日本国内で野山の文明から隔絶された環境で生き抜くスキルを持っている人はどれくらいいるでしょうか。
サバイバルと聞いて思い浮かぶ職業の一つが「自衛官」という人も多いでしょう。
自衛隊は戦争や災害時に組織的に行動できる唯一の組織です。
実際のところ、自衛官はいわゆる「サバイバル能力」が高いのでしょうか。
この記事では、サバイバルに焦点を当てた自衛官のお話をさせていただきます。
サバイバル状況とは
現代の人間は文明に守られ、そして文明を守っています。
そうすることで生活を維持し、快適さを追求しています。
サバイバル状況とは、端的に言って「文明から隔絶された状況」を指します。
例えば山で遭難した場合。
電気も水もなく、雨風を凌ぐ建物もない状況で、さらに安全の保障がされていない環境は私たち一般人に大きなストレスを与えるでしょう。
日本に住む私たちの多くは、寒くも暑くもなく、喉が渇けば水道水がいつでも出てきて、腹が減れば冷蔵庫やお店に食べ物が溢れています。
ある程度のお金さえあれば基本的に環境由来で死ぬことはありません。
端的に言えばサバイバル状況とは、これら「文明の利益が得られない環境で生存する状況」のことです。
この状況を脱し、救助もしくは文明社会に帰還するまで生き残る技術がサバイバル技術なのです。
自衛隊とサバイバルの関係
上述のような文明のない環境を想定したサバイバルにおいて、我々一般人が想定するのは災害時、あるいは遭難時の生存のための知識・技術を指すでしょう。
中には、極限状態で任務にあたる自衛隊(軍隊)のサバイバル技術やキットを参考にしたいという人もいるかもしれません。
しかし、必ずしもそれらが役に立つとは限りません。
なぜなら、自衛隊の想定するサバイバル状況が一般人のそれとは異なるからです。
自衛官の任務は国防です。
彼らに起こりうるサバイバル状況とは、敵対勢力との交戦を含めた任務を達成するための途中経過に過ぎません。
つまり、一般人の想定するサバイバルとは前提が異なるのです。
端的に言えば、自衛官の直面するサバイバル状況は、敵勢力との交戦において生き残ることなのです。
自衛官の想定するサバイバル
自衛官が陥る可能性のあるサバイバル状況は大きく分けて二つあります。
- 敵勢力との交戦状況
- 部隊から孤立した状況
大半の自衛官が直面する生命の危機は作戦状況下で発生するものであり、多くの場合は戦闘における命のやり取りです。
そもそも、自衛官は組織的に行動するのが基本であり、任務達成のために複数の人員が割り当てられ、各々の仕事をこなします。
一般人が思い浮かべるサバイバル状況は自衛隊においては当てはまらず、個人で長期間生存することが重要なのではないということを前提にする必要があります。
一般的な自衛官のサバイバル
自衛隊は陸海空で構成されていますが、その中でサバイバルに強そうなのは「陸上自衛隊」ですよね。
海自空自は「基地」という拠点があり、艦艇や航空機という人の手が加わらなければ力を発揮しない装備を運用しています。
地上勤務の隊員が孤立することは考えにくい状況です。
また、艦船が致命的な損傷を負ってしまい、乗組員が海上に脱出する場合も、多くは救命艇があり、救助まで生存できる装備がそろっています。
そうでない最悪の場合は、体を浮かべて救助を待つほかにできることはありません。
反面、陸上自衛隊はその拠点を「駐屯地」としています。
「駐屯」とは、暫定的に集まっている(たむろしている)ことを意味しており、必要に応じて移動します。
つまり、拠点の有無にかかわらず、作戦遂行能力を保有しています。
さらに、現代において市街地戦闘の重要性が上がってきているものの、日本の国土の多くは森林地帯です。
山の中では有事平時問わず文明の力が非常に薄い環境です。
そこで活動する自衛官は、一般人に比べたらアウトドア環境に慣れた人々です。
雨風にさらされ、暑さ寒さに耐え、虫や動物のような不快な存在との共存に慣れています。
しかし、そんな彼らでも、完全に孤立して活動を継続することは考えにくいです。
上述の通り、自衛隊は組織で行動します。
食べ物がなければ運ぶ。水がなければ運ぶ。困れば仲間と協力する。疲労が激しければ交代する。
