自衛官は何故「早食い」なのか
関わりのない方はご存じないかもしれませんが、
自衛官はとにかく食べるのが早いのです。
一般人が半分も食べないうちに、大盛ご飯をぺろりと平らげてしまいます。
なぜ自衛官は「早食い」なのでしょうか。
その理由と、早食いに至る経緯を私の体験談を踏まえて解説します。
時間がないから
自衛隊に入隊すると、まずは教育隊に入隊します。
教育隊は、ただの一般人の若者を新人自衛官に生まれ変わらせる部隊です。
今までの人生(18~32年間)で心身ともに染みつけてきた「自衛隊にそぐわない要素」を3ヶ月で削り取るのが主な仕事です。
そのため、極めて厳しく指導を受けることになります。
まあ厳しいといっても陸曹教育隊やレンジャーなどとは雲泥の差がありますが、とにかくカルチャーショックの連続が新隊員を待っています。
その一つが「徹底的な時間管理」です。
教育隊では文字通り分刻みでスケジュールが設定されており、その時間に一秒でも遅れようものなら腕立て伏せという罰則反省が待っています。
やるべきことは盛り沢山ですが、それにかけられる時間は僅かしか用意されていません。
であるならば、可能な限り各動作の時間を短縮して、自由にできる時間を捻出するしかありません。
その一つが食事です。
20分かけている食事を5分にできれば15分も自由な時間ができます。
この時間を使って今後の準備をすることで、全体的なスケジュール感に(ほんの少し)ゆとりを生み出すことができます。
別に具体的な作業をしなくても、ほんの数分だけ動きを止めて深呼吸し、体の力を抜くことができるだけでもモチベーションに影響するのです。
なぜ厳しい時間管理をするのか
自衛隊の主たる任務は国土の防衛です。
言うまでもなく命のやり取りを行うことが前提となっています。
軍事的な行動というのは、すべての諸職種(兵科)が緊密に連携し、それぞれの実力を連携して発揮することで最大限の効果を発揮します。
つまり、自分が一秒遅れることで味方や守るべき国民の命を失う可能性が付きまとうわけです。
有事の際に確実な行動をするために、平時の内から時間厳守の習慣をつける必要があるのです。
なぜ食事時間を短くするのか
シンプルに言って、3度の食事はある程度の長さの休憩時間中に設定されているからです。
- 朝ご飯を早く食べれば、身支度や居室の整備に時間をかけられます。
- 昼ご飯を早く食べれば、身体を休めたりPXで買い物やジュージャンしたりしてリフレッシュできます。
- 晩御飯を早く食べれば、靴磨きやプレスの時間が増えたり、翌日の準備をゆとりを持って行えます。
全ての動作を早く正確にすることが求められますが、食事というのは口に入れて(噛んで)飲み込むだけというシンプルな動作のため、効率が良いことに気付くのです。
どうやって早食いするのか。
一度身に着けてしまうと分かるのですが「喉を広げてたくさん飲み込む」ことで咀嚼から嚥下の時間を短縮できます。
要するに噛まなくても飲み込めるようになるのです。
身体が慣れることで自然とできるようになります。
これは身体が仕上がってからの話ですが、早食いのテクニックは以下のようなものがあります。
食事の喉越しを追求する。
ご飯に味噌汁をかけ、飲み込むまでの噛む回数を減らすことでスピーディに胃袋に送ることができます。
咀嚼は時間がかかります。
慣れれば碌に噛むことも無く、まるで飲み物を飲むかのような速度でご飯を食べられるようになります。
温度を下げる
食事が熱いと飲み込むのに時間がかかります。
温度を下げる最も効率的な方法は、冷やすためにお茶や水を入れればいいのです。
アツアツの味噌汁などは最高に美味しく頂けるのですが、こと時間がない状況においてはタイムロス以外の何物でもありません。
たくさん水を入れてキンキンに冷やす必要はありませんが、ごくごく飲める温度と美味しさを両立させる最大公約数的な薄め方を模索するのです。
口と左右の手を同時に動かす。
一般的には、食事を箸で口に運ぶと、噛んで飲み込むまで動かない方が多いと思います。
しかし、それは時間の無駄です。
口に入れて噛んでいる間に、次の器の中身を箸でつかみます。
飲み込むのと料理を持ち上げるのを同時に行い、口内にスペースができた瞬間に次々と口に入れます。
これを食べ終わるまで繰り返し、最後にはお茶や水を口に含んで一気に飲み込みます。
まとめて口に入れる
本当に時間の無い時の方法でした。
ご飯もおかずも汁物も、すべてを同じ器にぶち込んで、まとめて口に入れるのです。
私が今でも覚えているのは以下のメニューのごちゃまぜ丼です。
- 白米
- 白身魚のフライ
- コールスローサラダ
- 味噌汁
こいつらを全てご飯茶碗に乗せ掻き込みました。
コールスローサラダのおかげで温度は下がったのですが、あの酸味のあるドレッシングがまた微妙な味になってしまいます。
魚のフライも味噌汁でふやけ、お世辞にも美味しいとは言えない味になります。
しかし、おかげで指定された「5分後に食堂前に集合」を達成することができました。
ちなみに「5分」には食堂で並ぶ時間も含みますので、実質は1~2分程度の喫食時間しかありませんでした。
この日は班長の機嫌が悪かったのかこんな無茶を言いつけられ、時間通りに出てこられたのは私を含めて数名のみでした。
当然連帯責任で腕立てです。
まとめ
言うまでもないことですが、早食いは身体に悪いです。
消化の効率を落とし、栄養補給の面からも良いことはありません。
しかし、自衛隊では時に極端な時間の無さを経験することになります。
それも有事に備えた訓練の一環で、決して虐めではありません多分。
日常的にそういった極端な時間の縛りを受けるわけではありませんが、とにかく慢性的に時間がないので自然と早食いを身に着けることになります。
ほぼ職業病と言ってもいいでしょう。
ちなみに最も避けなければならないのは、時間がないからと食事を抜くことです。
自衛隊は身体が資本と言われることがあるほどに、とにかく運動量の多い職場です。
教育隊では特に動きます。
その過酷な生活を支える基本となるのが三度の食事なのです。
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