と何ら変わらないようで、普通に襲って食い殺しています。
目視に頼らない未詳の方法で生存者を判別しているようです。
この病の原因は恐怖と不安を克服するために、その元凶である勢力に自分を売り込もうとする心の防衛反応だと作中では語られています。
実際に、第二次世界大戦で占領された町の住人は敵国の軍に協力したり入隊を希望するケースが多かったと語られています(真偽不明)。
ちなみに、寝返りの存在が公に判明してからは、なるべくゾンビと識別して殺すことなく確保して治療を行う、という方針があるようです。
ゾンビは瞬きをしないという特徴から、時間さえあれば寝返りの判別は可能です。
ただ、作中の人物曰く、治療をしているとは考えていない、と推測してはいます。
文明が崩壊した世界で人権を認めず便利に使える検体にでもなっているのでしょうか。
対処法
脳を破壊する。
ゾンビの活動を止めるためには、これ以外にできることはありません。
しかし、それに至るまでの具体的な方法はいくつかあります。
- 銃火器を使用して遠距離から頭部を破壊する。
多くの国でとられていた戦法で、開けた場所であれば十分な効果を持ちます。
逆に言えば街中や森の中、屋内などの遭遇戦が多い場合は危険があります。 - 刃物や鈍器で頭部を破壊する。
銃が手に入らない国の人や弾が尽きた場合の最後の手段です。
十分な距離まで接近して頭部に打撃を与えるのですが、当然ゾンビに捕まれる危険が高くなります。 - ゾンビを凍結させてから頭部を破壊する。
ヨーロッパなどの寒冷地で行われていた戦法で、厳しい冬の寒さを利用した戦い方です。
寒さによってゾンビは凍結しますので、その間に頭部を破壊すれば安全に処理できます。
気温が上がればゾンビは解凍されて活動を再開しますので、冬の間にどれだけ処理できるかが重要でした。
元ネタ
本作の作者が執筆していた「ゾンビサバイバルガイド」がベースになっています。
アメリカでは特にゾンビが人気です。
このゾンビサバイバルガイドは文字通りゾンビが発生した場合のサバイバルに焦点を当てたガイドブックです。
ちなみに、ゾンビサバイバルガイドは実際にゾンビが発生した架空の世界で発行されたサバイバルブックであるという設定を持っています。
小説版の「WORLD WAR Z」の世界でも同様の書籍が販売されていることがインタビューの中で語られています。
メタ視点でいえば、
「ゾンビサバイバルガイド」が初めにあり、
このガイドが生かされる世界を後で執筆したのが「WORLD WAR Z」ということですね。
このゾンビサバイバルガイドも読んだことがありますが、ゾンビに対する対処法や生きていくために必要な知識や技術が紹介されており、ゾンビや終末世界が好きな人にはたまらない一品になっています。
まあ、米国の本ですので個人所有可能な銃器についての記載や、大きなSUVで逃避行をする際の装備案など、必ずしも日本の文化に装とは限りませんが。
ぜひ合わせてご覧いただくことをお勧めします。
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