こう言ったサポート体制が整っていてこそ軍事行動が可能なのです。
つまり、彼らはサバイバル技術に長けているのではなく、あくまで野外での活動に慣れた人々ということです。
現に、多くの自衛官はいわゆる「サバイバルスキル」の訓練をしていません。
彼らがしているのは「戦闘訓練」です。
その過程で野外での活動に長けているだけなのです。
戦闘機パイロットのサバイバル
航空自衛隊が配備している戦闘機のパイロットにはサバイバルキットが支給されています。
日本国内で場所の制限を受けずに行動できる戦力の一つが戦闘機です。
戦闘機は空中戦に特化した航空機であり、敵機との戦闘も行います。
あまり考えたくはありませんが、当然戦闘の結果撃墜されることもあります。
機体に致命的な損傷を負った場合、パイロットが健在であれば、墜落前にベイルアウト(緊急脱出)を行います。
ご存知の方も多いでしょうが、戦闘機の脱出装置はパイロットシートごと機外に射出する方式を取ります。
脱出したパイロットはシートに搭載された落下傘により降下していきます。
そのため、パイロット用のサバイバルキットはシートに取り付けられているのです。
航空自衛隊に与えられた任務として、日本本土に侵攻を受ける前に敵を叩くというものがあり、戦闘機が墜落するとしたら洋上であることが想定されています。
そのため、サバイバルキットは洋上で遭難した場合を想定しています。
その内容は以下の通りです。
- ゴムボート
海上で身体を保護するためのボート - サバイバルナイフ
グリップにLEDライト、鞘に釣具やファイアスターターを収納 - 救命保温具
水と反応して発熱する - 救急箱
主に外傷に対応する用品 - 海水脱塩剤
海水の塩分をろ過して飲用水に変える - 海面着色剤
海面に色を付けて救難機に発見されやすくする - 信号弾
銃のように発光体を打ち出して位置を知らせる - シグナルミラー
太陽光を反射し航空機や船舶に位置を知らせる - サメ忌避剤
周囲にサメを寄せ付けなくする薬剤 - がんばれ食(救命糧食)
保存食、水、「がんばれ、必ず助けが来る」と書かれたメッセージカード入り
特殊部隊のサバイバル
自衛隊も諸外国同様に特殊作戦に対応可能な戦力(隊員)を保有しています。
有名なところでいえば「レンジャー」です。
レンジャーについては部隊名称ではなく、自衛隊内でのMOS(資格)であり、遊撃戦に対応するための訓練課程を修了した隊員に与えられます。
特殊作戦群をはじめ、第一空挺団や水陸機動団などの特殊作戦に投入される部隊は、その多くの隊員がレンジャー有資格者で構成されています。
彼らの任務は一般部隊では達成が難しい特殊な状況が想定されており、中には少数の部隊で長期間独立して戦闘行動を行う任務も含まれます。
特殊作戦においては後方支援を十分に受けられない状況もあります。
そのため、彼らは一般部隊では訓練しないサバイバル訓練(生存自活訓練)が施されています。
よくテレビで取り上げられる蛇やカエルを調理して食べるアレです。
そもそもレンジャーは水や食料が十分でなくても活動できるよう心身ともに鍛えており、一般人とは比べ物にならない耐久力を持っています。
さらに、物資が不足するのが半ば前提の状況に投入されることから、サバイバル技術の訓練を受けています。
自然の中から飲み食いできるものを見つけ出し、体温を適切に保ち、孤立状態で肉体と精神を維持しながら作戦行動を行える隊員なのです。
まとめ
いわゆるサバイバル技術について、多くの自衛官はその習得のための訓練を受けていません。
航空機や艦船の搭乗員は撃墜等の状況において救助されるのを待つ状況になりえます。
しかし、基本的には備蓄された装備を駆使して救助まで消極的に生き続ける方針となります。
森を切り開き、食料や水を探して生き残る技術について、一部の特殊な自衛官のみが修得している技術と言えます。
とはいえ、彼らが活躍する現場というのは人里離れていたり、戦闘や災害で都市機能を失った環境であることを考えれば、
それに対応できる訓練をしている自衛官は一般人よりもサバイバル状況に慣れているといえるかもしれません。
コメント